冨士井 睦 院長の独自取材記事
宝塚ふじいクリニック
(宝塚市/逆瀬川駅)
最終更新日:2024/11/15

脳卒中後、まひが残って体がうまく動かせない、言葉が思いどおりに出てこない、食事の飲み込みづらさを感じるなどの後遺症が残る場合がある。それらはリハビリテーションにより機能の回復が図られるが、退院後に主治医が変わるとリハビリのことを相談できなくなることも。2024年11月に開院した「宝塚ふじいクリニック」はそんな現状を打破したいと、退院はしたものの後遺症を抱えた患者の外来治療や訪問診療を行う。また脳卒中の予防に重要な生活習慣病の治療や、薬が手放せない片頭痛の治療にも対応していくという。冨士井睦(ふじい・むつみ)院長に、開業までの経緯やめざしていく姿などについて詳しく話を聞いた。
(取材日2024年7月12日/情報更新日2024年11月15日)
脳卒中と後遺障害を熟知したかかりつけ医になりたくて
脳卒中で入院していた患者さんを専門的に診るクリニックだと伺いました。

私は長らく脳神経外科、そしてリハビリテーション科の医師として脳卒中の患者さんたちを病院で診てきましたが、その中でどうしても勤務医だと手が届かない部分があると感じていました。それは「脳卒中の急性期病院、あるいは回復期リハビリ病院から自宅へ退院したものの、後遺症を抱えながら生活することになった患者さんへの十分なサポート」です。脳卒中の後遺症にはさまざまな程度や種類があります。例えば体にまひが残る場合、失語症など言葉に支障が出る場合、嚥下(飲み込み)が難しくなる場合などです。人それぞれに違いがあるこれらの症状を、すべてきちんと理解して、ベストなコンディションで生活を送れるように整え、かつ、再発予防・治療までしっかり行うためには、脳卒中とその後遺症のことがどちらもよくわかっている医師自らが地域に飛び出して、かかりつけ医として患者さんに向き合う必要があると考えました。
とにかく脳卒中の患者さんをたくさん診てこられたとか。
はい。脳神経外科医時代は脳卒中、特に脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の手術治療を中心に診療をしていました。その後大学から、くも膜下出血の基礎研究では世界で3本の指に入るといわれている米国ロマリンダ大学に留学する機会をいただきました。兵庫県立リハビリテーション中央病院では脳卒中患者さんのあらゆる後遺障害をなんとかできないものかと、回復期リハビリテーション病棟医として熱心に診療をしてきました。すなわち、予防・診断・治療・リハビリ・社会復帰に至るまでひとえに脳卒中と向き合ってこれまでやってきました。
かかりつけ医がリハビリテーション科の医師って珍しいと思うのですが、どんなメリットがあるのですか。

普通は入院生活が終わると、退院後の治療は、急性期病院のもとの脳神経外科の先生や、地域の内科医に引き継がれます。そうすると後遺症状の回復や生活の質の向上といった話題は出にくくなり、十分な回復までつなげられないことがあります。ご存じのように、体の機能が脳卒中になる前と同じレベルにまで回復することは残念ながら難しいもの。そこで当院では、体を動かす、しゃべる、飲みこむといった能力を少しずつでも回復させるために、リハビリテーション科を専門とする医師が主導する治療を続けることができます。また、どうしても後遺症が残ると家に引きこもりがちになってしまいますが、外出して活動することはすごく大切なこと。とにかく諦めないで、患者さんがやりたい活動に参加するためにはどうしたらいいかを一緒に考えたい、といった視点までもったかかりつけ医ってなかなかいないと思います。
宝塚で患者と信頼関係を築き、全人的医療を実施
宝塚市を開業の地に選ばれたのはなぜですか?

