竹内 真弓 院長の独自取材記事
まゆ こころのクリニック
(渋谷区/幡ヶ谷駅)
最終更新日:2026/07/24
京王線幡ヶ谷駅から徒歩8分。甲州街道から路地に入った静かな場所に「まゆ こころのクリニック」はある。院長の竹内真弓先生が開業したのは2026年春。足を踏み入れると、穏やかなピンクの壁と大きな窓、豊かな緑が出迎え、弧を描く壁に受付へと自然と導かれる。芸術などの働きに着目し、心と体、思考のバランスが取れた全人的な人を育むことをめざすシュタイナー理論とアントロポゾフィー医学の発想を、診療のみならず院内空間にも取り入れている。竹内先生は薬に頼りすぎない治療を信条とし、患者の生活全体に着目する「生活臨床」などを軸にトラウマや統合失調症など幅広い心の悩みに向き合っている。音楽や水彩による芸術療法にも注目し、「人間には治る力があるのです」と穏やかに語る竹内先生に、診療の背景にある思いまでじっくり聞いた。
(取材日2026年6月16日)
心を包む「まゆ」のように安心できる場をめざして
クリニック名の「まゆ」には特別な思いが込められているそうですね。

長年病院に勤める中で、学んできたさまざまな理論やアントロポゾフィー医学に基づく芸術療法の発想を取り入れたいという思いを温めてきました。アントロポゾフィー医学とは、心と体、思考のバランスが取れた全人的な人を育むことをめざすものです。クリニック名の「まゆ」には私の名前の一部と、シルクのまゆの意味を重ねているのですが、まゆは太陽の光を取り入れて中で変容する象徴であり、心の中に自分だけの安全地帯をつくって力を蓄え、もういいと思えたら自分から社会へ羽ばたいていく。そんな願いを込めて、診察室は「いとぐち」、処置室は「つくろい」、カウンセリング室は「つむぎ」、多目的ホールは「はばたきホール」と名づけました。
院内に入ると、ほっとするような温かさを感じます。
院内設計は、同じくシュタイナー理論で設計されている一級建築士にお願いしました。当院にどんな方が来るのか、来院したとき何を受け取るのか、そういった話し合いを重ねながら、つくり上げていきました。壁は穏やかなピンクやイエローのグラデーションで、奥に進む不安を軽減するような配色にしています。暖色の診察室はあたたかみを感じて心身の緊張を和らげ、ブルーの部屋は気持ちを落ち着かせる働きがあるといわれます。壁はほぼすべてしっくい、揮発性の素材はほとんど使っていないので、空気が清潔に感じるのではないでしょうか。院内にはさまざまな部分にカーブが用いられていますが、その一つ一つに意味があるんです。部屋は全体に無駄のない設計となっています。
先生はいつから精神科医をめざされたのですか?

幼い頃から人の権利について考えることが多く、小学校に上がる頃にはもう精神科医になると決めていました。研修時代には外科や小児科など複数の科を回りましたが、志は一貫して精神科です。特に精神科の開放病棟での研修は大きな経験でした。閉じ込めない、縛らないという方針のもと、職種の垣根を越えてチームで患者さんを支える医療を学んだんです。患者さんの行動の理由をみんなで話し合い、あらゆるスタッフの視点を持ち寄るという経験は、今の治療の土台になっています。患者さんの生活や人生の中で、関係性の意味を捉える「生活臨床」という考え方は、今は取り組んでいる方が少ないですが、大切にしている発想ですね。東京都の公務に従事する医師として、虐待の予防支援にも携わった経験も、今に生きています。
薬だけに頼らず家族療法などで多角的にアプローチ
どのような悩みに対応されているのでしょうか。

