佐藤 卓 院長の独自取材記事
藤沢IVFクリニック
(藤沢市/藤沢駅)
最終更新日:2025/06/13

藤沢駅から徒歩6分という通いやすい立地にある「藤沢IVFクリニック」。その名のとおり、体外受精(IVF)に注力する不妊治療専門のクリニックだ。父や祖父も産婦人科の医師という環境で生まれ育った佐藤卓(さとう・すぐる)院長は、幼少期よりIVFの可能性を感じ、情熱を絶やさず今日まで診療を続けてきた。恩師や培養士など人との出会いにも恵まれ、このたびの新規開業に至ったという。不妊で思い悩むカップルが後悔のない選択ができるよう、一人ひとりに適した情報を取捨選択し、自己決定の後押しをする佐藤院長。患者に寄り添う姿勢と、道を示すために必要な知識と技術、経験を兼ね備える院長に、IVFにかける思いや今後の展望などについて聞いた。
(取材日2024年9月6日)
IVFへの夢と憧れが産婦人科の医師としての原動力
院名にもある「IVF」との出会いを教えてください。

私が小さかった頃、産婦人科の医師である父がIVFに関わった出来事が始まりでした。その後、父の異動に伴い引っ越した福島県では顕微授精が実施され、2度目の衝撃を受けました。東北地方にいながら先進の研究を肌で感じられることを、何だか誇らしく思えたんですよね。このような生い立ちのため、今もなおIVFの技術に基づく治療には夢と憧れを抱いています。女性の役に立つ方法がさまざまある中で、IVFという分野を仕事にし、社会への貢献につなげられたのは何よりです。なお父の同僚の先生方には、ありがたいことに現在もご指導をいただいています。
IVFにおける先生の診療スタンスを伺います。
当たり前のことを当たり前にやることと、無駄をそぎ落としたシンプルなIVFの提案に努めています。現在、産婦人科では多岐にわたる検査やケアが存在しますが、根拠や有用性が証明されているものは残念ながらあまり多くはありません。新しい方法が必ずしも有用ではなく、個人的には従来から実践されているIVFも十分選択肢になり得ると考えています。また日本は「不妊治療大国」と言われることもありますが、 実際にはその医療制度や治療成績が世界をリードしているとは言い難く、特に採卵周期あたりの成績や、画一的な運用ルールには見直しの余地が大きいと感じます。だからこそ診療においては、限られた利用可能な選択肢の中から、患者さんご自身が納得できる選択をしていただけるよう、 十分な情報提供と対話を大切にしています。
内装や設備の面でこだわったところはありますか?

ハーバード大学の関連病院の教科書を昔から愛読していたこともあり、その憧れのクリニックの内装も参考にしました。ボストンの町のイメージでもあるれんがや金属といったインダストリアルな要素を当院にも取り入れようと試行錯誤し、結果的にれんがと相性が良いダークブラウンを基調とした落ち着きのある雰囲気になったと思います。培養室の設備をしっかりと整え、設備と同様に大切な「人」も確保しました。当院の培養士は、かつての勤務先や勉強会で親交を深め、いつか一緒にクリニックをつくろうと話していた仲間たちです。彼らと出会えたことも、開業を決意できた理由の一つですね。本当はその前に野球チームを結成しようと冗談交じりに語らっていたのですが、そちらは開業よりも難しいかもしれません(笑)。
後悔しない選択のための、適切・丁寧な説明をめざす
IVFに取り組む一方で、卵管鏡下卵管形成術(FT)にも対応しているそうですね。

