瀬尾 卓司 院長の独自取材記事
うじな家庭医療クリニック
(広島市南区/宇品四丁目駅)
最終更新日:2026/06/03
広島市南区宇品にある「うじな家庭医療クリニック」は、小児科から総合診療、がん診療、在宅医療までを一体的に担う、全国的にも珍しい機能を持つ医療機関だ。院長の瀬尾卓司先生が掲げるのは、「どんな悩みでもまず相談できる場所」であること。0歳から高齢者まで幅広い世代に対応し、地域に根差した医療を提供している。中でも力を入れているのが、がん経験者である「がんサバイバー」を対象とした外来だ。がんの治療前から治療後まで継続的に支援し、患者と家族が安心して生活できる環境づくりをめざしているという。また、地域医療の底上げやへき地医療の支援、勉強会の開催などにも取り組み、広島全体の医療に貢献する存在を志している。そんな瀬尾院長に、これまでの歩みと診療への思いを聞いた。
(取材日2026年4月24日)
原体験と専門性が形づくった医師としての軸
医師をめざしたきっかけを教えてください。

高校時代、父が病に倒れたことがきっかけで、医師を志すようになりました。当時は長野の高校に通っており、夜に連絡を受けたときは大きな不安に襲われました。翌日広島に戻り、無事だったと知って安心したのを覚えています。その経験から医療への関心が強まりました。もともと医師の家系ではありますが、幼い頃は医師になりたいという思いはありませんでした。ただ、身近な人の命に関わる出来事を通じて、「自分も何かできる立場になりたい」と自然に思うようになったんですよね。医療の現場で人を支える仕事に魅力を感じるようになりました。
総合診療や腫瘍内科を専門に選ばれた理由は何でしょうか。
大きな転機となったのは、大学在学当時、スキルス性胃がんの患者さんが広島で十分な治療が受けられないことを知った時です。当時、静岡まで移動して治療を受ける患者さんの姿を見て、がん診療の地域格差を実感しました。当時、日本にはがんを専門的に診られる医師がまだ少ないと感じ、腫瘍内科の道を志しました。一方で、がんだけでなく幅広い症状に対応できる力も必要だと考え、総合診療の領域も選択しています。専門性と総合力の両立が、現在の診療スタイルの基盤となっています。どちらかだけでは足りないと感じたからこそ、今のかたちに落ち着いたのだと思います。
これまでのご経験の中で印象に残っていることを教えてください。

初期研修を受けた沖縄県立中部病院は、いわゆる「研修医の聖地」とも呼ばれる場所で、非常に厳しい環境でした。沖縄では医師不足を背景に、若い医師を育てながら地域医療を支えていく仕組みが整っているのが特徴です。実際に「断らない医療」が当たり前の文化で、救急も含めてとにかく受け入れる姿勢が徹底されていました。かなりの激務ではありましたが、その分実践的で、「とりあえずなんでも診る」という感覚はここで身についたものなんですよね。どんな患者さんが来てもまず対応しようと思えるのは、この経験があったからだと思いますし、今の診療スタンスの土台になっていると感じています。
誰でも診るという理念と地域に根差した医療
クリニックの特徴や強みについて教えてください。

当院の最大の特徴は、「病気の人も健康な人も、誰でもなんでも診る」というスタンスです。小児から高齢者まで幅広い世代に対応し、内科・外科・整形外科など複数の領域をカバーしています。頭痛や風邪といった日常的な症状から、子どものけが、働き世代のメンタルの悩み、高齢者の関節痛まで幅広く対応しています。常勤・非常勤合わせて複数の医師が在籍し、それぞれの専門性を生かしながら診療しているのも特徴です。検査機器も充実しており、必要に応じて専門医療機関への紹介も行っています。受診のしやすさにも配慮し、インターネットやSNSから予約できるほか、予約なしでも受付順で診察できる仕組みにしています。「ここに来れば何とかなる」と思ってもらえる場所にしたいと考えています。
がんサバイバーの支援にも力を入れているそうですね。
がんは2人に1人がかかるといわれていますが、地域でしっかりフォローできる医療機関はまだ多くありません。大きな病院では患者数が多く、一人ひとりに十分な時間を割くのが難しい現状があります。治療内容や検査数値の見方、副作用への不安など、患者さんが抱える悩みは多岐にわたりますが、気軽に相談できる場は限られています。セカンドオピニオンについても遠慮してしまう方が多いのが実情です。当院ではそうしたギャップを埋める存在として、治療中から治療後まで継続的に関わっています。抗がん剤治療のフォローや在宅での対応なども含めて支えたいと考えています。
多職種や複数医師での診療体制について教えてください。

現在は複数の医師が在籍し、それぞれの専門性を生かした診療を行っています。小児科や整形外科など、患者さんのニーズに応じて医師を選べる点も特徴です。また、在宅医療では24時間体制で対応し、外来診療中であっても緊急時には迅速に動ける体制を整えています。訪問看護ステーションとも連携しながら、地域全体で患者さんを支える仕組みづくりを進めています。外来から在宅へ、在宅から外来へとシームレスに移行できるのも特徴で、一人の医師だけで抱え込むのではなく、チームで支えることが安心につながると考えています。
地域医療の未来を見据えた取り組み
診療で大切にしていることを教えてください。

診療で最も大切にしているのは、「断らない医療」です。困っている方が来院されたときに、「ここでは診られません」と言うのではなく、まずは話を聞き、できる限り対応することを心がけています。時間外や休日であっても必要な処置があれば対応し、患者さんの不安を少しでも軽減したいと考えています。症状だけでなく、その人の背景や生活も含めて見ていくことが大切だと思います。「健康だけど少し不安がある」という方でも気軽に来ていただける場所でありたいですし、まず相談してもらえる存在であり続けたいです。
今後の展望を教えてください。
将来的には、地域医療の持続可能な仕組みを構築していきたいと考えています。実家は世羅郡で120年以上続く瀬尾医院ですが、今後も50年、100年と地域医療を支え続けるためには、新しい形が必要です。へき地医療の在り方も時代に合わせて変えていかなければならないと感じていますし、これまでのように血縁だけで支えていくには限界もあります。若い医師が関わりやすい仕組みをつくることが重要だと思っています。その第一歩として、まずは広島市内で新しい取り組みを実践している段階です。また、地域全体の医療レベルを底上げするための勉強会の開催なども継続していきたいですね。将来的にはその仕組みを地方にも広げ、「このクリニックがあったから地域医療が続いている」と言ってもらえるような存在をめざしていきたいと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

体調に不安を感じたときや、どこに相談すればよいかわからないときは、気軽にご相談ください。当院は、年齢や症状にかかわらず幅広く対応しています。特にがんに関する不安や疑問を抱えている方には、正しい情報をもとに一緒に考えていきたいと思っています。医療は一人で抱え込むものではなく、頼れる場所があることが大切だと思うんです。「ここに来て良かった」と思っていただけるような存在でありたいので、どんな小さなことでも遠慮なく相談していただければうれしいです。

