鴨下 衛 院長の独自取材記事
鴨下眼科クリニック
(港区/六本木駅)
最終更新日:2025/11/12
六本木ヒルズ近くのオフィスビルに位置する「鴨下眼科クリニック」。1996年に開業してから30年近く、地域の眼科かかりつけ医としての役目を果たしている。2024年に前院長の鴨下泉先生が理事長に就任し、院長に任命された鴨下衛(まもる)先生は、済生会中央病院の眼科医長として多くの白内障手術や糖尿病網膜症に携わった診療経験を生かし、クリニックでも白内障手術や糖尿網膜症のフォローアップに力を注ぐ。ビルの老朽化を機に移転し、新たなスタートを切った同院。「これからの地域医療を見据えた診療で地域の皆さんに貢献していきたい」と穏やかに語る衛院長に、診療で大切にしていることや今後の展望を聞いた。
(取材日2025年10月24日)
網膜専門の医師として糖尿病網膜症の臨床や研究に尽力
眼科医を志したきっかけを教えてください。

医師をめざしたのは、学生時代にアメリカの医療ドラマを見て「かっこいいな」と憧れたのがきっかけですが、眼科医を選択したのは医師になってからです。父は眼科医でしたが、息子である私に眼科医を強く勧めることはなかったので、眼科医になろうという考えはありませんでした。そのため大学を卒業して初期研修を終えた後は、救命救急を1年間、東京医療センターで経験しました。その中で、ジェネラルに診て最終的には各科に受け渡すことが多い救命救急より、受け持った患者さまを最後まで見届けられるよう、専門的な分野を突き詰めたいという思いが強くなってきたんです。そんな時に父の専門である眼科に興味を持ち、眼科の魅力を改めて感じました。実際に父と働いてみて、普通ならとっくに定年退職をしている歳なのにやりがいを持って診療している姿に感銘を受けましたし、父が元気なうちに一緒に現場に立てたことがうれしいですね。
このクリニックに勤めるまでどのような研究や診療を行っていましたか?
慶應義塾大学の眼科医局に入局後、上司の誘いで大学院に進学し、網膜分野の研究を4年間みっちりやりました。マウスを使った網膜電図という検査を、朝から晩まで真っ暗な部屋にこもって実施していたのは今でも強く印象に残っています。その間に英文論文を4本書き、海外の勉強会にも積極的に参加しました。卒業後は慶應義塾大学病院で網膜硝子体グループに所属し、臨床および基礎研究を行いました。さらにその後勤めた済生会中央病院は糖尿病治療で知られており、糖尿病網膜症の患者さんも非常に多く、網膜分野の研究を行ってきた経験を生かすことができました。糖尿病網膜症は内科と密に連携を取りながら診療することが不可欠なので、クリニックでも糖尿病の患者さまを診療する際は内科医との情報交換を大切にしています。
クリニックには衛院長と泉理事長の他にも、眼科専門の先生が複数在籍されているそうですね。

眼科は専門分野が細分化されていて、私と理事長はどちらも網膜硝子体が専門なんです。もちろん目の疾患なら一通り診療しますが、より専門的な治療が必要な分野に関しては、その分野を専門とする先生に診ていただくようにしています。例えば緑内障や眼瞼、それから近視ですね。近年は小児の近視が増え、専門的な診療を希望される方も多い印象です。看護師や受付などのスタッフも含めると診療に関わる人間が多いですが、全員に患者さんの話をよく聞くことを大切にしてほしいと声がけし、相談しやすいクリニックであることを心がけています。その一方、当院は目に関わる症状でしたら何でも相談に乗りますが、すべての治療を無理に抱えようとはしていません。この港区には良い病院やクリニックがたくさんあるので、患者さまに専門的な治療が必要ならばその道の専門家を紹介するというのも一つの方針です。
白内障手術や訪問診療で患者のニーズに応える
クリニックで受けられる白内障手術について詳しく教えてください。

