堀田 浩一 院長の独自取材記事
かえで在宅診療所
(横浜市青葉区/青葉台駅)
最終更新日:2026/08/12
横浜市青葉区の閑静な住宅街に、2026年1月に開業した「かえで在宅診療所」。院長の堀田浩一先生は、急性期医療の現場で十数年の経験を重ねたのち、退院した患者がなぜ繰り返し戻ってくるのかという疑問に導かれ、在宅医療の世界へ足を踏み入れた。訪問先では体調よりも先に、部屋の様子や会話の端々から暮らし全体を見渡すことを大切にしている。複数の医療機関を利用することで発生した不必要な薬の整理を心がけ、患者の日々の負担を軽くすることに力を注ぐ。堀田先生は終始穏やかな笑みで、何事も受け止めてくれそうな安心感がある。どんな時にやりがいを感じるか尋ねると「また来てねって言われた時ですね」とはにかむ堀田先生に、暮らしを丸ごと診る在宅医療への思いを聞いた。
(取材日2026年7月10日)
呼吸器を診る道から、暮らしを診る在宅医療の道へ
先生が在宅医療に携わるようになった経緯をお聞かせください。

幼い頃から好奇心旺盛で、図鑑を読みふけるような子どもでして。なかでも人体の仕組みに興味を持ち、「ヒトについてもっと学びたい」という思いから、信州大学の医学部へ進みました。卒業後は呼吸器科の医師として十数年にわたって臨床経験を重ね、COPDや肺気腫といった呼吸器疾患を数多く診てきました。この分野は今でも得意としています。当時は大学からの派遣で二次救急病院に勤務していたのですが、高齢の肺炎の方は、退院しても、しばらくするとまた肺炎で再入院されることがよくありました。なぜだろうと疑問を抱くうちに、退院したあとの地域での暮らしはどうなっているのだろうと気になり始めました。病院に患者さんを送る地域の先生の立場、事情を自分の目で見てみたいと思ったのが契機となり、訪問診療の世界に足を踏み入れました。
実際に地域の患者さんのもとへ訪問してみて、いかがでしたか。
最初に携わったのは居住系施設での訪問診療でした。それぞれのお部屋を一つ一つ回ると、壁にお孫さんの写真が貼ってある部屋もあれば、カレンダーがずらりと並ぶ部屋や殺風景な部屋と、さまざまでしたね。血圧が高い方のお部屋にしょっぱい物が置いてあったり、糖尿病の方のそばに甘いお菓子がたくさんあったりすると、大丈夫かしら……と声をかけたり。ある時は、お孫さんの進学を一緒に喜んだり、たわいない雑談で笑い合ったり。それらを通じて、患者さんお一人お一人の人生やご家族とのつながり、その方らしい暮らしやその背景にふれられることが楽しくて、気づけば好奇心に引き寄せられるように続けていました。認知症の高齢の方もたくさん拝見するうちに、それも自分の得意な領域になっていきました。
ご自身のクリニックを立ち上げようと思われたのはなぜですか。

在宅医療を続けるうちに、自分の考える「患者さん第一」の医療を形にしたいという気持ちが膨らんでいきました。組織にいると思い通りにならないこともあり、それなら自分でやってみようと決心して、2026年にこの診療所を立ち上げたのです。開業にあたって何より大切にしたかったのは、患者さんご本人を真ん中に置くことです。ご家族をはじめ、ケアマネジャーさんやホームヘルパーさん、訪問看護師さんなど関わる方々が周りを支えて、みんなで一つのチームになる。私もその輪の一員でありたいと思っています。めざしているのは、その方が暮らしやすいように、ご自宅で一日を過ごしても楽しくいられるようお手伝いすることです。自分がその立場だったらやはり家がいいなと思いますから、同じ目線で患者さんの在宅生活を支えていきたいです。
「楽しいことはありました?」から始まる診療の形
訪問診療では、患者さんとどのように接していらっしゃいますか。

