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川本 英嗣 院長の独自取材記事

津かわもと救急・内科クリニック

(津市/一身田駅)

最終更新日:2026/07/31

川本英嗣院長 津かわもと救急・内科クリニック main

JR紀勢本線一身田駅から徒歩5分。学校や住宅が並ぶ津市の一角に、2026年3月、白を基調とした明るい外観の「津かわもと救急・内科クリニック」が開院した。院長の川本英嗣先生は、三重大学で救命救急や集中治療に長年携わってきたエキスパートだ。高校時代、勉強を教わった恩師を心臓の病気で突然失い、地元の救急医療に貢献したいと医師を志した。各地で研鑽を積み、育ててくれた津市への恩返しとして開業を決意。救急患者の9割は適切に診断すれば帰宅できるとの考えのもと、CTを備えた一次救急の拠点を地域につくった。日曜診療やICU退室後の不調に寄り添う外来など独自の取り組みも光る。「身構えず、風邪や胃腸炎を診るクリニックと同じだと思ってください」と穏やかに話す川本先生に、その志を聞いた。

(取材日2026年4月9日)

恩師への思いを胸に、救急医療を街へ届ける

先生が医師を志されたきっかけを教えてください。

川本英嗣院長 津かわもと救急・内科クリニック1

高校時代は数学が好きで、将来は数学者になりたいと思っていました。ところが、塾で勉強を教えてくださっていた恩師が、心臓の病気で急に亡くなられたのです。その出来事をきっかけに、地元・津市の救急医療に携わりたいという思いが生まれました。富山大学を卒業して中部労災病院で初期研修を始めた頃は、実は内科の医師をめざしていたんですよ。ただ、当直で重症の患者さんが運ばれてくるたびに、懸命に処置にあたる麻酔科や救急の先生たちの姿を見て、自然とそちらの道に進んでいました。聖マリアンナ医科大学や三重大学でさらに研鑽を積み、各地の先生方には今も感謝しています。いろいろな場所で学んだ上で、最終的には地元に戻って恩返しをしたい。その思いはずっと変わりませんでした。

どのようなクリニックをめざして開業されたのですか。

救急というと病院のイメージが強いと思いますが、実は救急患者さんの9割は、適切に診断すれば自宅に帰れる方々だと思っています。その9割を適切に診て、本当に高度な医療が必要な残り1割だけを二次・三次の病院につなぐ。それが一次救急の役割であり、高度医療機関の負担を減らすことにもなります。CTを備えたクリニックであれば診断の幅が広がりますから、そういう場を地元につくろうと考えました。大学病院に勤めていた頃、患者さんやご家族から「日曜日に開いているクリニックが欲しい」という声を何度も聞いていたことも、後押しになりましたね。他の場所を勧められても、気持ちは動きません。やるなら、育ててもらったこの津市でという思いは最初から変わりませんでした。

実際に来院される患者さんについて教えてください。

川本英嗣院長 津かわもと救急・内科クリニック2

「重症じゃないと、かかれないんですか」とよく聞かれますが、風邪や胃腸炎を診るクリニックだと思っていただいて構いません。捻挫やちょっとした骨折でも気軽に来ていただきたいですね。ただ、開業してみて驚いたのは、予想以上に脳梗塞や心筋梗塞、虫垂炎の恐れのある中等症の方が歩いて来院されることです。三重県は日曜日に開いているクリニックが少ない分、行き場のなかった患者さんがここを頼ってくださっているのだと感じます。年齢層も幅広く、生後数ヵ月の赤ちゃんから90代の方までいらっしゃいますし、目の前の学校から体育中のケガで駆け込む生徒さんもいます。「日曜日に開いていてうれしい」という声を頂くたびに、このクリニックを始めて良かったと実感しますね。

適切な診断で見極め、ICU退室後の暮らしまで支える

診断のための検査体制について教えてください。

川本英嗣院長 津かわもと救急・内科クリニック3

当院のCTは、救急科ならではの「適切な診断」のために導入しました。例えば、腹痛の患者さんが来院されたとき、CTがなければ胃腸炎の疑いで様子を見るしかないケースでも、CTがあれば虫垂炎や尿路結石といった原因をはっきりさせることも望めます。自分の免疫で治せる状態なのか、医療的な介入が必要なのか。その見極めをしっかりと行うことが当院の役割です。もちろん医療被ばくには配慮し、必要な場合に的を絞って撮影します。そのほか血液検査や心電図、エコーに加え、喘息の診断に役立つFeNO測定器やアレルギーの原因を調べる検査機器もそろえました。風邪一つでも原因ウイルスによって対応は変わりますので、お子さんや高齢のご家族にうつさないためのアドバイスもお伝えします。