当院の白内障手術は保険診療の単焦点レンズを中心に対応しています。海外のあらゆるレンズを取り扱ったり、レーザーの機械を取りそろえたりしているわけではありませんが、一般的な白内障手術なら日帰りで受けることができます。手術日の滞在時間は、90分から120分程度です。ちなみに手術室では私の好きなクラシック音楽を流し、私だけでなく患者さまもリラックスできるような空間を意識しています。学生時代にオーケストラ部に所属してトランペットを演奏していた経験もあるんですよ。
衛院長の専門である網膜疾患はどのような診療が受けられますか。
糖尿病網膜症のフォローアップがメインですね。糖尿病網膜症は日本人の失明原因の上位にある病気で、網膜剥離のように急に見えなくなる病気とは違い、継続的な管理が重要です。症状が初期の場合は、レーザー治療や硝子体注射などで対応し、最後の手段として手術が必要な段階になったら大学病院を紹介します。手術後のフォローアップも、当院で行っています。済生会中央病院で糖尿病網膜症の治療に多く携わっていた経験から、内科との密な連携も大切にしています。糖尿病のある患者さんが目に不安を感じたら、最初に相談できる場所として気軽に利用してください。
今後は訪問診療にも力を入れていきたいとお伺いしています。

今後は院内での診療だけでなく、訪問診療を日々の診療に組み込めたらいいな、と考えています。その前段階として、月に2回程度、往診日を設けて家から出られない患者さまの所へ伺う取り組みを始めました。特に緑内障の患者さんへの往診に力を入れております。緑内障は進行性の病気なので点眼治療による眼圧コントロールが必要ですが、通院できなくなると眼圧の測定ができず、目薬の使い方もわからなくなってしまって症状が悪化する方も少なくありません。オンライン診療も一つの手段ですが、オンラインでは目の検査はできないため、得られる情報が少ないんです。手術や外来診療が忙しくてどこまで取り入れられるか模索中ですが、通院が難しい方でも必要な医療を受けられる環境を整えていきたいです。
開業医としての役目を果たすことで地域医療を支える
衛院長ご自身が目の健康のために大切にされている習慣はありますか。

スマホの画面などを長時間凝視しないことです。スマホだから悪いというのではなく、近距離で物を長時間見ていることが目の負担になります。現代は近距離で物を見ながら作業する時間が長く、目に負担がかかりやすい環境になっています。そのためデスクワークの多い患者さまにも、仕事の合間に外に出る機会をつくったり、遠くを見るような時間を設けたりするよう声をかけています。
今後の展望やチャレンジしたいことを教えてください。
地域のかかりつけ医としての基盤づくりを、より強固にしていきたいと考えています。地域医療を重要視しているのは、今後の日本の医療はもっと分業化していくと予想しているからです。大学病院や総合病院は紹介がないと受診できないようなシステムになるだろうし、大学病院でなくても治療ができる段階に移行した患者さまは、また元のクリニックに戻されていくシステムになると思います。そのため私たちのような開業医には、きちんとクリニックでできる診療を引き受け、適切なタイミングで基幹病院に紹介する。そして、その後のフォローをまた引き受ける、その仕組みづくりが重要になるでしょう。私は慶應義塾大学病院と済生会中央病院に長く勤めていたため、地域の基幹病院との関係性ができており、万が一の際に紹介しやすい環境も整っています。目の気になる症状でお困りの場合は、必要な医療を受けるための窓口だと思って気軽に頼ってください。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

当院は大学病院のような高度で専門的な診療ではなく、目で困ったことがあったら何でも相談できる、身近で親しみやすいクリニックをめざしています。基本は予約制ですが、急に目がおかしくなった、見えなくなってしまったなど困ったことがあれば、予約の有無に関わらずご相談ください。移転を機に一新した待合室は、どうしても長くなりがちな眼科の待ち時間を少しでも落ち着いて過ごしていただきたいという思いを込め、くつろげる空間を意識しました。ここに来て少しでも気持ちが楽になった、心が軽くなったと思ってもらえるように、地域のかかりつけ医として皆さまの目の健康を支えていきたいと思います。

