高沢 悟 院長の独自取材記事
向ヶ丘メンタルクリニック
(川崎市多摩区/向ヶ丘遊園駅)
最終更新日:2026/07/31
小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩3分のビル3階にある「向ヶ丘メンタルクリニック」。約30年の歴史を持つ同院を2026年6月に継承し、新たに院長に就任したのが高沢悟先生だ。大学時代の恩師にあたる前院長の診療姿勢を受け継ぎつつ、自身は大学病院や総合病院、精神科病院の院長など多様な現場で培った経験を携えてこの地に立つ。クリニックのロゴマークに「RECOVERY」の文字を掲げ、患者の生活に目を向け、その人ならではの立ち直りを一緒に考えることを診療の核に据える。優しく穏やかな語り口の中に、どんな相手にもリスペクトを持って接するという揺るぎない信念がにじむ。この地域で腰を据えて歩んでいきたいと語る高沢院長に、リカバリーを軸にした診療の思いを聞いた。
(取材日2026年7月14日)
恩師の志を受け継ぎ、多彩な経験を携えてこの地へ
まずは、こちらのクリニックを引き継がれた経緯をお聞かせください。

前院長先生は、私が帝京大学に在籍していた時に精神病理などを指導してくださった恩師にあたります。患者さんの話をしっかり聞くことを大切にされる姿勢や薬物治療に慎重なスタンスなど、診療のスタイルに共通する部分が多く、以前から深いご縁のある先生でした。私自身、以前は関東でクリニックの院長をしていた時期もあるのですが、その後は地方の精神科病院に移りそこで長く院長を務めておりました。今回、前院長が後継者を探しておられるということでお話をいただき、縁が重なる形で継承に至りました。これからはこの地域で腰を据えて、自分なりのスタイルで診療を続けていきたいと考えています。
先生が精神科の医師を志されたきっかけを教えてください。
実家が茨城県水戸市にある精神科の病院で、父が精神科医でした。現在は兄も精神科医として働いています。家の隣が病棟でしたので、子どもの頃から窓越しに病棟の脇を通って学校に行くような日常でした。精神医療が生活の中に自然とあったことは、今思えば大きな原体験だったのかもしれません。学生時代には哲学や心理学、人間の心というものに興味を持っていました。そうした経緯で精神科の医師になりましたが、ゆったりとした時間の中で患者さんの話にじっくり耳を傾ける形の診療は、自分の性格に合っていたのだと思います。
これまでのご経験についてもお聞かせいただけますか。

帝京大学では脳波を用いた言語処理の研究に携わり、文部省の学際的な研究プロジェクトにも参加させていただきました。帝京大学医学部附属溝口病院にも勤務していましたので、同じ川崎市であるこの地域には土地勘があります。また、日本赤十字社医療センターでは他の診療科の先生方と連携し、原因のわかりにくい慢性的な痛みに苦しむ方のための治療チームをつくった経験もあります。その後、実家の精神科病院で長期入院の方の退院支援に取り組み、愛知県の犬山病院では約12年にわたり院長を務めました。同院では看護部と協力して身体拘束をしない方針を打ち出し、組織全体で実現。さらに、精神疾患を経験された方をピアスタッフとして雇用するなど、さまざまな経験を積んでまいりました。
「リカバリー」を軸に、困り事に寄り添う診療を
先生が診療で大切にされているのはどのような考え方ですか?

当院のロゴマークにはあえて「RECOVERY」という文字を入れています。精神科におけるリカバリーとは、苦しくなるようなことがあって転んだとしても、また立ち上がって歩き出せばいいということなんですね。つらさを症状やマイナス面だけで捉えてしまうと、その方が歩んできた人生や大切にしているものが見えなくなってしまうことがあります。ですので、その方がどんな人生を思い描いて生きてきて、どこでつまずいたのか、そこに目を向けることを大切にしています。そしてリカバリーは一人ではできません。誰かが手を差し伸べたり背中を押してくれたりする体験があって初めて、もう一回歩き出そうという気持ちになれるのだと思います。認知症の方であっても、そこで終わりではなく、その方なりのリカバリーが始まると考えています。
患者さんやご家族に接する際に心がけていることはありますか。
まずはその方が何に困っていらっしゃるのかをしっかり聞くことから始めます。診断名がつくかどうかは二の次で、ライフスタイルや価値観に合った解決策を一緒に考えていくことが大切だと思っています。解決策は薬だけとは限らず、カウンセリングや環境の調整、場合によっては法律の専門家をご紹介することもあります。どんな方でも一生懸命に生きてこられた方ですので、相手に対するリスペクトを忘れないようにと肝に銘じています。ご家族に対しても同じです。ご家族もある意味では当事者であり、懸命に努力を重ねておられます。病気に目が向くあまり、ご家族が置き去りになってしまうようなこともありますので、そうした方のつらさにもきちんと目を配りたいと考えています。
どのような方が相談に来られていますか。

前院長から引き継いだ患者さんは50代から80代の方が中心です。一方、新しくいらっしゃる方は20代、30代が多く、高校生や大学生も含め、幅広い年代の方が通われています。疾患としてはうつや不安障害のほか、比較的安定した統合失調症や強迫症、うつとの見分けが難しい双極症の方もいらっしゃいます。病気かどうかわからなくても、何かに困っている、助けてほしいという思いがあればぜひご相談ください。一人ひとりの困り事に丁寧に向き合い、その方らしい歩み出しを支えていきたいと考えています。
つらいと感じたときに気軽に相談できる場所をめざして
このクリニックを、今後どのように育てていきたいとお考えですか。

前院長先生は、患者さんの話にじっくり耳を傾ける先生だったのだと思います。お薬も過度に出さず、最小限の量で処方されていたなと感じることが多く、その姿勢は大切に引き継いでいきたいと思っています。私も、患者さんのお話を丁寧に伺うことで、その中に多くの解決の糸口が見えてくるものだと考えています。一方で、今後さらに力を入れていきたいのが地域のネットワークづくりです。学校や行政に加え、地域包括ケアの取り組みも進む中で、カウンセリング機関や相談センター、福祉関連団体など、多様な機関との連携を改めて築き、より充実させていきたいと考えています。
患者さんを支えるための取り組みについてお聞かせください。
当院は今のところ私と受付スタッフという小さな体制です。だからこそクリニックの中で完結するのではなく、地域にある施設や団体との横のつながりを大切にしたいと考えています。また、将来的にはピアスタッフ、つまりご自身が精神疾患を経験し、そこから立ち直ってきた方をクリニックに迎えることも視野に入れています。自分が体験したことがそのまま専門性につながるというのは、私たち医療者にはまねのできない部分です。ピアスタッフのアプローチに可能性を感じてきましたので、そうした力をネットワークの中で生かしていけたらと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

問題の解決は難しいことが多いです。けれど、すぐに解決できなくても、一緒に悩みながら考えていけば意味づけは変わっていきます。病気かどうかはっきりしなくても、何かつらいなと感じたときに気軽に相談できる場所でありたいですね。私自身、猫を3匹飼っていますが、猫を見ていると、もう少し気楽でいいのかもしれないと感じることがあります。皆さんにも少し肩の力を抜いて来ていただけるよう、院内では穏やかな音楽を小さな音で流しています。お困りの際はお気軽にご相談ください。

