松本 光輔 院長の独自取材記事
こころとからだの訪問診療 まつもとクリニック
(墨田区/両国駅)
最終更新日:2025/04/15

2024年11月に開業した「こころとからだの訪問診療 まつもとクリニック」。墨田区を拠点に精神科や内科、外科など、心と体それぞれのケアを含めた訪問診療を行っているクリニックだ。都立病院の精神科で経験を積んできた松本光輔院長は、通院困難な患者や長期入院中の患者が自宅でも適切な医療を受けられる環境を整えたいと考え、開業を決意したという。「心と体は密接につながっています。患者さんにより安心して訪問診療を受けていただけるように、どちらの症状にも対応できるクリニックをつくりたいと思いました」と話す松本院長。訪問診療にかける思いはどのような経験から生まれたのか。気さくで優しい笑顔が印象的な松本院長に、現在の取り組みと併せて話を聞いた。
(取材日2024年12月10日)
地域の在宅医療を支えたい思いから開業を決意
まずは、開業の経緯を教えていただけますか?

私は総合病院国保旭中央病院で研修を受けた後、精神科の医師として東京都立松沢病院に勤務していました。その時に、通院が困難な方や長く入院されている方の中には、ご自宅へ医師が行く訪問診療を利用することで生活環境が整いやすくなる方が多いと感じたのです。患者さんご自身も、住み慣れた場所で医療を受けたいと願う方が多くいらっしゃいました。訪問診療はそうした方々を地域で支えるサポート体制の一つですが、精神科の医師による訪問診療を実施しているクリニックは少ないのが現状。たとえ精神科で訪問診療を行っていても、体の症状は併せて診られないということが少なくなかったのです。ですから心の症状と一緒に体の症状も幅広く診られるクリニックがあれば、地域のお役に立てられるのではないかと考え、開業を決意しました。
こちらで提供されている訪問診療について詳しくお聞かせください。
心の疾患と体の疾患、両方をサポートする訪問診療を実施しています。高齢になると、心と体の不安が同時に出る傾向が高いです。特に心不全や末期がんなどの疾患を患うと、心の不調が必ずといっていいほど関係してきます。また心の問題を抱えている方の中には、年齢を問わず、家から出ることや通院自体が難しい方もいらっしゃいます。そうした状況が続くと、体にもトラブルが生じてしまうケースがあるのです。そこで私たちは心と体の両方を診る訪問診療で、通院が困難な方の困り事を少しでも解消するためのお手伝いをさせていただいています。さまざまな心と体の問題を抱えている患者さんが、健康に過ごしていただけたら幸いです。さらに病気の際は患者さんに加えてご家族のメンタルケアも必要不可欠だという考えから、ご家族のメンタルケアにも努めています。患者さんご本人とご家族を支えていくことも、当院の診療のコンセプトです。
訪問診療の流れと、患者さんの層を教えてください。

まずは患者さんが利用されている病院や地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問看護師などと連携して、訪問診療の計画を立てていきます。訪問は2週間に1度のペースが基本ですが、患者さんの状態に合わせて回数を増やすこともあります。現在は心の疾患であれば認知症や統合失調症、うつ病、重度な不眠や不安障害といった精神疾患、体の疾患であれば心不全や末期がん、褥瘡などを抱えている患者さんのご自宅へ伺っています。また学校に登校することが難しい方、産後うつの方、アルコール依存症の方まで幅広く対応させていただいています。
多くの患者と向き合った経験が今につながっている
病院勤務時代、多様な研鑽を積まれてきたとお伺いしました。

