中嶌 孝浩 院長の独自取材記事
うつぐみ在宅クリニック
(横須賀市/北久里浜駅)
最終更新日:2026/05/15
横須賀市佐原の地を拠点に、三浦半島全域にわたって活動する「うつぐみ在宅クリニック」。院長を務める中嶌孝浩先生は、一度は別の道に進んだが、30歳にして医師になることを決意。医学部を卒業後、研修医時代に在宅医療を志すようになり、神奈川県内の在宅医療専門クリニックにて研鑽。そして2026年4月、同院の開業に至った。もともと祖母が亡くなる時に何もできなかった経験から、患者に寄り添う医師になりたいとの想いをずっと持っていたそうだ。「ストレートに医師になった人と比べて、長く一般人であったからこそ、患者さんやご家族の気持ちや不安がよく理解できるのが、私の強みだと思っています」。親しみやすい人柄と穏やかな語り口も印象的な中嶌院長に、在宅医療を志した経緯や開業への想い、重視する地域連携などについて尋ねた。
(取材日2026年4月21日)
「協力し合う」を意味する「うつぐみ」で地域を支える
院名が印象的ですが、どういう意味なのでしょうか?

「うつぐみ」というのは、沖縄の竹富島の言葉で「皆で一致団結して協力し合うこと」というような意味です。これは、医療にとってはとても大切なことですし、特に在宅医療では地域の多職種や関係機関が協力していくこと、連携していくことが重要なので、この言葉を選びました。この地域は高齢者の方が多く、医療機関が支えきれていない状況があります。病院や地域の多職種の方々はもちろん、在宅医療を扱う他のクリニックの先生方とも仲良く協力しながら診療に取り組んでいきたいと考えています。
どうして在宅医療を手がけるようになったのですか?
実は、私はストレートに医学部に進んだわけではなく、慶應義塾大学理工学部で化学を学んで起業していたのですが、32歳で聖マリアンナ医科大学に入学したのです。そもそも昔、祖母が亡くなった時に何もできなかったことが悔しくて、自分で何かできるようになりたいという想いをずっと持っていて、30歳の時に、やはり医師になろうと決めたのです。そこから高校生に混じって予備校に通い(笑)、必死で勉強して医学部に入ったわけです。卒業後は「横須賀市立うわまち病院(現・横須賀市立総合医療センター)」で研修医として過ごしました。その頃に、青森県で地域医療を経験する中で在宅医療に出合い、自分が思い描いていた医療に近いと思い、その後、在宅医療専門のクリニックに勤務しました。
この地で開業されるまでの経緯についても教えてください。

勤務医として6年間在宅医療に取り組み、やりがいは感じていましたが、やはり自分の思い通りにはいかないことも多く、自分の責任で理想的な診療を行いたいという想いが募りました。患者さん一人ひとりに向き合って、じっくり、ゆっくり診療をしたいという気持ちが強かったのですね。この地を選んだのは、地元という理由からです。生まれは横浜市ですが、12歳からずっと横須賀市で暮らしています。この地域では、ある程度高齢者を支える仕組みができてはいるのですが、超高齢化の中で、高齢者への医療サービスや相談窓口の拡充といったことが、これまで以上に求められると思います。それこそ「うつぐみ」の精神で、皆で協力して対応していくことが必要になってくると考えて当院を開業しました。
患者や家族との信頼関係を大切に温かい医療を心がける
こちらで行う在宅医療について、具体的に教えてください。