統合失調症、トラウマ、うつ、発達障害など幅広い心の病気や障害に対応していますが、あまり病名だけを重視する見方はしていません。大事なのはお一人お一人の状態をしっかりと見つめ、深い傷を抱えた方が安心して話せる環境を整えることだと考えています。そのためにも当院は、完全予約制とし、初診には60分ほどかけて生活の背景やご家族の歴史なども丁寧に伺っていきます。開業して驚いたのですが、看板を見てふらっと訪ねてくる方もいらっしゃいます。以前は精神科に通うことを知られたくなくて遠くの病院を選ぶ方がほとんどでしたから、時代は変わったなと感じます。最近は、内科の先生から精神科の受診を勧められて来られる方も増えていますね。
ご家族との関わりも大切にされているそうですね。
はい。大事にしていることの一つに家族療法的視点があります。家族療法は「家族の誰か一人」だけを見るのではなく、「家族全体の関係のあり方」に注目する方法です。家族間の力関係などのバランスを調整し、良い方向に導くことをめざします。例えば不登校のお子さんがいるとき、ご両親への働きかけを通じてお子さんご本人に変化が起きることがあります。親御さんはお子さんを心配して来られますが、ご本人に対してだけではなく、ご家族の心理的支援をします。ご家族への支援によって関係性のバランスが影響されると、お子さんご本人が楽になることがあります。不登校の解決の形も一つではなくて、例えば学校以外の道で人生の指針ができて、本人は自信をもてるようになればそれでいいと考えています。
お薬についてのお考えをお聞かせください。

必要な方にもちろん処方します。お薬は治療の道具の一つという視点に立ち、それだけで終わりにしない診療をめざしています。お薬だけに頼るのではなく、人間にはまだまだ自ら回復する力があるということを大切にしたいんです。ヨーロッパでは今、お薬に頼りすぎない方向が新しい流れとなっています。当院でも、面接による対話や生活の視点、芸術や運動など、多角的なアプローチを組み合わせていきたいと考えています。限られた時間の中で、継続的に「今日は何を話すか」を大事にしています。何をどれくらいの期間続けるかといった治療の方針は、患者さんと話し合いながら一緒に決めていきます。
芸術の力も借り、チーム医療で心の回復へ
多目的ホールではどのような取り組みをされていますか。

「はばたきホール」という多目的ホールでは、各種支援団体とのカンファレンス、音楽を使った講座、疾病教育のための音の響きまで計算して設計しました。またアメリカでは、うつの治療にまず運動が推奨されます。ですが、ただ単に運動しなさいと言われてもなかなか実践にはつながらないものですよね。そこで、少人数でのストレッチ教室も始めました。実は私のいとこが、アメリカの精神科の急性期病棟で米国認定音楽療法士として働いていまして、情報交換をしているので、それを診療にも生かしていけたらと考えています。東日本大震災の後にはボランティアで芸術療法の支援を行い、その可能性を感じました。あの経験が、今の取り組みの原動力になっています。
診療を支えるスタッフの方々について伺えますか?
私が大事にしているのは、職種の壁のないチーム医療です。かつて開放病棟で学んだのは、患者さんを一番よく知っているのは身近なスタッフだということ。全員の視点を持ち寄って支えていくことを心がけています。また、まだ公認心理師さんはいらっしゃいませんが、カウンセリングも導入していく予定です。日本ではまだあまりご存じでない方も多いかもしれませんが、公認心理師さんによる認知行動療法も保険診療が認められるようになりました。スタッフの働き方も大切にしています。職員がちゃんと休めて、早く帰れる環境でなければ、患者さんにもいい対応はできませんからね。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

地域に根差しながら、じんわりと当院の存在が広まっていけばうれしいですね。都で働いた経験から、行政の支援制度も把握しています。必要な方にはそうした情報もお伝えしていますので、ぜひご相談ください。また、芸術療法に着目した治療について、皆さんに正しくご理解いただけるよう努めていきたいと思います。心の悩みは、社会や家族との関わりの中で良くも悪くもなるもの。予約を入れただけで少し安心し、眠れるようになったとおっしゃる方もおられます。一人で抱え込まず、気になったときに頼れる場所があると知っていただけたら幸いです。