勤務していた兵庫県立リハビリテーション中央病院は神戸市にあり、近隣の方であればそこでレベルの高いリハビリを受け続けやすいといえます。しかし、離れた地域にお住まいの方は、そうはいきません。であれば、私が病院から離れた場所にクリニックを構えて、中央病院で提供していたような医療やリハビリをその地域で実践すれば、より多くの患者さんへの接点がつくれると考えたのです。幸い当クリニックが入る商業施設には、車いすがそのまま入れるバリアフリートイレがあり、阪急今津線逆瀬川駅からも直結しており、さらに駐車場もかなり広いので、車で通院しやすい環境にあります。患者さんや付き添いのご家族の方が使いやすく、また生活習慣病を治療する方がお仕事帰りやお昼休みなどに足を運びやすい場所として、このビルを選びました。
より具体的にクリニックの特色を教えてください。
脳卒中にまつわるあらゆる相談事が可能です。例えば、まひがある場合でも、筋肉を動かしやすくするためにボツリヌス毒素製剤の注射をし、新たな装具を作って歩行能力の改善を促すこともできます。また、認知機能の経過を評価したり、失語症や嚥下障害には言語聴覚士による言語リハビリで症状の改善を図ります。また、本当は対象に該当しているのに、そのことを知らずに必要なサービスを受けていない方には、介護保険、身体障害者手帳、障害年金などといった社会資源の有効利用を提案して利用できるようにし、皆さまの生活を支援します。寝たきりで外出できない近隣の方には、胃ろうや気管切開、尿カテーテルなどの管理も含めた患者さん宅への訪問診療を行います。その際、飲みこみづらさがあれば嚥下内視鏡を持参しての検査もさせていただきます。このようなことを、脳卒中の再発予防の面からきちんと内科的治療をしながら行うことができます。
どのような方が外来での言語リハビリを受けられるのですか。

実は適応例は多岐にわたるのですが、一例を挙げると、新たに失語症状や嚥下障害が出現してから日が浅く、介護保険のサービスを受けていない方は言語リハビリの対象になります。復職や社会復帰など、目標を定めて行うとリハビリの効果もより期待できると思います。当院の訪問診療を利用している患者さんには訪問にてリハビリを行うことも検討できます。まずはクリニックへ来院して適応があるかどうかご相談ください。
高血圧などの生活習慣病の治療や頭痛の外来も
脳卒中の予防には高血圧・糖尿病などの生活習慣病の治療が大事なのですね。

脳卒中は生活習慣病の治療を日頃からちゃんと行っておくことで、ある程度予防ができる病気でもあります。高血圧や糖尿病や脂質異常症、また高尿酸血症や不整脈、肥満といった状態は、皆さまが普段受けられる健康診断でも「要受診」などと指摘されていることがあります。「無症状だから」とか、「薬を飲みたくないから」と放置しないでまずは受診することが大切です。脳卒中になってしまったら本当に大変なのです。お仕事などで忙しければ時々オンライン診療を用いながら、治療の中断がないように配慮します。また、最近歩きづらくなった、飲みこみづらくなった、認知症かも、といったお悩みもお気軽にご相談ください。ただお子さまの診療経験はほとんどないので、小児診療については基本的に他院をご紹介することになるかと思います。
慢性頭痛の治療についても教えてください。
頭痛の治療は近年大きく進歩してきています。片頭痛は女性に多く、痛い間はまったく動けず何もできないなど、日常生活に支障を来す原因となることも少なくありません。市販の頭痛薬を頻繁に使用している場合は、一度ご相談ください。連携医療機関に頭部の画像診断を依頼し、病気が隠れていないか検査することもできますが、片頭痛を正しく診断して、症状を軽くするのに役立つ薬を見つけたり、必要なら月1回の注射薬も使ってみたりして片頭痛の発症頻度や重症度を減らすためのお手伝いもしていきたいですね。
では最後に、地域の皆さんへのメッセージをお願いします。

私自身、病気の後遺症と付き合いながら生活していた家族と、足に幼い頃から装具をつけて生活していた親戚がいて、そのような人たちに何かできないかという思いから医学の道を志しました。脳卒中後のリハビリはまだ手が行き届いていない分野ではありますが、少なくとも私が地域に出ていくことで脳卒中の後遺障害と付き合いながらもより豊かに自宅で過ごせる方を一人でも増やせることを願っています。脳卒中に詳しい医師にかかりつけ医になってほしい、受診はできないけれども近くに住んでいるから訪問診療に来てほしい、外来での言語リハビリでもっと自分の能力を取り戻したいという方はぜひ、当院へお越しください。またほかのクリニックでは難しかったお悩みもぜひご相談ください。