中尾 幸嗣 院長の独自取材記事
サンライズ幸 内科・訪問診療クリニック
(茨木市/茨木市駅)
最終更新日:2025/07/02

阪急京都本線の茨木市駅から徒歩3分の「サンライズ幸 内科・訪問診療クリニック」。中尾幸嗣院長は、作業療法士として脳卒中患者のリハビリテーションに携わった後、医師へ転身したという異色の経歴を持つ。2025年4月の開業以来、内科・整形外科・リハビリテーション科の外来診療に加え、訪問診療にも注力。「医療の立場から不の解消に努める」を理念に掲げ、体の不調だけでなく生活の不自由さや将来への不安にも寄り添う包括的な医療を実践している。「浅く広くではなく、多様性を持って広く診る」という独自の診療方針と、生まれ育った茨木への地元愛を原動力に、地域医療に貢献する中尾院長。作業療法士時代の知見を生かした診療の特色や、訪問診療への思い、将来の構想について話を聞いた。
(取材日2025年5月30日)
作業療法士から医師へ、異色の経歴で地域医療に貢献
作業療法士から医師へ転身されたという経歴をお持ちですが、どのような経緯だったのですか?

もともと医学や医療の道に興味があり、まずは作業療法士の道を選びました。関西リハビリテーション病院で脳卒中患者さんのリハビリに携わる中で、やりがいを感じる一方、限界も感じていたんです。退院されたらそこでさようならとなってしまい、最後まで見られないもどかしさや、疾患が複合的に絡んでくると、作業療法士としての立場では対応が難しい状況に直面しました。そんな中、さまざまな医師と接して「自分も患者さんを助けるためにいい医師になりたい」と思ったのが決断の理由でした。めざす道を決めてからは、作業療法士の仕事を辞めて2年間勉強に集中し、医学部に合格。作業療法士時代に学んだ心理学的なアプローチや、患者さんの生活を見るという視点は、現在の診療にも生きています。
開業のきっかけと、この地を選んだ理由を教えてください。
90年にわたり、茨木市の地域医療を支えて来られた國里整形外科さんが閉院するということで、社会福祉法人を運営する父を通じてお話をいただいたことがきっかけです。いつかは開業したいと漠然と考えていましたが、こうしたご縁があるのであれば、それが私のタイミングなのかなと思って決断しました。この地を選んだのは、何より私が生まれ育った茨木だからです。茨木市がより発展し、住みやすい街になっていくことを望んでいますし、そこに自分が貢献できることがあるならば全力で取り組みたいという思いが原動力となっています。
「医療の立場から不の解消に努める」の理念に込めた思いをお聞かせください。

体の不調や生活の不自由、そして先々の不安。これらは誰にでも起こり得る「不」だと思います。患者さんが抱える問題として最も多く聞かれるのがこうした不安でした。私は作業療法士として病気だけでなく生活の部分もケアしてきましたし、心理学的なアプローチも学んできました。だからこそ、医療だけではないところでも患者さんの「不」を解消できると考えています。例えば、脳卒中後の患者さんの約8割がうつになるといわれているように、今までできていたことができなくなると、心への影響もとても大きいのです。ですので単に機能回復をめざすだけでなく、その人が達成感を得られるようサポートすることが大切だと考えています。「不の解消」という言葉には、病気を治すだけでなく、その人の人生全体を見据えて、不安や不自由さを少しでも和らげたいという思いを込めています。
患者の価値観を最優先に、人生に寄り添う訪問診療
訪問診療に力を入れる理由とやりがいを教えてください。

