桑田 繁宗 院長の独自取材記事
吹田くわた内科・ペインクリニック
(吹田市/千里丘駅)
最終更新日:2024/12/13
痛みを通じて患者の人生に寄り添った医療をめざす「吹田くわた内科・ペインクリニック」。2024年11月に開院し、内科とペインクリニックの両面から地域医療を担っている。診療を行うのは麻酔科の医師としてICUの管理などに尽力してきた桑田繁宗院長。一人ひとりの人生観に向き合う診療スタイルで、医療と人間らしく過ごすことの適切なバランスを追求している。物腰はやわらかくも「医学的に適切なことと、人生にとって適切なことはイコールではありません。ですから何もかもを頭ごなしに否定するのではなく、その人らしさを認めながら医療を提供したい」と決意を見せる桑田院長に、地域医療への思い、患者への思いについてたっぷりと語ってもらった。
(取材日2024年12月3日)
死生観と向き合い決めた地域医療への転向
人手不足が叫ばれる麻酔科ですが、どんな経緯で麻酔科を選択されたのでしょうか?
研修医時代、救急科外来を任されることがあったのですが、まだまだ医師として右も左もわからない状態で、重症の患者さんとも相対しなければならない経験をしました。診断もつけられない、どの検査をすれば良いのかわからない時に、命を託される恐怖感があったんです。その中で麻酔科の仕事を学ぶ機会があったのですが、麻酔科の仕事は、いわゆる呼吸の管理、循環の管理、意識の管理、生態恒常性の管理に集約されます。人が生きるために必要なものを幅広くコントロールできるようになれば、患者さんを守れるという自信につながるのではないかと感じ麻酔科の道を選びました。
麻酔科と聞くと、手術の管理というイメージが強いのですが、どのような役割を果たしてこられたのですか?
確かに手術を受ける患者さんの管理は麻酔科の大きな役割ですが、細分化された専門性であるサブスペシャリティーという概念があります。痛みのコントロールを図るペインクリニックであったり、集中治療を行うICUの管理であったり、あるいは心臓外科や小児外科などさらに細分化された領域での麻酔のスペシャリストなど、それぞれの専門性が存在します。私はICUの管理に興味があったので、キャリアの後半は集中治療に携わってきました。集中治療は刻一刻と患者さんの状態が変わるため、瞬間で判断して対処しなければ患者さんの命に直結するところ。その緊張感の中、医師としての判断力、スピード感が養われていったのだと思います。
命と向き合う現場から地域医療へと転向されましたが、何かきっかけがあったのでしょうか?
ICUには病院の中でも最も重症の患者さんが集まります。そこでは患者さんの死に向き合うことも、数えきれないくらいありました。自宅に帰れるような状況にまで治療できる可能性は低いかもしれない、と思いながらも蘇生処置に関わることも少なくありません。もちろん蘇生できたとしても植物状態といったケースも考えられます。そこで思いを馳せたのは人生の最期の迎え方。それぞれの人生観、尊厳について考えた時に、延命処置を受けるよりも家に帰りたいと希望する人もいるはずなんです。一方で、在宅で誰がサポートしてくれるか、という疑問はつきまといます。総合病院はあくまで治療に特化した医療機関なので、最期の看取りや緩和ケアは開業医の役割が大きいところ。そういった死生観を考えるうちに、自分の働く場所、ステージをガラッと変えて、地域医療に関わりたいと思うようになりました。
「痛み」を通じて患者の健康づくりのきっかけに
先生がお考えになる地域医療について教えてください。
私自身が考える医療の本質は大きく3つあり、1つ目が予防、2つ目が治療、そして3つ目が緩和・看取りの医療です。医療の無駄を削ぎ取って重要なところだけを残すとすれば、予防と緩和・看取りの占めるウエートが大きいと考えています。病気にならないように健康で過ごすためには、クリニックの啓発活動や生活指導が欠かせませんし、緩和・看取りの医療に関しては総合病院でも担っている部分はあるものの、その中心は在宅医療。これが進化することで、自宅で人生をまっとうし、最期は家で過ごせるんだという意識が増してきます。麻酔科は緩和ケアが一つの得意領域ですから、将来的には地域において緩和・看取りを担っていきたいですね。
そうした中、内科とペインクリニックのクリニックとして、どのようなアプローチを行うのでしょうか?
