村林 信行 院長の独自取材記事
心療内科アーツクリニック大崎
(品川区/大崎駅)
最終更新日:2026/04/24
ここ10年ほどで、働く人のメンタルヘルスケアは企業の義務となり、精神論や根性論ではない本質的なアプローチが行われるようになった。しかし、職場で悩みを打ち明けるハードルは依然として高い。また、学生や主婦、高齢者、求職者などには、体系的で十分なケアが行き届いていないのが現実だ。世代や年代を問わず多くの人が「生きづらさ」を抱える今、誰もが平等に専門的な診断・治療を受けられるクリニックの存在価値は以前にも増して高まっているといえるだろう。2004年から大崎の地で診療する「アーツクリニック大崎」の村林信行院長は、気軽に受診できる地域の窓口として、一人ひとりの感情や考え方の癖、行動の特性などから問題解決の糸口を探る。村林院長に、近年の患者の傾向や診療方針、治療の流れなどについて聞いた。
(取材日2026年3月3日)
医師と臨床心理師が連携し、患者をサポート
駅から近く、とても利便性の良い場所にありますね。

大崎駅とコンコースで直結している大崎ニューシティのメディカルスクエア内にあり、駅からは徒歩1分ほどです。都心で暮らす人や働く人たちが不調を感じたとき、大学病院や総合病院より身近な場所で速やかに相談できる環境をつくりたいと思ってこの場所で開業しました。近隣にオフィスがあるビジネスパーソンはもちろん、学生さん、主婦の方、定年退職された方など、幅広い層の患者さんがいらっしゃいます。病院の名前で受診する方が多い大学病院や総合病院に比べて、クリニックは医師個人を信頼して相談に来てくださる方が多いのがうれしいですね。実際のところ、特別な医療機器を使わない心療内科の治療は、「人」によるところが非常に大きいんです。患者さんの信頼に応えるべく、経験豊富な医師と看護師、臨床心理師が連携して診療にあたっています。
現在の診療体制を教えてください。
私以外に非常勤の医師が3人、臨床心理師が7人在籍しています。大学時代の医局の居心地の良さを参考に職場づくりをしてきたことが良かったのか、みんな長く働いてくれているんですよ。最近では、開業からずっと一緒にやってきた臨床心理師の教え子も働いてくれるようになりました。看護師や企業の人事などでキャリアを積んだ後、メンタルヘルスに問題意識を持って臨床心理師になった人たちなので、それぞれの経験を生かして患者さんをサポートしてくれています。
開業した20年前に比べて、メンタルヘルスの治療環境にはどのような変化がありますか?

開業当初は、会社側の視点で「社員が仕事を休んで困る」という話をよく聞きました。しかし現在、企業には法律にのっとって適切なメンタルヘルス対策を行う義務があります。ストレスチェックの結果などを参考に、早期に専門家の診断を受けるようアドバイスする会社が増えたため、心身の不調を訴える社員が病院を受診するハードルは下がってきたといえるでしょう。社会的にも、「心の病気でつらい」「悩んでいる」と言いやすくなったのではないかと思います。家族や友人、同僚などに話を聞いてもらえる環境があり、励ましてもらうことで元気になれるなら、治療は必要ないかもしれません。話を聞いてもらっても心の状態が好転しない場合は、早めに専門家に相談してほしいですね。
丁寧に話を聞き、その人に合った治療方針を策定
近年受診する方に、共通する特徴があれば教えてください。