患者さんの生活と人生に最期まで寄り添っていけることが訪問診療における大きなやりがいだと感じています。おうちでどのように過ごしておられるかを実際に見られるのも大きな意味がありますね。心がけているのは、ご本人やご家族の価値観を優先すること。医学的にはもっとこうしたらいいのにと思うことがあっても、それが押しつけになってはいけません。メリットとデメリットをきちんとお伝えした上で、ご自宅でご家族とともに生活したいのであれば、その方のお気持ちを大事にしています。当院では、通院ができる方は外来やリハビリで診て、通院が困難になったら訪問診療で継続的に診療するという、患者さんの状況に合わせた医療を提供することが可能です。患者さんの人生に最期まで寄り添えることが、何よりのやりがいです。
内科・整形外科・リハビリテーション科と幅広い診療をされていますが、その特徴は?
私は一つの分野を極めることよりも、全般的に広く診られる医師でありたいと考えています。特に地域のクリニックでは、「この人に聞いたら何か答えてくれる」という存在が必要です。高齢になると複数の疾患が併存している場合も少なくありませんが、複数の医療機関を渡り歩くのは患者さんにとって大変な負担です。当院ではさまざまな悩みをできるだけ一緒に診て、副作用を考慮しながら薬の処方を行うなど、バランスの取れた医療を提供したいと思っています。よく「浅く広く」といわれますが、私は「浅くではなくて、多様性を持って広く診る」ことを重視しています。一方で土曜には股関節と膝を専門とする整形外科の専門家に来ていただいており、そこでより専門性の高い医療を提供できるというのも特徴です。空間を分けて、発熱や感染症に対する外来も整備していますので、地域の皆さんが困ったら相談に行ける場所として、気軽に利用していただければと思います。
医師になった現在、作業療法士としての経験はリハビリにどう生きていますか?

医師は医学の専門家で、作業療法士はリハビリの専門家です。私は双方の経験がありますので、どちらの立場からも判断ができるのが強みだと思っています。動作レベルなど専門用語でのコミュニケーションもスムーズですし、病気の視点だけでなく、患者さんがどういう動きになっているかという視点でリハビリスタッフと議論することができます。当院のリハビリは、電気などを用いた物理療法は行わず、運動器リハビリに特化していることが特徴です。リハビリスタッフが手を使って施術し、動作レベルの向上をめざすことが患者さんの健康にとても重要だと考えているからです。
子どもから高齢者まで、地域全体を支えたいという思い
お子さんからご高齢の方まで、幅広い世代を支えていきたいというお考えだそうですね。

ええ。現在の患者さんは70代〜90代のご高齢の方が中心ですが、私が地元出身ということもあって、友人やその知り合いなど若い世代も受診してくれています。働き盛りのお父さんやお母さんが受診しやすい環境をつくることで、お子さんの健康も支えていきたいという思いがありますね。2026年の4月には当院の3階に小規模保育園が入る予定です。そこで病児保育も行いますので、保育園の子どもたちはもちろん、保護者が体調の悪い場合にもスムーズに受診していただける体制を整えていきます。お子さんからご高齢の方まで、幅広い世代を支えていくことが目標です。
今後の展望について、他にお考えのことをお聞かせください。
訪問診療の需要は今後さらに増えていくと思いますので、まずは訪問看護を立ち上げたいと考えています。そして5年以内には、医療ニーズがあり介護を必要とする高齢者の長期療養・生活のための介護医療院を作りたいです。現在、大阪北摂地域にはそういった施設が少ないんです。特別養護老人ホームでは看取りができないことも多く、急性期病院でも治療の施しようがなければ退院しなければならない。家でも見られず、行き先に困っているような方を受け入れて、安心して最期まで過ごせるような施設が必要です。急性期病院で患者さんが自分の意思が尊重されないまま延命されているような状況を見てきたこともあり、自分の手で選択肢を増やしたいと考えました。お子さんからご高齢の方まで、一貫してサポートできる流れをつくりたいんです。
最後に、地域の皆さんへのメッセージをお願いします。

専門科にこだわらず、さまざまなお悩みに対応するというスタンスで診療していますので、何か困ったことや気になる症状があれば、気軽にご相談ください。働き盛りの方や小さなお子さん連れの方も、ご家族でいらしていただければと思います。患者さん一人ひとりの人生観を大切にして、生活の質の向上をサポートすることをめざしています。私自身、休日はスキーやウェイクボードを楽しむなどアウトドア派で、体力維持にも気を使っています。これからも、生まれ育った茨木への地元愛を原動力に、皆さんの「不」を少しでも解消できるよう、全力で取り組んでまいります。