まずは、とりあえず何でも相談できるクリニックにしたいです。ペインクリニックは最もわかりやすい症状である「痛み」に特化した診療科なので、患者さんの相談窓口としての機能を持たせやすいのではないでしょうか。「どこに相談したらいいかわからない」という人も少なくありませんから、そういった方たちの受け皿になれるのではないかと期待しています。麻酔科での経験から、神経ブロック注射をはじめとした侵襲的な処置スキルは長く研鑽してきましたし、重症の患者さんを診てきた経験から命に関わる状態なのかどうかを判断する力、内科的に管理する力があります。そうした麻酔科で培ってきた経験を生かしながら、地域の皆さんに関わっていければと思います。
ペインクリニックにはなじみのない方もいらっしゃるかと思いますが、どんな時に相談すればいいのですか?
非常に簡単です。ペインは痛みですから、とにかく痛みを感じた時に受診する診療科だと理解いただければ問題ありません。頭痛、筋肉痛、腰痛、肩凝りといったわかりやすいものはもちろん、おなかが痛い、胸に痛みがあるといった際にも受診いただいて構わないのですよ。痛みを取り除くための治療に加え、その痛みの原因がどこにあるのか探っていく。当院で完結できるものは当院で治療を行いますが、原因が骨にあるとなれば整形外科と連携するなど、根本からの治療につなげます。痛み止めというと注射をイメージされる方が多いかと思いますが、実際には内服や外用薬を使うことも多いのです。痛み止めの処方に関しては他の診療科とは違ったアプローチができるので、なかなか痛みがなくならない方にも新しい提案ができると思います。
その人らしく過ごせる人生に寄り添った医療を
「人生に寄り添う」ことを打ち出していらっしゃいますが、そこに込め思いを聞かせてください。
死は誰にでも訪れるもので、現代医学で止めることはできません。だとすれば極論として、死ぬ直前まで楽しく過ごしてもらいたい。そのためには体が健康なほうがいいですよね。最近よくいわれる、健康寿命を延ばす一助になることが、人生に寄り添った医療だと考えています。しかし、こんな思いもあるんです。例えばタバコやお酒が好きな患者さんに、健康を害するからやめたほうがいいと言うのは簡単です。けれど、その人にとって人生の楽しみだとしたら、それを奪って良い人生が送れるのかどうかは疑問です。医学的に適切なことと、人生にとって適切なことはイコールではありません。何もかもを頭ごなしに否定するのではなく、その人らしさを認めながら医療を提供することも重要だというのが、私の考えです。
人生に寄り添うために診療で大切にしていることはありますか?
対話だと思います。一人ひとりの思いを一生懸命聞くことです。その時間はあまり削りたくないですね。また、考え方の順番も大切にしています。麻酔科という専門性から、どんな患者さんであっても重症度、緊急度は真っ先に考えるようにしています。痛み止めは有用な手段ではありますが、他方で痛みは人間の体が発するSOS。痛みを止めてしまうことで、抱える問題や原因がわからなくなってしまったり、処置が遅れたりしてしまっては意味がありません。そのため本当に痛みを止めていいのかというところは、反射的に処置を行うのではなくしっかりと立ち止まって考えるようにしています。
最後に今後の展望を含め、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
地域で最も相談しやすいクリニックをめざしています。クリニックや医療のハードルをもっと低くできればいいですよね。その取り組みとして、診療時間だけでなく、ランチミーティングみたいな形式で地域の皆さんと交流を図っていこうと計画中です。だからこそめざすのは通いやすいクリニック。医療には正解はありません。一人ひとりにいろいろな人生があり、その選択にも正解はありません。ですから私たちからも「これが正しい」と医療を押しつけることはありませんので、安心してご受診ください。