FTは自然妊娠をサポートする手段の一つです。もともとは卵管内を観察するために開発された国外の検査法ですが、私が在籍していた大学の研究室で、治療的意義も備えた技術として発展・応用されました。卵管因子により妊娠が難しい女性は約4割、カップル単位では約3割といわれています。当院では、他の検査で卵管に異常所見がある患者さんに対し、FTを選択肢の一つとしてご説明しています。FTは自然妊娠の可能性を広げるのに役立つだけでなく、IVFを検討すべきかの判断にも有用です。卵管閉塞が疑われる方に限らず、より多くの患者さんにとって有用な選択肢となり得ます。ただし、高額な医療費が伴うため、すべての方に適用できるわけではありません。「手術の適用をどう判断するか」が最も難しい点でもあるからこそ、まずは当院にご相談いただき、ご自身の状態を正しく理解した上で、治療を選ぶかどうかを一緒に考えていけたらと思います。
患者さんと接する際に大切にしていることは何でしょうか?
患者さんが振り返った時に「十分な説明を受けた上で、自分たちがどうしたいかを自分たちで選べた」と思えることが最も大切です。そのため、生殖に関する自己決定の人権は最大限に尊重していますね。また、心と体の関わりの観点から病気や状態を説明する心身医学というものがありますが、生殖医療においてこの考え方は無視できません。不妊治療が長引けばどうしてもつらい思いをする方がいて、状況を改善できないケースもあります。その中で「どうしたら心穏やかに治療に参加してもらえるか」を考えた時、私たちにできるのはデータに基づいた説明を欠かさないこと。そしてご自身の状態をしっかりと把握してもらい、場合によっては治療をしないという選択肢も含めてじっくり方法をご検討いただいています。日常生活にも治療にも前向きになれるよう、知識・経験を踏まえて適切な情報をお伝えすることが一番の励ましになると信じています。
痛みなど、身体的な負担に対して配慮していることもありますか?

痛みの感じ方には個人差があり、不安な気持ちの大きさによっても痛みの感じ方は変化します。従って、処置の前にはどの程度の痛みがあるのか、我慢できるレベルなのかなどをきちんとお話しするのが当院のスタンスです。事前の説明が足りていれば過度に不安に思うことはなく、それが痛みの感じ方にも作用するでしょう。加えて、処置をなるべく短時間で行い、その際の出血量を可能な限り抑えられるように日々技術研鑽にも注力しています。迅速かつ適切な操作がより良い胚の獲得につながると信じております。
IVFを通じて多様な目的をかなえられるクリニックへ
人生において印象に残っている出来事・言葉などはありますか?

祖父も父も産婦人科医で、自分も同じ道を進むべきか迷っていた時、父から「それは嫌なのか?」と聞かれたことが、医師としてのターニングポイントになりました。もちろん嫌ではありませんでしたし、もともと産婦人科の医師になってぜひIVFに取り組みたいと考えていたため、そこで決意が固まりましたね。慶應義塾大学を研修先に選んだのも父の勧めだったのですが、そこでかけがえのない経験ができ、今でも当時の指導医と良い関係を築けていることに感謝しています。特に印象に残っているのが、恩師のモットーである「楽しくなければ人生ではない」という言葉。恩師がつらかった時に、お母さまからかけられた言葉だそうで、私も苦しい時にこの言葉を思い出しています。
今後の展望をお聞かせください。
さまざまな目的を持った患者さんが、IVFを通じて自分たちのしたいことを実現できる場所になりたいと思っています。近年は多くの自治体で、がん患者さんに対する妊孕能温存のための生殖医療の助成金制度などが導入され始めていますので、当院でも既に妊孕性温存療法研究促進事業指定医療機関として、診療環境を整備しております。また現代では、社会的な理由で多くの女性が妊娠や出産を後ろ倒しにするケースが増えています。そして仕事を優先したとしても、将来子どもを持つことを諦めなくて済むような選択肢も増え続けています。その意味でも、多様な悩みや要望を持った人たちに困った時に頼っていただけるようなクリニックになるのが目標です。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

妊娠は、たとえ何の問題もないカップルであっても簡単にはいかないものです。さらに心と体の関係も密接であるため、過度な心配は不妊治療にネガティブな影響を与えます。時には何度もつらい処置を受けたり、金銭や心身の負担が大きくなってしまったりする場面もありますが、そこでできる限り患者さんが脱落しないよう、当院が精一杯フォローさせていただきます。一番大切なのはやはり、ご本人たちが前向きな気持ちでいること。そして医療者側には、本当に必要なものを選択するまでの過程を示す役目があります。ご自身の今の状態をしっかりと把握するためにも、よろしければ私たちの話をぜひ聞きにいらしてください。