橋詰 史朗 院長の独自取材記事
高洲在宅クリニック
(千葉市美浜区/稲毛海岸駅)
最終更新日:2024/10/01
千葉市美浜区にある「高洲在宅クリニック」は、さまざまな背景から通院が困難になった患者のニーズに応え、健康管理からリハビリテーション、緩和ケアまで幅広く在宅医療に取り組むクリニックだ。同院は、長年在宅医療に携わってきた橋詰史朗院長とともに看護師やケアマネジャーをはじめとした専門職が連携し、患者の思いに寄り添った医療の提供に注力している。インタビューでは、冒頭から取材陣を笑わせ、あっという間に場の雰囲気を和やかにする橋詰院長。初対面でも肩の力を抜いて話ができるような温かい人柄が感じられる。数々のエピソードにふれる中で「患者の尊厳」を何よりも大切にする橋詰院長の診療にかける熱意が伝わってきた。
(取材日2024年8月29日)
体のつらさだけでなく、気持ちにも寄り添う医療
まず、こちらのクリニックの特徴を教えてください。
当院は名前のとおり、在宅医療を専門とするクリニックです。何らかの理由があって医療機関へ通院できない方に対して、訪問診療の契約を結ばせていただき、私たちがお伺いすることが基本スタイルとなります。月2回程度の頻度で訪問する他に、急に具合が悪くなった時に臨時の要請があった場合は24時間365日体制で対応しています。訪問先は老人ホームなどの施設が多いですが、個人宅での診療も行っています。患者さんやご家族が何に一番困っていらっしゃるのかを医師自らの目で確かめ、考える。そして、何を工夫すれば負担の軽減を図れるのか、医学的な観点から提案をさせていただく。これが在宅医療ならではの特徴的な部分ですね。
在宅医療ではどういった方を診ているのですか?
患者さんのニーズは本当にさまざまです。例えば末期がんの患者さんであれば、ご本人の体のつらさだけでなく、患者さんを支えるご家族のお気持ちのサポートをすることも大事な役目だと考えています。また、私は神経内科を専門としていますので、病気の後遺症で体を動かしづらくなってしまった患者さんに対するリハビリテーションにも注力してきました。お家の中での体の使い方・使われ方を詳しく見ながら「ここをこうしたら、体を動かしやすいですね」といったアドバイスをするなど、もろもろの問題を少しずつ解決していく手だてを一緒に考えていきます。在宅医療の強みは、お体の状態だけでなく、生活環境を含めて患者さんの状態を把握できる点ではないでしょうか。
幅広い医療の専門職と関わりがあるそうですね。
はい。患者さんがご自宅や施設で心地良く過ごしていけるようなサポートをめざして、看護師、薬剤師、ケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーなど多職種と連携しています。当院は内科を標榜していますが、他の診療科目の医師や歯科医師に診療の依頼をすることもありますし、ご希望があればご自宅で胃ろうチューブの管理交換も可能です。当院以外の医療機関との連携が複雑になってきますが、密に報告・連絡を行う必要があるので、ICTを活用して情報のやりとりがスムーズになるように配慮しています。1人の人間ができることには限りがありますが、それぞれの専門性を発揮して協力し合うことで、患者さんとご家族のお力になれると考えています。
柔軟な対応ができる在宅医療とは
先生が医師をめざそうと思ったのはなぜですか?
