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竹井 清純 院長の独自取材記事

PHCおぎくぼ在宅診療所

(杉並区/荻窪駅)

最終更新日:2026/08/31

竹井清純院長 PHCおぎくぼ在宅診療所 main

荻窪駅から徒歩5分、れんが調の洋館風マンションの1階に「PHCおぎくぼ在宅診療所」はある。ナチュラルウッドを基調とした院内には、書斎のような温かさが漂う。竹井清純院長は、外科医として研鑽を積んだ後、緩和ケア病棟で長年にわたり終末期医療に携わり、2026年に同院を開業した。「初診が一番大切」と語る竹井院長は、初回は時間をかけて診察を行い、患者や家族との信頼関係を築く。患者の希望を軸に診療方針を考え、家族の健康にも心を配る穏やかな人柄が印象的だ。がんに限らず幅広い疾患に対応する同院の在宅医療について、竹井院長に詳しく話を聞いた。

(取材日2026年8月5日)

自宅でその人らしく。緩和ケア経験を生かした訪問診療

患者さんのご自宅を訪問する中で、病院との違いを感じることはありますか。

竹井清純院長 PHCおぎくぼ在宅診療所1

私は緩和ケア病棟に長く携わってきました。緩和ケア病棟では病室を患者さんのご自宅と考えてきたため、在宅医療はその延長線上にあると捉えています。ただご自宅に戻ると表情がガラッと変わり、リラックスされる方が多いのです。病院で遠慮していた方も、ご自宅では普段の会話が増え、その人らしさが見えてきます。病院では医師からの提案を患者さんが受け入れる形になりやすい一方、ご自宅では患者さんと医療者がさらに対等になるように思います。患者さんやご家族の思いを伺いながら、患者さんにとって最善の選択となるように着地点を探していくことが、在宅医療では大切なことです。

外科や緩和ケアのご経験は、在宅での診療にどう生かされていますか。

外科医としての経験で特に生きているのは、ご自宅でけがをした方の縫合や、褥瘡の壊死した組織を取り除く処置、胸腹水穿刺などに対応できることです。外科では手術前に画像で病態を評価し、手術で実際の状態を確かめた後に振り返ります。その積み重ねによって、画像から症状の原因を考える力を鍛えてきました。現在の診療でも患者さんの苦痛症状と画像診断を結びつけ、しっかりと病態を理解することでより良い症状コントロールにつなげています。緩和ケアについては、六甲病院で臨床研修を受けた際に「症状コントロールを図ることで初めて緩和ケアが始まる」と教わりました。対象となるのは痛みだけではありません。心と体の両方の側面から苦痛の全体像を捉え、原因を探りながら患者さんやご家族の生活を支える必要があります。

初めて患者さんのもとを訪れる際に、心がけていることを教えてください。

竹井清純院長 PHCおぎくぼ在宅診療所2

初診が一番大切だと考えています。通常でも1時間以上、長い場合は2時間ほどかけ、これまでの検査結果や治療経過を整理し苦痛症状の評価と診察を行い、ご説明します。そこで、症状と病態の関係をひもづけ、今後起こり得る変化や対処方法もお伝えします。そうすることで、自己コントロール感が出て、体調が変化しても一呼吸置いて対応しやすくなります。信頼関係を築き、納得と安心を重ね、「最後まで自宅にいたい」と希望していただける医療が理想です。

患者の思いを軸に、家族と多職種でつくる在宅医療

在宅医療の診療方針は、どのように決めていらっしゃるのですか。

竹井清純院長 PHCおぎくぼ在宅診療所3

まずは症状のコントロールを図り、患者さんがどのように過ごしたいのかを伺った上で、必要な医療を考えます。患者さんとご家族の希望にギャップがある場合は、皆さんで話し合う場を設けることもあります。厳しい現状も率直に伝え、それぞれの思いを言葉にしながら共通の目標を探るのです。これまでの治療の経緯なども踏まえながら、患者さんのお気持ちを受け止め、ご自宅で苦痛をできるだけ抑えて過ごすことが見込めるのであれば在宅医療を、難しいと考えられる場合は病院での治療も提案し、ご本人が納得できる選択肢を一緒に探ります。

