関口 武三郎 先生の独自取材記事
関口歯科医院
(横浜市金沢区/金沢八景駅)
最終更新日:2024/03/06
金沢八景駅から徒歩5分の「関口歯科医院」は、れんが造りの外観に備えられた大きな時計台が目印。関口武三郎先生が1975年に開業して以来、長きにわたって地域住民の口腔内の健康を見守り続けている。東京から横須賀へ通勤していた勤務医時代、車窓から見える金沢八景の風景が気に入って同地での開業を決めたという関口先生。「当初はゆかりのない土地でしたが、今ではすっかり地元民。愛着ある土地で思い描いてきた歯科診療をかたちにできていることに幸せを感じています」と話すとおり、理念に掲げた「温もりの医療」で着実に地域に根差している。そんな同院の医療の継続をめざし、2023年春には娘の関口似奈先生に院長職を引き継いだ。継承への思いや似奈院長の得意な治療など、関口先生の視点から語ってもらった。
(取材日2023年11月24日)
未来を見据え、80歳の誕生日に歯科医院を継承
今春、こちらの歯科医院を継承されたと伺いました。
娘の似奈は歯科医師となってから当院の診療にも加わっていました。以前から私が80歳の誕生日を迎えるのを機に院長職を譲ろうと考えており、今年の4月15日に実行に移したかたちです。カルテの処理などで思った以上の負担がありましたが、スタッフの尽力もあり、無事に継承を完了することができました。とはいえ、これまでも一緒に診療を担ってきましたし、この体制は今後も変わりません。長く勤め続けてくれているスタッフもそのままです。立場こそ変わりましたが、患者さんにとっては何ら変わることなく、従来どおりの当院の診療を受けていただいています。
先生から見て、似奈新院長はどのような歯科医師ですか?
幼い頃から私の診療理念である「温もりの医療」に身近に接し、理解してくれている存在です。周囲の歯科医師の話では、親の思いが無視されるといったこともあるようですが、似奈院長は「温もりの医療」は必ず継承すると明言してくれています。金沢区だけでも数多くの歯科医院がありますが、その中から、迷い悩みながらも当院を選択してきてくださった患者さんの期待に応えていくためには、われわれの理念をいかに伝えていくかが重要と考えます。その点で、安心してこの歯科医院を任せられる存在だと思っています。
似奈院長が得意とされている治療は何ですか?
女性であり、子育てを経験していることから、子どもの扱いには慣れており、小児の診療は特にスムーズですね。また、幼い頃から手先が器用で、コンポジットレジンという樹脂を用いてダイレクトに詰め物をする治療が得意です。型採りが不要で即日治療が可能な上、見た目が自然で金属を使用しないため金属アレルギーの心配もない方法です。講習などを受けて腕を磨いていましたが、とにかく作業が丁寧で、時には丁寧すぎると感じるほどです(笑)。また、顕微鏡下での根管治療も任せています。肉眼の20倍の視野により、再発を防ぐ精度の高い治療がめざせます。歯科で大切なのは目と手。私もこの2つが元気なうちは現役を継続していくつもりですが、やはり若さに勝るものはなく、頼もしく思っています。
開業から半世紀を目前に長年の積み重ねの大切さを実感
金沢八景という土地に開業したきっかけを教えていただけますか?
