駒形 清則 理事長の独自取材記事
かつしか心身総合クリニック
(葛飾区/金町駅)
最終更新日:2026/05/01
最近では訪問診療の認知度も高くなってきているが、国内における黎明期から訪問診療に力を注いでいるのが「かつしか心身総合クリニック」の駒形清則理事長だ。同クリニックの外来で内科診療を行うとともに、自宅や施設で療養している患者のもとを訪れている。駒形理事長は、「社会の高齢化で起こり得る医療のひずみを解決することが重要」と考え、大学時代から仲間とともに在宅医療について議論を重ねてきたという。「患者さんの人生をどのように守っていくか、その相談相手や話し相手となることがかかりつけ医として大切な役目です」と穏やかな笑顔で話す。そんな駒形理事長に地域医療や訪問診療への思いについて聞いた。
(取材日2026年3月13日)
国内の在宅医療の黎明期から訪問診療に注力
医師をめざしたきっかけについて教えてください。

一つは子どもの頃に見た映画です。江戸時代の療養所を舞台にしたもので、主人公の医者は高い地位を求めるのではなく、民衆の中に入り込み、人々の健康をどう守っていけばいいか真剣に考える、そんな姿に感銘を受けました。子どもながら医師という仕事はいいなぁと感じました。もう一つは、小学校5年の時、将来について校長先生と話す機会があったのです。その時、何か人の役に立つ仕事をしたいと話したのですが、では具体的に何かと聞かれまして。当時、人の役に立つ仕事といえば、医師か弁護士か外交官くらいしか思いつかず、その3つのうちどれかになりたいと。自分で言ったからには実現しなくては、という思いがずっと頭の中にあったのでしょう。それで医師の道に進んだというわけです。
在宅医療に力を入れるようになったのはどのような理由があったのですか?
内科診療や、一時は消化器外科でがんの手術なども行ってきたのですが、がんの場合、手術をしても、その後再発してしまう例も多かったのです。そんな状況の中、これからは病気を治すという立場より、病気を支えてともに歩んでいく、そんな立場に変わったほうが良いのではないかと考えたのです。在宅で療養している患者さんが診察や検査を受けず、ご家族の方がただ薬だけをもらいに病院に来る、といったことも多く見受けられました。それはやはりおかしいことで、在宅の方でも適切な医療を受けることが必要ではないかと思っていました。訪問診療を始めたのは1992年、友人の医師からのアドバイスもあり、大田区や品川区からスタートしました。当時は、訪問診療の黎明期で、登録している医師の数もごくわずかでしたね。
もともと在宅医療に関心があったのですか?

そうですね。私が大学を卒業したのは1983年ですが、その頃から日本はいずれ高齢化社会になるといわれていました。人口ピラミッドの変化を見ると確実に高齢者が急増することはわかっていたのです。ただ、今のような少子化は想定されていませんでしたが。そうなったら必ず医療のひずみが出てくるだろうと思い、大学時代から仲間たちと在宅医療や訪問診療についていろいろ研究や議論を重ねていました。さらに言いますと学生時代はへき地医療や農村医療にも高い関心があって、「農民とともに」の理念のもと、へき地医療の拠点として地域完結型の医療を実践していた佐久総合病院は、医療のかたちの一つではないかと考えていました。
身体と精神は相互に関わるため総合的に診ることが重要
葛飾に開業して30年以上たちますが、葛飾区の印象はいかがですか?

