大草 幹大 院長、大草 真季子 さんの独自取材記事
杉並オリーブホームケアクリニック
(杉並区/高井戸駅)
最終更新日:2024/09/26
2024年8月、杉並区高井戸に「杉並オリーブホームケアクリニック」は開業した。院長の大草幹大(おおくさ・みきひろ)先生は、消化器内科・消化器外科で経験を積み、在宅医療の道に進んだという経歴の持ち主である。また漢方薬や東洋医学にも知見の深いオールラウンダーだ。「もっと一人ひとりに寄り添った医療を」という思いから、看護師である妻・大草真季子さんとともに同院を開業した。院名やロゴに含まれているオリーブは知恵や平和の象徴といわれており、「医療という知恵で、平和で満足した人生を地域の方々に提供したい」という院長の思いが込められている。常に笑顔を絶やさず、お互いを信頼し合っている様子が伝わってくる幹大院長と真季子さんに、在宅医療にかける思いや今後の展望などを聞いた。
(取材日2024年8月29日)
子どもの頃に読んだ医療系漫画に憧れ医師の道へ
幹大院長が医師を志したきっかけは何ですか?
【幹大院長】高校時代はギタリストが夢でした。しかし高校2年生の終わり頃、いざ進路を決めるという段階になって「ギターで食べていくのは難しいのでは?」と感じるように。またその頃、医療系の漫画を読んでいたことをきっかけに医師をめざすことに決めました。漫画の主人公の、自分の信念を持ちながらも患者さんに優しく寄り添って、きちんと結果を出すところに憧れたんです。ちなみにギターは今でも続けています。私はずっと左利きでありながら右手弾きをしていたのですが、最近になって左手弾きに変更。その際に、独学でなくきちんと学んだほうが良いと思ってギター教室に通い始めました。診療を行う時は「先生」ですが、ギター教室では「生徒」として学び直しています。
大学卒業後の、幹大院長のご経歴を教えてください。
【幹大院長】医学部卒業後、研修医時代は産婦人科医になることを考えていました。非常にやりがいのある仕事でしたが、例えば腸管を縫う必要が出てきたとき、消化器外科の先生に手伝ってもらわなければなりませんでした。そうした経験から「自分で腸管も縫合できたら」と考え、消化器外科で研修を受けることに。そして修練しているうちに外科の魅力に目覚めて、そのまま消化器外科医になったんです。その後、医局から派遣されて訪問診療にも関わるようになりました。その際に訪問診療は、それぞれの診療科に分かれている大学病院の診療と違って、より患者さんの生活に密着した関わり方ができるなと感じたのです。
こちらのクリニックがある杉並区はどんな地域なのでしょうか?
【幹大院長】杉並区の人口は約57万人、そのうち12万人が高齢者だというデータがあります。つまり5人に1人が高齢者ということになり、近隣の他区と比べると高齢者の割合が少し多い地域になりますね。また集合住宅よりも一戸建てが多く、一人暮らしの方も多い印象です。このようなことから杉並区は、在宅医療の対象となる患者さんや、将来的に訪問診療が必要になってくる方が多いかもしれませんね。
患者本人だけでなく、家族にも寄り添う姿勢を大切に
在宅医療のやりがいや難しさなどを教えてください。
【幹大院長】患者さんが実際に生活しているご自宅に伺うので、患者さんやご家族が安心しているのがわかります。治療の内容が同じだとしても、病院で介入する場合よりもリラックスしてくれていると感じますね。生活指導をする際も、実際の生活環境がわかっていたほうがスムーズだと思っています。例えば糖尿病患者さんのお部屋に空のジュースのペットボトルが置いてあれば、それを話の取っかかりにして食事指導につなげるなど、患者さんの生活に基づいた介入ができるのが良いですね。一方で、在宅医療には限界がある点に難しさを感じています。状態によっては入院が必要となることもあるでしょう。そこで当院では連携医療機関への入院を進めております。そして将来的に当院を有床のクリニックにすることで、地域に貢献したいと考えております。
真季子さんは、在宅医療とどのように関わっていきたいと考えていますか?