病院勤務の最初の2年間は、総合病院国保旭中央病院の総合診療内科プログラムで研修を受けました。テレビドラマで見るような研修医の生活より、はるかに忙しかったです。担当の患者さんに何かあったら、夜中でも敷地内の寮から駆けつける日々がずっと続いていました。ですがそのおかげで、いろいろな診療科のスキルを身につけることができたと思っています。その後は松沢病院に勤務。精神科の救急病棟や急性期病棟、認知症病棟などを担当して、長年病気で苦しまれている患者さんや重い症状の患者さんの診療に多く携わらせていただきました。同時期には、地域の二次救急病院での内科救急や、在宅医療を行うクリニックでの仕事もご依頼をいただいていました。これらの経験が今の診療の土台にもなっています。
ちなみに、医師をめざされたきっかけは何だったのでしょうか?
もともと資格職に就きたいと考えていました。また人が倒れてしまった現場に遭遇したことがあるのですが、その時に「いざという時に何もできない自分は嫌だ」「救命処置ができる医師はいいな」と思ったのです。このように考えるようになったのは、母が薬剤師であり、資格職や医療という分野が身近にあったことも影響しているのかもしれません。学校の先生からは、私がいろいろな友人の間に入って仲良くしている姿を見て、「医師ではなく一般企業でその力を生かしたらどうだ」なんて言われることもありました。医師の仕事も患者さんとのコミュニケーションが大切ですので、結果的にこの道に進んで良かったと思っています。
在宅医療の道へ進まれた背景には、どのようなお考えがあったのでしょうか?

精神科の病院に長く入院されている患者さんの中には、退院することで社会生活を送る機能の大幅な改善が見込める方もいらっしゃいます。ただ、退院して暮らしていくためには医療者による退院後のサポートが不可欠です。また外来の患者さんで、ご家族に仕事を休み通院に付き添ってもらう必要があるといった、お一人での通院が困難な方が多くいらっしゃいます。これは体の病気の場合も同じですが、患者さんには適切な情報提供をした上で、もっと訪問診療という選択肢を提示できるようにしていく必要性があると感じました。医療を提供する側としても、百聞は一見にしかずで、ご自宅に訪問することで患者さんについてより深く理解できる部分がたくさんあると思っています。
自分らしく生きる選択を、医療で支えていく
患者さんと接する上で心がけていることはありますか?

医師である前に一人の人として、患者さんに向き合うことを大切にしています。なぜなら心と体の診療においては、患者さんと「関わりを持ち続けること」が治療の土台となります。ですから、まずは医師というよりも人としての患者さんとの関わりが必要だと考えているのです。その一環としてご自宅へ訪問をする際は、お互いできるだけ構えずに自然体でお話ができるようにと、白衣などは着ずにラフな格好で伺うことが多いです。また当院では、ご自宅での看取りに関してもご相談をお受けすることがあります。その際は、大学時代に母を病気で亡くした時に感じたことや、患者家族としての経験を生かし、患者さんやご家族に寄り添えたらと思っています。
これから取り組んでいきたいことを教えてください。
患者さんが過ごしたい場所で自分らしい生活を送ることを、医療の側面から支えていくことが一番にめざすところです。一昔前は医学的に適切かどうかが、診療方針を決める上で重要視されていました。ですが患者さんが考える人生設計の中で、その判断が正解なのかどうかはまた別の話でしょう。例えば積極的に治療をするよりも、ご自宅で過ごすことを最優先にしたいと考えるのも一つの選択肢だと思います。また心の問題を抱えている方が体の病気になった時、通常の医療を受けにくくなっている現状も気になっている問題です。私たちにできることは限られているかもしれませんが、どんな方にもより良い医療を届けることを目標に、今後も活動を続けていきたいです。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

通院や入院中の方、初めて病気と向き合う方の中には、生活面に対して漠然とした不安をお持ちの方も少なくないと思います。例えば退院後の食事や日中の過ごし方、通院や薬の受け取りをどうすればいいのかといった不安があるでしょう。そうした解決の選択肢が思い浮かばない悩みを抱いたときは、「先生に相談してもいいのかな」と遠慮せずにお声がけください。時間をかけて丁寧にお話をお伺いし、状況に応じて当院での診療をお勧めしたり、適切な相談先をご案内したりいたします。一つの「相談窓口」として、気軽にご連絡をいただければありがたいです。たとえ病気があっても、自分の生活を選ぶ権利は自分にあります。より良い選択ができるように一緒に考えていきましょう。