数年、大田区や品川区で訪問診療の経験を積んだ後、移動時間のことも考えて、先輩の在宅医療の拠点が葛飾区にあったこともあり、1994年に立石にクリニックを開業しました。葛飾は下町独特の雰囲気があり、人間味にあふれている方が多いですね。患者さんとの距離も近く、お話しすればきちんと聞いてくださいますし、やわらかい性格の方が多い印象です。
クリニック名の「心身総合」には、どのような意味が込められているのでしょうか。
移転を機に前院長の発案で心身総合という言葉をクリニック名に入れました。人間の不調には、身体面だけの不調もありますが、心療内科で診るような心の不調から身体面の不調が出てくることも多いのですね。ですので、身体面だけでなく精神面も一緒に総合的に診ていくことが必要です。実際に、外来診療をしていますと、体と心はお互いに影響し合っていることがとてもよくわかります。体の具合が悪くなると精神面の不調が出やすいですし、逆に精神面が安定すると体調も良くなってきます。体と心、すべて含めてその患者さん全体を診ることが重要なのです。また、内科の外来診療をしている中で、「何かほかに困っていることはありませんか?」と尋ねますと、実は耳が聞こえにくい、目が見えにくい、などと話されるご高齢の方もいます。視力、聴力の低下は認知症のリスクですので、どういう状態かよくお聞きして、必要に応じて眼科や耳鼻科などをご紹介しています。
診療の際はどんなことを大切にしていますか?

患者さんに少しでもプラスになることを持ち帰っていただけるよう努めています。患者さんは、こちらが忙しいと思ってお話しするのを遠慮してしまうのですが、私は「自由にお話しください」とお声がけしています。訪問診療では、その患者さんがそれまで病気とどう付き合ってきたか、自分なりにまとめています。例えば、入院歴がある場合ですと、入院先の病院にどんな疾患でどんな治療を受けたか詳細に聞いています。さらに看護師による看護記録や薬剤師が記した薬に関する情報、リハビリテーションについてはどのように取り組んでいたか、など患者さんのそれまでの医療情報をすべて確認した上で適切な診療の進め方を考えています。患者さんはご自身の病歴についてわからないことも多いですから「こんな病気で入院してこのような治療を経て改善につながりました。でも病院の先生はこんなことに注意してくださいって言っていますよ」というようにお話ししています。
人生をどう守るか、相談相手となるのがかかりつけ医
先生は認知症についてもお詳しいですが、何かアドバイスはありますか?

認知症は非薬物療法も大切で、患者さんが日常生活の中でできることを探していくと良いと思います。デイサービスを利用したり、介護サービスが使えないのであれば地域の認知症サロンなどに参加したりするのも良いでしょう。そのような場所で、認知症の進行を防ぐための工夫や日常生活での注意点など知ることができると思います。できるだけ早めにそのような知識を得て、対処することが大切ですね。先ほども少しお話ししたように、視力と聴力の低下は認知症のリスクです。それらは外出の意欲を阻害する要因で、ソーシャルフレイル、つまり社会とのつながりを失う状態に陥りやすくなります。また、口腔機能が低下するオーラルフレイルも起きやすく、特に嚥下力が衰えると誤嚥性肺炎の原因になります。このようなさまざまなフレイルの予防、改善のために当院では神経内科や歯科、眼科、さらに近隣の病院などとも連携しながら診療しています。
地域での役割もさらに大きくなりますね。
在宅医療は、地域にある医療機関や介護・福祉事業所との連携がとても重要ですので、ICT技術を用いた情報共有事業を進めています。また、地域のケアマネジャーさんや社会福祉士さんなど地域の多職種の方々と顔の見える関係づくりにも力を入れています。新型コロナウイルス流行時は一時中断せざるを得ませんでしたが、最近、また少しずつ進めています。葛飾区では、在宅療養中の方の体調が急変した場合、病院所有の救急車を使って病院に搬送する在宅医療サポート搬送入院システムを行っていて、当院でも必要に応じて活用しています。
最後に、読者へメッセージをお願いいたします。

訪問診療は、通院ができなくなった人が受けるもの、と考えている方が多いと思います。通院が困難というのは一つの前提ではありますが、その方の人生をどう守って寿命を延ばしていくか、その話し相手や相談相手が、訪問診療の医師であり、かかりつけ医であると捉えていただきたいです。その方の生活の質を下げずに暮らしていくためにどのようにすれば良いか、ともに考えていきたいと思っています。在宅医療を考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。病状によっては当院で対応が難しい場合もありますが、その時は責任を持って適切な医療機関をご紹介していますので、遠慮せずにご相談ください。