私自身はサラリーマンの家庭で育ったのですが、祖父と伯父が医師だったこともあり、幼稚園を卒園するぐらいには医師になりたいと思っていました。実は、私は医学部在学中に、自分にはどうすることもできない理不尽な理由で留年を経験しています。単位はほとんど取っていて時間があり余っていたこともあり、数々の職種でアルバイト生活を送りました。学生の頃にさまざまな職場を自分の目で見てきたことで、患者さんから過去の苦労話をお聞きした時に、おかげでより深い共感を寄せることができるようになりました。若い頃は悔しい気持ちもありましたが、今になってみれば医師としての仕事にプラスになっていることばかりですし「無駄になったことは一つもなかった」と思えますね。
在宅医療を専門にされたきっかけを教えてください。
私は医師になった当初、東京都内の病院に就職したのですが、病院の方針で「外来の診療の他に、往診も経験してもらうよ」と言われて、往診について行ったのが在宅医療との出合いです。私が脳梗塞の後遺症がある患者さんを担当した時に「自分にリハビリのサポートができないか」と思ったのですね。それが神経内科の道に進むきっかけとなりました。病院でのリハビリで取り組んだことが、自宅で生活にどうつながるのか。そのイメージを明確にしないまま「家での生活に意味のないリハビリ」になってしまっては本末転倒になってしまいます。生活環境を見ながら患者さんと関われることが在宅医療の魅力だと思っていますし、それが私のやりがいになり、今も診療を続けるエネルギーになっています。
在宅医療につながることにハードルが高いと感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
ご本人が家で過ごしたいという希望を持ったとしても、ご家族の負担が大きくなって誰かが倒れてしまうことはあってはなりませんので、バランスを考慮しなくてはならないと感じています。それに、いったん在宅医療を受けると決めても、やってみてから考えが変わることはいくらでもあることですから、柔軟に対応するようにしています。例えば、末期のがんの患者さんがご自宅で最期を迎えたいという希望を持って帰って来たとしても、我慢できない痛みなどがある時に、病院のほうが苦痛を和らげる選択肢が多いのであれば、入院することだってあり得ます。安心して在宅医療を受けていただくために、契約の際には「途中で考えが変わっても構いませんよ」ということをお伝えするようにしています。
一人ひとりの「どう生きたいか」を大切に
生活スタイルが多様化している時代ですが、医療のあり方も変化しているのでしょうか。
患者さんによって、さまざまな背景やお考えがありますので、対話を繰り返しながらご本人の思いを引き出すようにしています。お一人で不安を抱えていらっしゃる方には「老人ホームなど、頼れる機関にお願いするのも一つの手ですよ」というお話をさせていただきます。逆に「一人暮らしが好きだから、持病があったとしても気兼ねなく過ごしたい」という願いを持つ方には「定期的にヘルパーさんが来るのは大丈夫ですか?」といった提案をすることもあります。また、以前と比べて「自宅で最期を迎えたい」とご自分の意思を発言できる方は増えてきていると感じています。患者さんのご家族から「静かにゆっくり旅立つことができて良かったです」というお言葉をいただけたなら、私の中にも最期を迎えるまでのお手伝いができてありがたかったなという思いが湧いてくるでしょう。
先生はQOL(生活の質)を大切にされているそうですね。
QOLについて私の考えを端的に表現すると「ご本人の尊厳を最大限尊重すること」になるでしょうか。患者さんご本人が、人生の中で築き上げてきた自分自身に対しての人生観などすべて含めて、最期まで「どう生きたいか」というお気持ちを伺うことを心がけています。患者さんが「こうしたい」「こうされたい」という思いを発信してくださるのであれば、それを最優先することが、ご本人の尊厳を尊重することに直結しやすいと考えているからです。病気の中には残念ながら治療しても治らないものもあります。「これを食べてはだめ」といった制限で縛りつけることより、時には好きなお酒や甘い物を楽しみながら自宅で過ごしたほうが、患者さんのためになる場合もあると思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
当院は訪問医療に特化したクリニックですので、ご自宅であれ施設であれ、さまざまなご病気の方や体の状態に対応できるように体制づくりに努めています。「この病気を抱えたまま自宅で過ごすのが難しいのでは?」と不安に思う場合でも、前向きに善処いたします。もちろん、ケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーを通じて相談することもできますよ。私自身は「医療は押しつけであってはならない」と考えていますし、双方が心から納得していることを大切にしています。相談した時に「今回はやめておきます」と伝えていただいても構いませんし、その際は「また何かあったらご連絡くださいね」とお返事をするようにしています。何か不安なことや心配事がありましたら、一度お話をお聞かせください。