近藤 啓介 院長の独自取材記事
こんどうファミリークリニック
(四国中央市/赤星駅)
最終更新日:2024/12/13

四国中央市の「こんどうファミリークリニック」は、さまざまな病院の総合診療部門に勤務した経験を持つ近藤啓介院長が、地域医療に貢献することをめざし、2024年10月に開業した。プライマリケアを担う町のかかりつけクリニックは、何科を受診して良いかわからない患者や、複数の疾患を持つ患者を的確に診断し、必要に応じて他の診療科を紹介することが求められるが、近藤院長はガイドラインに沿った標準治療を丁寧に行うことを心がけている。また、待ち時間の軽減につながるシステムを導入し、患者の利便性も追求。同院のある土居町はクリニックが少なく、医師も高齢化しているという。地域医療の中心になる主治医が欲しいという地域のニーズに応えるべく奮闘する近藤院長に、同院の特徴、地域連携、訪問診療について話を聞いた。
(取材日2024年11月8日)
総合的な視点で地域のかかりつけ医をめざす
医療の道をめざしたきっかけを教えてください。

親戚に医者はいなかったのですが、看護師や介護職といった仕事をしている人が多い家系と思います。特に母が看護師だったので、その影響はあったかもしれません。両親は退職後、家の近くでデイサービスの経営を始めました。地元の人に何かできないかという気持ちが以前からあったようです。自分の今の現状を考えると、両親の影響があったのかもしませんね。なんとなく自然と医療をめざす環境に置かれていたのだと思います。研修医の頃、地域の高齢者がデイサービスに集まっていて、冗談で「いつ開業するの?」なんて言われていたんです。「いやいや、まだ若手なので」と返答しつつも、地域の期待やニーズを感じていました。そういった環境の後押しの中、自分が地域にできることをイメージしたり、どのような形で地域医療に貢献できるか考えたりしながら過ごしていました。それが、今につながっていると思います。
この場所に開業した理由は何だったのでしょうか?
大学卒業後、徳島大学病院やHITO病院などに勤務しながら、地域医療に従事したいという気持ちは継続して持っており、どういった形で地域医療に貢献すればいいか模索する日々でした。そんな時、2023年4月に閉院した青野医院から医業継承のお声がけをいただいたことで、開業するという道が開けました。まだまだ若手の医師でしたが、チャンスがあれば積極的に挑戦しようという、気持ちの準備はできていたため、一歩を踏み出せました。開業にあたって、徳島大学病院やHITO病院の先生にも相談させていただきました。相談できる頼りになる先生方がいるということはとても心強いです。青野医院は約35年、地域医療を担ってきた診療所でした。ここをかかりつけ医にしていた方たちは、当院が開業するまでの約1年半、他の医療機関にかかりつけ医を変更していたそうで、1人で遠方の病院に通うことのできない高齢の患者さんに特に喜んでいただきました。
院内設計でこだわったことを教えてください。

青野医院をリニューアルしたため、外観はあまり変わっていませんが、内装は一新しました。部屋数を多くしたいという気持ちで、院長室はなくしました。現在、医師は私一人ですが、診察室は2つ作りました。点滴や体調の悪い方に横になってもらうスペースや、相談室も設置しました。相談室は現在、主に健診用に使用していますが、将来的には何にでも使えるようにしたいと考えています。また、バリアフリーにも心がけ、階段をなくしてスロープにしました。院内に車いすを2台用意して、そのままトイレに入れるようにしています。
特殊なことではなく、やるべきことをしっかりとやる
診療の特徴を教えてください。

当院では、問診票を書くということがなく、来院したらなるべくすぐに中待合に入ってもらうようにしています。その際、看護師による問診とバイタル測定を行っています。患者さんの様子を見て、調子が悪そうな場合はすぐ横になって診察を待ってもらうなど、看護師の目が行き届くような体制にしています。症状のつらい人が待合室で長い時間待ったり、問診票を書いたりすることを少しでも減らしたいという思いがありました。看護師も積極的に動いてくれて、「先生! 今来た人、つらそうだったからベッドに移動させたよ!」という感じで、とても助かっています。
そのほか、患者さんの負担軽減のために取り組んでいることはありますか?
負担軽減になっているかは分かりませんが、スマートフォンの予約システムを導入しました。患者さん自身があらかじめ情報を入力することで、来院する前から主訴や生活歴などを把握することができ、診療時間の削減につながっています。来院する前にすでにある程度カルテが完成しているという感じで、技術の進歩に驚いています。またレントゲンにAI診断支援機能をつけました。AIの能力に驚く一方、頼りきりになると、自分の画像を読む力が伸びないので注意しないといけないとも思っています。最近は便利な診療ツールがたくさん出てきているので、うまく活用していきたいと思います。
診療にあたって心がけていることはありますか?

病気を治すことだけでなく、予防も心がけています。HITO病院に勤務していたとき、心に残っているエピソードがあります。院内の救急当番をしていたとき、頭をぶつけた高齢の男性が診察にきました。CTを撮り、頭に問題がないことを確認しその日は帰宅させましたが、その後、指導医の先生が言ってくれたことがとても心に残っています。「高齢者の転倒は過去の転倒歴を聞きましょう。繰り返している場合は、介入が必要です。内科医は受傷部位よりも転倒理由に気を配る」という言葉でした。この人はなぜ転んだのか、今後転ばないためにはどうすればよいのか、そういった予防も意識した診療を行うようにしています。
地域医療の充実のため、関係機関とも密に連携
地域連携にも力を入れていると伺いました。

地元の医療に貢献したいという気持ちがありますが、クリニックでできることは限界があります。患者さんに必要な医療を提供するためには、地域の病院との連携が必要だと考えています。入院や精密検査が必要な患者さんが、スムーズに必要な医療を受けられるよう、病院との連携を強めていきたいです。HITO病院に勤務していたときに、「2人の主治医をもちましょう」というパンフレットがありました。普段は家の近くの診療所に通院して、必要な場合は大きな病院で精密検査をするといった内容でした。そのパンフレットに記載していたことは、自分がめざしていることに一致しています。これからも、地域医療で求められている自分の役割を果たしたいと思います。
訪問診療について教えてください。
クリニックに来ることが難しい患者さんには、訪問診療の体制を取っています。地域の訪問看護ステーションと連携して、治療を行っています。大学病院などでも使用されている、ビジネスチャットツールを用いて連携を取っています。事業所の垣根を越えてコミュニケーションを活発にし、訪問診療の質を高めることは一つの目標です。在宅であっても入院しているのと同じくらいのクオリティに少しずつ近づけていけたらと思います。HITO病院に勤務していた時、土居町の方面にも訪問診療にいくことがありました。やりがいがあり良い経験でしたが、高速道路を使って片道30分ほどかかっており、あまり効率的でないとも感じていました。今回、土居町にクリニックを開業し、バランスのとれた医療体制に少しでも貢献できればと思っています。
今後の展望をお聞かせください。

地域の皆さまにとっての安心やよりどころとなる場所になればいいなと思っています。「青野医院がなくなって困っていたけど、また先生が始めてくれたので助かっています」という言葉をよく聞き、私のモチベーションになっています。病気はその時はつらいですが、後から振り返るとマイナス面ばかりではないかもしれません。タバコなどの悪い習慣をやめたり、家族と過ごす時間が増えたり、自分の生活を見直すきっかけになったりします。そういった側面があることを、診察室で患者さんと接する中で学びました。「病気になったのはつらかったけど、近藤先生と出会えて良かった」と少しでも思ってもらえると、うれしいです。