横須賀市・三浦市・葉山町・逗子市など三浦半島全域を対象に、高齢の方や、がんの終末期などで通院困難になってきた方に対して、居宅もしくは高齢者施設などで可能な範囲の医療を提供しています。地域のケアマネジャーさんなどからの紹介が多く、ご家族からの相談もあります。診療では定期的な訪問診療と、急変時などに24時間365日体制で対応する往診を行います。訪問診療では、体調管理や検査、薬の処方、ワクチン接種なども行います。
在宅医療を行う上で、大切にしていることを教えてください。
患者さんやご家族としっかり向き合って、できるだけそのご希望に沿うような医療を提供し、信頼関係を築き、長いお付き合いをしていきたいと思っています。在宅医療を希望される方が急増する中で、どうしても診療時間が短くなったり、患者さんやご家族にしっかり向き合えなかったりすることも少なくない現状が一般的にはあります。しかし、私は皆さんの疑問や不安に丁寧に答えて安心していただけるように、温かい医療を心がけています。コミュニケーションが重要になってきますので、ちょっとした世間話なども大切にするようにしています。まだお元気だけれど歩くのが不自由になって通院困難になったような方などと良い関係を築いて、健康を守っていくことにもやりがいを感じますし、がんの終末期の方や難病の方にもしっかり寄り添っていきたいと思っています。
診療面での特徴について教えてください。

専門は内科ですが、6年間在宅医療一筋で研鑽を積んできましたので、褥瘡(床ずれ)をはじめとする皮膚のトラブルのほかに、整形外科や眼科的な悩みなど、幅広く対応することができます。また、祖母が亡くなった時に医師から説明もされたのですが、何が起こっているのか、それが何を意味するかも理解できなかったのです。その経験から、患者さんやご家族には、しつこいぐらいにわかりすく説明することが必要だと思っています。加えて、私は回り道をして医師になったことから、医療関係者ではない一般人であった期間が長いので「何がわからないか、わからない」というような患者さんやご家族の気持ちがよくわかるんです。それも強みだと思っています。回り道をして医師になった自分だからこそ、わかること、できることもあると思いますので、それにしっかり対応していくのが私の役目だと思っています。
重篤になったり家族が疲弊したりする前に、ぜひ相談を
在宅医療に取り組む立場から、地域の課題をどのように捉えていますか?

この地域は「横須賀市立総合医療センター」をはじめ「横須賀共済病院」「横須賀市立市民病院」「よこすか浦賀病院」「衣笠病院」「三浦市立病院」など医療機関が比較的多いのですが、超高齢化が進んでいる地域なので、どの病院も患者さんがとても多く、医療者の側も負担が大きいですし、苦労されている患者さんやご家族も少なくありません。その中で、私たちがプライマリケアとして対応できるものは対応して、医療連携によって、病院と、患者さんやご家族の負担を軽減していくことが重要だと思っています。今は、各病院や地域の専門職、関係機関などを回り、顔の見える関係づくりに取り組んでいるところです。
今後の展望について聞かせてください。
自分の理想の在宅医療を実現できるような環境がやっと整ったので、これから、どのように地域の皆さんに役立つことができるのか、それを考えていきたいと思っています。一度も受診したことのない患者さんでも、もし夜中に困ったことがあったら、お電話をいただければとりあえず駆けつけることもできます。契約をせずいきなり診療に伺うのは、通常の訪問診療のスタイルとは異なりますが、困っている方がいれば、すぐに駆けつけたいと思っています。また、在宅医療では看取りを経験することも少なくありません。良い関係を築けて長い間診療してきた方がだんだん弱られていくのはとてもつらいことですが、だからこそ日々の診療の中で、その方に今提供できる医療を全力で行いたいと思っています。
最後に、地域の皆さんへのメッセージをお願いします。

高齢の方や療養生活を送られている方で、医療的なことに限らず、生活や介護、福祉制度の問題も含めて、何かお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。患者さんの状態を把握した上で、患者さんやご家族のご希望に沿うかたちで、適切な在宅医療の計画を立てさせていただきます。在宅医療を依頼するのはハードルが低くはないかと思いますが、患者さんの体調がとても悪くなったり、ご家族が疲弊されたりする前に、ぜひご相談いただきたいと思います。また、訪問診療の際、ご自宅のほうで何か準備していただく必要はありません。なるべくご家族に立ち会っていただきたいですが、症状が安定していたり、ご本人がしっかりされていたりという場合は、患者さんだけでも大丈夫です。介護されているご家族を支えていくのも私たちの役目ですから、ご家族に負担をかけるようでは訪問診療の意味がないと考えています。安心して頼っていただきたいです。