大学を卒業後は神奈川歯科大学病院に勤務しており、品川から横須賀まで京浜急行で通勤していました。当時は、金沢八景を過ぎた辺りから窓越しに海やヨットが見え、「いつかこんな海の近くで開業したいな」と憧れていました。その後北海道で勤務したこともありましたが、やはり海に近い横浜で開業したいという思いが強くなり、1975年に金沢八景の駅前ビルに開業。今でこそ住宅が増え、車窓から海は見えなくなりましたが、金沢八景は山も海も近く、鎌倉や葉山や逗子も近い、風光明媚な土地柄です。八景島に複合型遊園施設ができて、新たな魅力のある街としても発展してきました。駅前も再開発され、それに伴い2010年に現在の場所にクリニックを新築しました。ビル2階だった診療室を1階とし、バリアフリーに。靴のままでも安心して診療が受けられるように、光触媒技術を用いた空気洗浄機システムを採用しています。
もうすぐ開業から半世紀を迎えられるとか。
通い始めた当初に30代だった患者さんも70代となり、長いお付き合いとなっています。90代で通い続けてくださる患者さんもいらっしゃいますし、80代でも27本の歯が残っている患者さんもいます。ご高齢になっても、ご自分の歯を健康な状態で維持している方が多いのがうれしいですね。当院では定期的な検診とスケーリングを地道に行ってきたので、今後も継続をして皆さんの歯を守り続けていきたいと思っています。また、開業当初に結成した会員制グループ「はははの会」では、子どもたちやその親御さんとともに、さまざまなイベントで楽しい時間を過ごしてきました。おかげで今でも近い距離で仲良くしていただいているのはうれしいことです。
長年の取り組みがうれしい結果を生んでいるようですね。
病気になってから受診することが多い医科のクリニックと異なり、歯科クリニックは健康な方がより健康になるために来る場所という側面もあります。また、歯科医療にはそんな皆さんの期待に応えられる力があると信じています。虫歯や歯周病といったトラブルを治療してから、「今度こそ健康な歯を守る」と患者さんと一緒に取り組んでいくのが真の歯科医療。それを実践していけるのは、歯科医師の醍醐味(だいごみ)ですね。
確立した診療を今後も同じかたちで継続できる体制に
特に注力している治療はありますか?
私のもともとの専門は口腔外科で得意分野は総義歯ですが、開業してからは矯正以外の幅広い歯科診療を手がけています。当院は「温もりの治療」をコンセプトに、目の前の患者さんが、自分だったら、わが子だったら、親だったらどうするかということを念頭に置いて治療を行います。歯科医師だけでなく、受付、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、すべてのスタッフがプロ意識を持ち、それぞれのぬくもりを患者さんに伝えていくことが当院のミッションです。患者さんのお話をよく聞くことはもちろんですが、言いたいことがあるけれど言えないという方もいるので、なんでも言える存在であろうと、全員が心がけています。ですからお口の中で気になることがあれば、まず当院に来ていただきたいです。この金沢地区の個々のクリニックや、病院とも密な医療連携を取れるようにしているので、専門的な治療が必要な場合は、それぞれ専門の医師、歯科医師にご紹介します。
開業後、大学で心理学を学ばれたとか。それはなぜですか?
開業した年の暮れに、突然スタッフが全員辞職を願い出たという大失敗を経験。歯科医院運営には良質なコミュニケーションが欠かせないことを思い知り、慶應義塾大学に入り直して人間関係学を学びました。スタッフが楽しく働けるためには、福利厚生が整っていることに加え、チームワークを育むことが大切と気づき、それを実践したことで長く働き続けてもらえるようになりましたね。その後、診療を通して歯科においても心理学的アプローチが有用であることに気づきました。歯科では顎関節症が良い例ですが、器質的疾患だけでなく、心の問題が引き金となって発症しているケースも少なくないのです。心を通したアプローチで、「ここに来れば治療できる」といった安心感を提供できる医療を実践したいと思っています。こうしたことは、似奈院長にも伝えています。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
今後も現在までに確立してきた歯科医療を継続していくことのみです。高齢となった患者さんの義歯などのニーズには応えつつ、若い世代にも対応するべくマイクロスコープやデジタルエックス線などの新鋭機器もそろえています。勤続20年、30年という自慢のスタッフもおり、継承により今後も変わらぬかたちで継続していける体制が整いました。歯科のほとんどの病気は予防するための方法があり、歯科医院は治療に行く所ではなく予防のため、さらには健康になるために行く所と考えてほしいのです。当院では年に2回お送りする定期検診のおはがきを、患者さん自身に自分宛に書いてもらっています。忙しくて足が向かない方も「健康のために自ら行くと決めたんだ」と思い出せるのではないでしょうか。親御さんには「歯の健康に対する興味を持たせて子どもを育てること」をお願いしています。今後もこうした方針を継続し、健康維持に貢献していければと思います。