以前より受診しやすくなったといっても、大半の患者さんは「仕事に行けなくなった」「学校へ行くのが怖い」と、生きづらさが顕在化して追い込まれた状態で受診されます。また、長期にわたる不況の影響で、生き方に悩んでいる人が多いとも感じます。10代は学校関係、20代は仕事関係、40代は中年期の悩み、50代は定年前後の悩み、60代は第二の人生への適応問題など、ライフステージごとに顕在化する悩みは異なるものの、根底には希望を見いだしにくい経済情勢があるのではないでしょうか。
初めて受診した場合、どのような流れで治療が行われるのでしょう。
当院では、まず問診票をご記入いただきます。熟慮してびっしり答えを書く方もいれば、必要最低限の回答に留める人もいて、問診票だけでだいぶ個性が見えてくるんですよ。続いて、記入した問診票をもとに看護師が30~40分程度の質問を行います。ここで得た情報は医師に共有されるので、医師は事前に患者の前提情報を把握した上で診療にあたり、限られた時間を有効活用して重要なポイントに集中することができます。患者さんも、自分の状況を何度か話すことで頭が整理されるので、問題点の自覚につながりやすいでしょう。診察では、じっくり話を聞き、治療の方針を決めていきます。
治療の選択肢について教えてください。

中には、話を聞くだけで気持ちが落ち着く方もいらっしゃいますが、そうではなく、何らかの治療が必要と考えられる方は、さらに深掘りして治療方法を決めていきます。特に注意が必要なのは、脳の神経伝達物質のバランスが崩れることによる生物学的なうつ病と、環境やストレスなどによる心理的落ち込みとの見極めです。明確なストレス要因がある場合は、カウンセリングを中心とした心理的なアプローチになることが多いですね。同様に、朝は調子が悪く夕方になるにつれて改善する、夜中に頻繁に目が覚めるといった特徴的な変化がある場合は、生物学的うつ病が疑われます。明らかに薬物治療が適していると思われるケースは、最小限の薬を積極的に使用して経過を見ていくことになるでしょう。
医師と患者は、信頼し合うパートナー
患者自身が疾患を「知る」ことも重要ですね。

そうですね。例えば、激しい不安感とともに動悸、息切れ、めまいといった身体的な症状が前触れなく起こるパニック発作は、短時間でピークに達して次第に落ち着いていきます。起きた瞬間の症状は非常に強烈で恐怖を感じますが、「しばらくすれば自然に治まる」とわかっていれば必要以上に焦らずに済むでしょう。また起こるのではないか、という心配から常に薬を持ち歩き、症状が出そうになったら服用するという薬への依存からも逃れることができます。症状が出る前に薬を飲む習慣が定着してしまうと、症状が起こる前にあらかじめ飲んでおこうとしたり、薬がないと外出できなくなったり、かえって不安感を強める結果にもなりかねません。病気の特徴や対処法を丁寧に説明し、うまく付き合いながら治療をしていってほしいと思っています。
診療で心がけていることを教えてください。
やはり、お話をじっくり聞くことです。心療内科の医師にとって、患者さんとの対話は聴診器のようなもの。患者さんの言葉の端々に耳を澄ませ、そこに込められた意味を考えていくことによって、感情や考え方の癖、行動の特徴などが見えてきます。なぜかうまくいかない、他人に理解してもらえないといった患者さんの訴えの原因も、そこに隠れていることが少なくありません。一緒に原因を見つけ、一緒に治していく。それが心療内科の役割です。患者さんとは、医師が一方的に指導する上下関係ではなく、互いに信頼し合うプレイヤーとコーチのようなパートナー関係を築いていきたいですね。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

年齢を重ねて第一線を退く仲間も増えてきました。規模の縮小は避けられませんが、これまで築いてきた患者さんとの信頼関係を大切に、深く話し合える空間を守っていきたいと思っています。緊張感を持って受診される方も多いと思いますが、ボクシングや旅行、歴史といった私の趣味が糸口になって、患者さんと雑談の花が咲くこともあるんですよ(笑)。カウンセリングは行動や考え方の癖を直すためのレッスンだと思って、ピアノや英会話に通うような気持ちで受診していただきたいですね。安定した職場環境を維持し、患者さんにとって安心できる治療空間の提供に努めてまいりますので、気軽にご相談にいらしてください。