在宅医療を続けていく上で、欠かせないと感じることはありますか。

在宅医療では、患者さんの症状だけでなく、介護するご家族の健康も重要です。ご家族が体調を崩せば、在宅医療の継続が難しくなります。ご家族がきちんと眠れているか、食事を取れているかなどにも目を向け、体調が気になる場合には声をかけるようにしています。また、遠方に住んでいるなどの理由で診察に同席できないご家族には、ビデオ通話やチャットツールを使って診療内容を報告しています。疑問を次の診察まで抱えると、不安が膨らむこともあるので、思い立った時に連絡してもらうようにしています。できるだけ早く疑問を解消することで、離れて暮らすご家族にも患者さんの状況が理解しやすくなります。介護する方が一人で抱え込まずに済む環境を整えることも、在宅医療に携わる私たちの仕事です。

訪問看護師や薬剤師など、他の職種とはどのように連携されていますか。

竹井清純院長 PHCおぎくぼ在宅診療所4

電子ツールを使って日頃から情報を共有し、タイミングが合えば一緒に訪問して患者さんの様子を確認しています。診察中の何げない一言や、ご家族から聞いた話をもとに、必要な支援を考えることも少なくありません。例えば移動が難しくなった場合は、ケアマネジャーに手すりや介護ベッドの導入を相談し、生活上の困り事をサービスにつなげます。薬剤師との連携では、残っている薬や実際の服薬状況を確認してもらいます。在宅医療では体調や食事によって服薬にばらつきが生じるのが実情です。その場合は薬剤師と相談し、服薬回数を減らしたり、飲み込みやすい剤形に変更したりと、患者さんの生活に合った方法を検討します。制度やサービスについて十分に知らないために、諦めてしまっている方もいらっしゃるでしょう。私たちは各専門職と連携しながらさまざまな選択肢をご提案し、その方らしい暮らしやご希望に近い生活を実現できるようお手伝いしていきます。

「人を想い人を育てる医療」で、希望の実現をめざす

医療に携わる中で、先生の根底にある思いを教えてください。

竹井清純院長 PHCおぎくぼ在宅診療所5

私が理念として掲げているのは「人を想い人を育てる医療」です。その根底にあるのは、人間は亡くなる瞬間まで成長し続ける存在だという考えです。私たちも、一人ひとり異なる患者さんやご家族と向き合う中で、技術的にも人間的にも成長していきます。患者さんは自身の苦痛や体の衰えと向き合います。また、ご家族も最初は戸惑いながら、体を拭いたり褥瘡をケアしたりする方法を身につけていくため、それも一つの変化といえるでしょう。人が亡くなるまでの過程は、残される人に多くのことを教えてくれるものです。私たちがご本人やご家族と関われる時間は限られており、悲しみを取り除いてあげることはできません。それでも、一瞬一瞬に誠意をもって向き合うことで、何年かたってから「あのときの言葉には、こういう意味があったのか」と気づいてもらえることがあります。その気づきが、患者さんやご家族、そして私たち自身の成長につながると考えています。

どんな患者さんの診療に対応されていますか。

神経難病や慢性心不全をはじめ、慢性疾患の相談にも対応しています。がんの診療を通じて培ってきた緩和ケアの考え方は、症状との向き合い方やご家族への配慮も含め、さまざまな疾患に通じるものです。当院では、がんの患者さんを対象とした外来も設けています。また外来だけではなく、通院がつらい方や、治療中の不安をじっくり聞いてほしいという方も少なくありません。緩和ケアを勧められたものの、まだ受け入れられないという方には、まず外来に通っていただき、少しずつ関係を築いています。訪問診療は治療が終わった方や、終末期の方だけが利用するものではありません。抗がん剤治療を続けながら、並行して訪問診療を受けることもできます。当院では、専門的な内容も伝わらなければ意味がないと考え、わかりやすい表現を心がけています。

在宅医療を検討されている方へメッセージをお願いします。

竹井清純院長 PHCおぎくぼ在宅診療所6

まず知っていただきたいのは、訪問診療を利用すれば、ご自宅にいながら医療を受けられるということです。がんの治療が難しくなったら緩和ケア病棟に入るしかないと考えている方もいらっしゃるでしょう。しかし、どこで、どのように過ごしたいかによっては、在宅医療を選ぶ道もあります。いざというときにどうしたいのかを、ご本人とご家族で普段から話し合っておくことも大切です。遠慮せず、困っていることや希望を、まずは口にしてみてください。利用できる制度や方法を知らないために、本当は利用できる支援があっても諦めていることがあるかもしれません。緩和ケアがめざすものの一つは、希望の実現です。症状の緩和をめざすことだけをゴールにせず、その方が人生をどう過ごしたいのかを一緒に考え、そのために医療を活用していくことが重要だと考えています。