お宅にお邪魔するわけですから、まずは謙虚に、ゆっくり入ることを心がけています。患者さんのことは下のお名前でお呼びして、「最近ご機嫌はいかがですか?」「なにか良いことはありましたか?」といった内容から会話を始めるようにしています。訪問診療は2週に1回であり、2週間あれば何かしらエピソードや変化があるだろうと思うので、そこから話を広げていくのです。例えばお孫さんが来たという話があれば外出できる元気があるとわかりますし、何を食べたかを聞けば食事の様子も自然と見えてきます。また、ご本人が言いたいことが言えなかったということがないよう、「他に話したいことはありませんか?」と二度三度と確認するようにしています。患者さんと目線をそろえ、時には友達感覚で接して心の距離を近づけていきます。
認知症や慢性疾患のある方への対応についてもお聞かせください。
高齢の方の高血圧症や糖尿病も、若い方とは判断基準が異なります。数値を厳密に追いすぎるより、その方の暮らしに合わせて「ほどほどにコントロールすること」をめざしています。認知症のケアでは、お薬に加えて普段の会話をとても大切にしています。例えば昔話をしたり、ちょっとした冗談を言ったり。笑顔が増えれば様子も変わってくると思うのです。ご家族や介護士さんには、怒りのスイッチになるような言葉を避けることや、閉じこもりがちな方にはまずカーテンを開けるところから始めてみましょうとお伝えしています。変化は週から月単位でゆっくり現れるので、前回と比べて何か違うなという気づきを見逃さないよう、診察のたびに暮らし全体を見渡すようにしています。
在宅の患者さんへのお薬の処方で、心がけていることはありますか。

在宅に移行される方は、それまで複数の医療機関にかかり、長い経過の中でお薬が積み上がっていることが多いです。若い方の基準で決められた量をそのまま高齢の方に処方すると、代謝や排泄の違いから思わぬ影響が出ることも。ですから私は、まず処方されているお薬の全体像を把握した上で、必要性の低い物から一つずつ整理していきます。1日に3回、4回と飲むのはご高齢の方にとって大きな負担ですから、できるだけ1日1回か2回にまとめたいところですね。結果として、患者さんから「薬が減って楽になった」「体調の変化を感じている」といったお声がいただけたらうれしいです。1人の医師がトータルで診ているからこそ、この方にはこの薬はもういらないなという見極めができる。そこは訪問診療ならではの強みだと感じています。
「また来てね」を励みに、地域に根づく医療を
日々の中で、やりがいを感じるのはどんな瞬間ですか。

一番うれしいのは、やはり「また来てね」と言ってもらえた瞬間ですね。患者さんが笑ってくださった時、ご家族と一緒に笑ってその場が和やかになった時に、この仕事をやっていて良かったなと心から感じます。帰り際にハイタッチで見送ってくださったり、握手したら手を離してもらえなかったりと、そういう温かなやりとりが日々の支えになっています。そのためにも、訪問先ではなるべく力を抜いて自然体でいることを大切にしていますね。患者さんとの時間に、穏やかな空気を持ち込めたらいいなと思います。
今後、どのようなクリニックにしていきたいとお考えですか。
この地域に役立てるクリニックでありたいというのが一番の思いです。今後は、近隣の方が困っていたら当日でもすぐ駆けつけられる体制を整えていきたいですね。開業して半年、地域の会合に足を運んだり、自分から知らない方に声をかけたりと、これまでやってこなかったことにも挑戦しています。ホームページでは「院長の余白」「かえでの道具たち」というコラムを書いていて、訪問先でのちょっとしたエピソードや診療で使っている道具を紹介しています。暮らしの一つ一つを大切にする目線が少しでも伝わればいいなと思いながら、思いついた時に更新を続けています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

昔のイメージだと「お医者さんは怖い」「話しづらい」と思われがちかもしれませんが、患者さんやご家族が何でも相談しやすい関係を大切にしていますので、どうか安心してください。また、訪問診療に対してもハードルを感じている方が多いと思いますが、困ったときにはぜひ早めに声をかけていただきたいです。我慢を重ねてぎりぎりになってからよりも、早い段階でご相談いただいたほうが、できることの幅は広がります。ケアマネジャーさんでも、訪問看護師さんでも、ホームヘルパーさんでも構いません。まずは身近な誰かに「ちょっと助けてほしい」と伝えていただくことが最初の一歩です。患者さんご本人はもちろん、日々支えているご家族の暮らしも含めて、一緒に診ていきたいと思っています。一人で抱え込まず、気軽に頼っていただける存在でありたいですね。

