自覚症状に乏しい慢性腎臓病は
健康診断を早期発見の手がかりに
塚本内科クリニック
(東大阪市/俊徳道駅)
最終更新日:2024/12/27


- 保険診療
最近ではメディアなどで目にする機会も多い、慢性腎臓病(CKD)。腎機能が徐々に低下し、進行すると人工透析や腎移植なども必要になる病気だ。国内の患者数は約2000万人ほどと推定され、「塚本内科クリニック」の塚本仁院長は「80歳以上であれば、2人に1人と考えてもらってもよいでしょう」と懸念する。健康寿命を左右することもある病気だといえそうだが、腎機能の検査値がかなり低下しても自覚症状に乏しいことが多く、また腎機能への関心が高くないと「気づかれないままに進行してしまう場合も多いのです」と塚本院長。そこで日本腎臓学会腎臓専門医であり、長年にわたり腎臓疾患の診療に携わってきた塚本院長に、慢性腎臓病の特徴や早期発見に向けた注意点について、詳しく解説してもらった。
(取材日2024年12月13日)
目次
腎機能の低下がひっそりと進む慢性腎臓病。見逃しを防ぐために健康診断ではeGFR値に注目を
- Q慢性腎臓病とはどのような病気ですか?
-
A
▲初期の腎臓病は自覚症状を感じにくいため定期的な受診を推奨
腎臓には、血液中の老廃物を尿へ排出したり、体内の水分量や酸性・アルカリ性を調整したり、赤血球の産生を促すエリスロポエチンや血圧を調節するレニンなどのホルモンを分泌する、などの働きがあります。「沈黙の臓器」と呼ばれる腎臓のおかげで、体内の環境は一定に保たれているわけです。その腎機能が徐々に低下してしまうのが「慢性腎臓病」ですが、自覚症状は、通常はかなり進行しないと現れません。腎機能は多くの方では加齢に伴い徐々に低下しますが、高血圧症や糖尿病に高血圧を合併している方、腎炎などにかかっている方、また鎮痛剤などの内服薬を習慣的に飲んでいる方では、慢性腎臓病のリスクが高いといえます。
- Qどのようなタイミングで受診すればよいのでしょうか。
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A
▲腎臓病が気になる人には、早めに専門医師へ相談すると良い
自覚症状がほぼない初期の慢性腎臓病では、腎機能を示すeGFR(推算糸球体濾過量)が重要です。eGFRは血清クレアチニン値と年齢、性別から計算できます。血清クレアチニン値は血液検査でわかりますが、会社や行政で受ける健康診断では検査項目に含まれないこともあるので、50歳前後からは検査項目に加えてもらうとよいでしょう。eGFRが「60mL/分/1.73m2未満」であれば、慢性腎臓病が5段階のうちステージ3まで進行している目安ですので、腎臓専門の医師に早めに相談してください。血圧や尿たんぱくは正常なのにeGFRだけ低下することもありますから、ぜひeGFRに注目し、定期的に確認してほしいと思います。
- Qそのまま放置しておくと、どんなリスクがありますか?
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A
▲超音波検査では腎臓の形状や、結石・腫瘍の有無などを確認する
体内に老廃物がたまって疲れやすくなったり、過剰な水分によるむくみ、息切れ、さらにレニンやエリスロポエチンの異常に伴って高血圧や貧血もみられますし、高血圧が続くと腎臓への負担が増してさらに腎機能が低下することも。さまざまな症状が重なり「常につらい」という状態になるのが、eGFRが「15mL/分/1.73m2未満」でステージ5にあたる末期腎不全です。こうなると命に関わる可能性もあるため、腎機能を肩代わりするための人工透析や腎移植を導入します。なお、慢性腎臓病の進行のスピードは画一的ではなくまちまちですが、高血圧の方や、糖尿病や腎炎で尿たんぱくなどの尿検査異常がある方では、進行が早い傾向もあります。
- Qこちらで受けられる治療について教えてください。
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A
▲脱水気味だと検査結果にも差が出るため、再検査を行う場合もある
受診の目安はeGFRが「60mL/分/1.73m2未満」とお話ししましたが、検査の時期が夏場で脱水気味であったりするとクレアチニン値が高くなりeGFRが低く出ることも。ですので当院では改めて検査を行い、それでもeGFRが同様の値であれば治療に入ります。いったん落ちた腎機能は元に戻りにくいので、治療の目標は腎機能が悪化するスピードをできるだけ遅くすること。食事療法による血圧管理や適度な運動など、生活の見直しから始めます。また、最近は腎臓の保護効果が期待できる降圧薬や糖尿病用薬がありますし、腎性貧血に対してはエリスロポエチンを補うためのお薬もあるので、症状に合わせた投与を行います。
- Q慢性腎臓病の進行を防ぐために気をつけることは?
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A
▲塩分やたんぱく質の制限など食生活の改善が欠かせないと話す院長
最も大事なのは、ご自身が慢性腎臓病であるとの意識を持ってもらうことです。高血圧を回避するためには塩分制限が欠かせませんし、若い方ではたんぱく質を控えることも大切です。禁煙や節酒、薬の服用にも配慮が必要で、それまでの生活習慣を改めるのは簡単ではないでしょう。ですが、腎機能低下の先には人工透析などのより大変な治療が控えています。ですので診察では「そうならないように、できる限りの治療をしましょう」と励ましながら、個々の患者さんに適した治療や処方をご提案します。慢性腎臓病であることにいち早く気づき、適切な管理によって腎機能の低下にブレーキをかけ、健やかな生活の継続をめざしましょう。