前立腺肥大症に対する新治療
「WAVE治療」のメリットを紹介
まつむら腎泌尿器科
(和泉市/和泉中央駅)
最終更新日:2025/08/08


- 保険診療
社会の超高齢化が進む中で患者数が増加し、泌尿器科の受診理由となる疾患では男性で最も多いとされる前立腺肥大症。厚生労働省の調査によると、2020年度で100万人以上が罹患していると推計されている。初期の治療には薬物治療もあるが、改善しない場合はやはり手術が必要となる。そうした中で新たに注目されているのが、「WAVE治療」と呼ばれる経尿道的水蒸気治療。手術の一種だがメスなどは使用せず低侵襲で、ほかにも数々のメリットが期待できるという。そんなWAVE治療を数年前から習得し、クリニックにおいて日帰りで提供しているのが「まつむら腎泌尿器科」の松村直紀院長。気になるメカニズムやメリットとともに、治療の流れを詳しく解説してもらった。
(取材日2025年7月9日)
目次
検診・治療前の素朴な疑問を聞きました!
- Q前立腺肥大症とは、どのような病気でしょうか?
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A
男性だけに備わる前立腺は尿道を囲む形になっていますが、これが大きくなって尿道の圧迫や膀胱への突出となり、排尿障害や頻尿、残尿感などを発症する病気が前立腺肥大症です。原因は加齢や男性ホルモンの変化ともいわれますが明白ではなく、症状があれば治療の対象となります。放置していると膀胱や腎臓の機能にも悪影響が出て重症化する可能性があるため、前立腺がんや急性・慢性の前立腺炎の疑いを含めて泌尿器科で検査を受け、早めに治療を導入することが重要です。軽度の場合は治療に薬を用いることもありますが、飲み続ける必要がある上にホルモンや性機能に対するリスクもあり、前立腺の一部除去を含めた手術を検討するのが一般的です。
- Q選択肢の一つ、WAVE治療(経尿道的水蒸気治療)の特徴は?
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A
前立腺肥大症の手術には何種類かありますが、前立腺組織の切除などを伴う場合は入院が必要となり、時間や費用がかかる上に合併症などのリスクも伴います。そこで近年普及しつつあるのが「WAVE」と呼ばれる熱エネルギーを利用した治療法で、尿道から硬性鏡という器具を挿入して前立腺に針を刺し、そこから高温の水蒸気を注入して肥大した組織の破壊を試みます。入院手術に比べるとはるかに低侵襲で、手術時間は10分程度。何より日帰りで受けられることから、日常生活へのストレスが少ないこともメリットといえるでしょう。術後数ヵ月ほどかかることもありますが、着実な変化が期待できるため、適応であればお勧めしたい治療法です。
- Q手術中の痛みや回復するまでの経過が気になります。
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A
高温の水蒸気と聞くと、中には思わず腰が引ける方もおられるでしょう。ですが、治療は痛みや刺激を感じることがないように、麻酔下で行います。また、クリニックの多くは局所麻酔や鎮静を用いますが、当院では下半身麻酔を採用し、麻酔薬の量を厳密にコントロールして安全の確保に努めています。留意していただきたいのは、施術によって一時的な炎症やむくみが生じるため、処置の最後に排尿をスムーズにする管を尿道に挿入し、その状態で1週間ほど過ごしていただくこと。また、肥大のサイズが大きい場合、まれに同じ治療を数回繰り返す必要が生じるケースがあることです。もちろん、こうした説明は事前にしっかりとお伝えいたします。
検診・治療START!ステップで紹介します
- 1医師による問診と診察
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初診では、まず問診票に症状や既往歴などを記入。ほかにかかっている疾患があれば、飲んでいる薬の情報などもしっかりと伝えること。その後は診察室にて、あらためて医師の問診を受ける。排尿障害がある場合はそれがどの程度なのか、できるだけ詳しく伝えることが診療のポイントとなる。正確な診断は検査後となるが、もし治療が必要な場合は手術も積極的に希望するかなど、ある程度の予測を立てて自分の意志を整理しておくといい。
- 2検査・診断後、同意書を提出して手術が確定
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正確な診断には各種検査が必須。最初は血液検査を行い、腫瘍マーカーとなるPSA(前立腺特異抗原)を調べて前立腺がんでないかをチェック。陰性と判定されればほかにも尿検査やエコー検査などを実施して精査を行い、前立腺肥大症と診断されて初めて治療が可能となる。治療法の選択肢はいくつか提示されるのが原則。WAVE治療を希望する場合は麻酔と手術の同意書にサインして、1ヵ月内を目安に手術日時を決めていく。
- 3当日は麻酔を受けてから手術がスタート
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麻酔の影響があるため、特定の薬や直前の食事は控えること。手術着に着替えて手術室に入れば座った状態で点滴を受け、続いて腰から麻酔薬を注入。下半身全体に麻酔が作用するまで10〜15分ほど待って手術が開始される。尿道から硬性鏡と呼ばれる直径7mm程度の内視鏡を挿入し、肥大した前立腺の内側に水蒸気を注入。5〜15分の間に何回か繰り返し、排尿を助けるための管を尿道内にセットして手術室での施術は終了となる。
- 4手術直後のリカバーと再受診
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術後は処置室のベッドで点滴をしたまま2〜3時間ほど休憩。その間、血尿の有無などが確認される。麻酔レベルが一定以下になれば受付で薬を受け取り、会計を済ませれば退出が可能。当日は過度な運動や飲酒は控え、入浴はせずにシャワーにとどめておくこと。尿道の管にはキャップがあり、自分で開け閉めして通常どおりの排尿が可能。できれば翌日、あるいは数日のうちに来院し、トラブルが起きていないか医師のチェックを受ける。
- 5管を抜去して定期的な経過観察を継続
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手術から1週間後、検査を行った上で尿道の管を抜き、問題なく排尿できるかどうかを確認。この時点では、施術を受けた前立腺の一部がまだむくんでいる状態。しばらくは排尿時の違和感などがあるものの、1ヵ月後くらいから徐々に症状の変化が見込めるという。その間、最低でも1ヵ月に1回は定期的に受診して医師の診察を受け、3ヵ月後を目安に膀胱内部の画像を撮影。前立腺の改善が確認できれば治療は終了となる。