【真季子さん】在宅医療の知識はまだ浅いのですが、救急医療での看護に携わっていた期間は長いと自負しています。ですから「この患者さんは救急搬送したほうが良い」などの急変時の対応や、退院された患者さんが急性期病院でどのような治療を受けてきたかの理解が必要なときに、救急医療での経験が生かせるでしょう。また私の母が訪問診療を受けているのですが、在宅介護をしてくれている家族から話を聞くと、大変さをひしひしと感じます。実際に訪問するようになった際には、介護をしているご家族の方が疲弊していないか、ストレスを感じていないか、そういった点にも寄り添っていきたいと思っています。
これまでの経験で、印象に残るエピソードをお聞かせください。
【幹大院長】以前、重症化し食事を取れなくなった患者さんのご家族から、ご飯を食べさせてあげたいと「食事を元に戻して」と言われたことがありました。無理に食べさせると肺炎になるリスクもあり悩みましたが、ご家族の意向にも可能な限り対応できたらなと考えました。そこでまずは時間をかけてリスクについてご説明し、とろみをつけたものを楽しむことから始めましょうと伝えたところ、納得していただけました。医学的な正しさだけでなく、誠心誠意対応することで伝わることもあると勉強になりました。
【真季子さん】救急医療に携わっていた頃、事故で動けなくなった患者さんがいました。歩くどころか車いすに乗るのも難しく、患者さんは自暴自棄になってしまったのです。何か私にできることはないかと考え、ベッドのままでの散歩をご提案しました。そして退院後、患者さんから「あの散歩が励みになった」と言っていただけたことが印象に残っています。
住み慣れた家で、安心して医療を受けられる暮らしを
在宅医療の課題や、それについての思いをお聞かせください。
【幹大院長】ここ数十年で高齢者はどんどん増えており、これからも増えていくでしょう。しかし「住み慣れたわが家で最後を迎えたい」と思っていても、実際にそれができる方は1割もいないといわれています。ほとんどが医療機関や介護施設のベッドで最期を迎えるのだそうです。患者さんのご希望をかなえられないという問題と同時に、本当に医療機関での治療が必要な方が満床を理由に入院できなくなるという問題も含んでいます。この現状が少しでも良くなっていくよう私たちは頑張っていきます。そして当院がもっと地域の役に立てたら幸いです。
今後の展望をお聞かせください。
【真季子さん】床ずれの管理や治療を学びたいです。寝たきりの方は適切に管理しないと床ずれができやすく、一度なってしまうと治療に時間がかかります。在籍していた病院にいた床ずれケアを専門とする看護師を参考にしながら、当院では私がケアに尽力できたらと思っています。
【幹大院長】入院が必要になった患者さんを当院でも診ていけるように、有床のクリニックにしたいと考えています。また西洋医学だけでは対応が難しい症状を漢方で治療する際に使う漢方薬をもっと増やしていきたいですね。さらに透析の患者さんが在宅医療となるケースも今後増えていくと思うので、腹膜透析の管理も勉強したいと思っています。ちなみに近いうちに地域の中核病院と協働して、入院患者さんに私が直接介入しスムーズに在宅への移行ができる「訪問診療導入の外来」を始める予定です。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
【真季子さん】私は看護師ですが、それでも家族を自宅で介護するとなれば不安を感じると思います。また実際に自宅介護が始まってからも、心配事がたくさんあるでしょう。自宅で介護をしている方は、皆さん同じ思いをお持ちだと思っています。ですから遠慮せず、些細なことでも私たちに相談していただけたらうれしいです。
【幹大院長】まだ開業したばかりのクリニックですが、血液製剤を用いた輸血やアルブミンなども、在宅医療で必要がれば実施できるように体制を整えています。私たちが地域の皆さんに頼っていただけるクリニックになることで、在宅医療が皆さんにとってもっと身近になれば幸いです。