患者さんを診る順番はどのように決めていますか。

当院では院内トリアージを取り入れています。来院された方の心拍数や血圧、血中の酸素濃度、呼吸数といったバイタルサインを確認し、医学的な重症度で診察の優先順位を決める手法です。受付の順番ではなく、体の状態がより切迫している方を先にお通しするため、お待ちいただくこともありますが、命に関わる症状を見逃さないための体制だとご理解ください。この最前線を担っているのが看護師です。来院時の顔色や様子から異変を見抜く力が求められますので、救急経験のある看護師を採用しました。例えば重いアレルギー反応の一歩手前で歩いて来られた場合にも、看護師が察知して迅速な処置につなげられるよう体制を整えています。また、事務スタッフにも月に1回は医療の知識を学ぶ講義を行っています。

ほかに力を入れている診療分野はありますか。

川本英嗣院長 津かわもと救急・内科クリニック4

PICS、つまり集中治療後症候群への対応にも力を入れています。ICUを退室後、声が出にくくなる、気分が沈む、眠りが浅くなるなど、身体や心の不調を抱える方がいらっしゃるのです。そうした症状があっても、どこに相談すればいいかわからず悩んでいる方は少なくありません。麻酔、救急、集中治療の3つの分野で研鑽を積んできた経験を生かして、PICSに対応した外来を設けました。こうした外来を設けているクリニックはまだ少ないのが現状です。産業医学についても学んでおり、仕事への復帰や家庭との両立まで見据えたサポートをめざしています。クリニックのホームページに載せておくと「相談してみよう」と思える方もいるそうで、まずは受け皿があることを知っていただければと思います。

「重症になる前に来てほしい」地域とともに歩む医療

診療で大切にされていることを教えてください。

川本英嗣院長 津かわもと救急・内科クリニック5

勤務医時代は意識のない患者さんが大半で、対話で情報を得ることはほとんどできませんでした。けれどクリニックでは、患者さんがご自身の言葉で症状を教えてくれます。まずは自由にお話しいただき、そこから鑑別を絞っていくのが私の診療スタイルです。患者さんの顔を見て対話に集中したいので、音声でカルテを自動作成するAI機能搭載のシステムも導入しました。私が話を聞いている間にカルテの骨子ができあがる仕組みです。待合室の飾りや掲示物は妻やスタッフが整えてくれていて、安心して任せられるチームのおかげで私は診察に集中できています。

今後の展望についてお聞かせください。

ゆくゆくは診療時間を朝早くから夜遅くまで広げたいですし、祝日の診療も増やしていきたいと思っています。実はゴールデンウィークに祝日診療をやりたいとスタッフに相談したら、全員が賛成してくれたんです。救急医療への理解があるスタッフが集まってくれたことは、本当にありがたいですね。検査体制の面では、15種類のウイルスを同時に検出するためのPCR検査機器の導入も計画中です。また、現在は三重大学のリサーチアソシエイトとして研究活動も続けています。臨床と研究を並行して行う医師は海外では珍しくなく、将来的にはそういう働き方をめざしたいですね。ブログでの情報発信にも力を入れていて、患者さんの声や電話での問い合わせから地域のニーズを拾い、記事として届けるようにしています。

最後に、地域の皆さんへメッセージをお願いします。

川本英嗣院長 津かわもと救急・内科クリニック6

一番伝えたいのは、重症になる前にかかっていただきたいということです。救急と聞くと、意識がないとか、救急車に乗るような状態でないとかかれないと思われやすいですが、海外の救急科外来でも患者さんの9割は歩いて来られる方です。風邪でも胸の痛みでも、ちょっとしたケガでも気軽に相談していただける場所でありたいと思っています。救急医療は体力勝負のイメージがあり、若手がやるものだと見られやすいですが、20年の経験を積んだ医師が一次救急を担うことで、診療の質はむしろ高められると信じています。私にとってここは、恩師が救急医療への志をくれた原点の街です。育ててもらった津市で、迅速で質の高い医療をこれからも届けていきたいと考えています。