渡辺 英靖 院長の独自取材記事
横浜まちだクリニック
(横浜市青葉区/田奈駅)
最終更新日:2024/09/06

24時間365日体制で自宅や介護施設に暮らす人々の健康を見守り、在宅医療を専門とする「横浜まちだクリニック」。院長の渡辺英靖先生が同院を立ち上げたのは2011年。一人で始めたチャレンジだったが、今ではさまざまな専門性を持つ総勢19人の医師が集う。チーム医療で日本有数の長寿エリアでもある青葉区を中心として診療にあたっている。平日は夜間も携帯電話を肌身離さず持ち続ける生活をずっと続ける渡辺院長だが「もう慣れました」と、パワフルそのもの。快活な笑顔で訪れる渡辺院長から元気をもらっている患者や家族も多いだろう。日本リハビリテーション医学会リハビリテーション科専門医でもある渡辺院長に、どのように専門性を生かしているのか、何を大切に診療にあたっているのか詳しく聞いた。
(取材日2024年6月4日)
リハビリテーション科の経験を生かして在宅医療に尽力
まず、医師をめざしたきっかけやご経歴を教えていただけますか?

僕は広島の大崎上島(おおさきかみじま)の生まれで、取り上げてくれたのは島に1人しかいない産婦人科医師でした。小さな島の住民たちに頼りにされ、ほぼなんでも診てくれた先生が黒い往診バッグで歩いていた姿を今も覚えています。曽祖母を看取ってくれたのもその先生でした。そんなこともあって祖父は僕に医師になるよう勧めるようになり、おじいちゃん子だったこともあり、頑張ってみようと思ったんです。岡山の川崎医科大学を卒業した後は昭和大学のリハビリテーション科に勤務しました。リハビリテーション科の医師はよく誤解されるのですが、リハビリテーションだけを専門としているわけではありません。内科はもちろん整形外科、皮膚科、泌尿器科などの疾患にも対応し、患者さんの全身を管理します。そんな総合的な診療の研鑽を積んだ後に開業を志すようになりました。
なぜ、開業しようと思うようになったのですか?
リハビリテーション科の医師は何らかの障害がある方々が元の生活に戻れるようにサポートするのも仕事の一つです。生活上の問題点をチェックするために患者さんの自宅を訪問するなど在宅医療に近い診療を経験して、そこに特化したクリニックの必要性を感じ開業に至りました。その頃はまだこのエリアも、在宅医療を専門とするクリニックは珍しかったのですが、今ではすっかり増えましたね。当院は今では機能強化型在宅療養支援診療所となり、他院と連携しながら診療にあたっています。訪問歯科診療に取り組む歯科医院も増え、嚥下機能のチェックなどもお願いできるようになったのは心強いですね。
在宅医療はどのような方が利用できるのですか?

在宅医療は、「入院」「外来診療」に続く「第3の医療」ともいわれており、ご自宅や施設での療養生活を支援するものです。基本的には医師が患者さんを定期的に訪問して、診療、検査、薬の処方、予防的な指導などを行います。一人では通院できないすべての方が対象で、中には若い方もいますが、ご高齢の方が圧倒的に多いですね。在宅医療の認知度は年々上がっていますが、それでも「訪問診療という制度を知らなかった」という方も多いので、しっかりと周知していきたいと思っています。
さまざまな専門性を持つ医師が24時間365日待機
次に、診療体制や診療内容について教えてください。

開業当初は僕一人ですべての患者さんを診ていました。現在は医師の数も常勤2人・非常勤17人の合計19人に増えて、5台の車で患者さんを訪問しています。外科、呼吸器内科、消化器内科、神経内科、整形外科などを専門とする、年齢やキャリアもさまざまな医師たちが集っているのは強みです。お互いの専門性を生かして相談し合いながら、チーム医療で患者さんに臨むことができますからね。基本的に担当制ではありますが、すべての患者さんの状況を全員で共有し、24時間365日いつでも対応できる体制にしています。また、往診バッグの中身も年々進化していて、ご自宅でもポータブルエコーで超音波検査もできるようになりました。胃ろう交換用の内視鏡も装備し、胃ろう交換を家でできるようになったので、患者さんとご家族の負担は大きく軽減したと思います。従来はどうしても、半年に1度の交換のために通院が必要でしたからね。
看取りに対応されることも多いのでしょうか。
はい。看取りも数多く経験してきました。すべての患者さんが忘れ難いですが、お亡くなりになる直前に「人生の最後に先生に会えて良かった」と言われたことは、今も深く心に残っています。病状にもよりますが、訪問診療と看護師やヘルパーの手助けがあれば自宅での看取りは十分に可能なんです。一方で、病院からご自宅に戻ることで健康を取り戻すというケースもあります。病院で食事ができなくなり「最期は家で」となったのに、帰宅した途端に普通に食べられるようになって、その後何年も元気に過ごしている、なんていうケースは決して珍しい話ではないんですよ。在宅医療に携わる医師は誰もが、こうしたことを体験しているのではないでしょうか。
診療にあたって大事にしていることは何ですか?

このエリアでも一人暮らしのお年寄りが増えていて、自宅に来る医師、看護師、ヘルパーなどが唯一のコミュニケーションの相手というケースも多々あります。ご家族と暮らしている方も含め、常に身内のように思って接することを大切にしています。治療法の選択肢を説明するときも「自分の親なら、これにします」と一言添えることもありますね。また、リハビリテーション科の医師として、どのような障害も個性と考え、どうしたらより良く生活できるのか常に考え続けています。病気だけではなく、その人そのものと向き合う診療とも言えるでしょう。「何が専門か聞かれたら『人間です』と答えられるような医師になれ」という恩師の言葉を今も胸に刻み、日々患者さんたちと向き合っています。
家族的な訪問診療を必要とするすべての人に届けたい
今後の展望についてお聞かせください。

さらにいろいろな診療科の医師が、訪問診療のメンバーに加わってもらえるようにしていきたいと思っています。特にニーズが高いのが皮膚科です。床ずれの処置などは他科の医師でもできますが、治りにくい湿疹など、診断が難しい場合もあります。また、緑内障や白内障などのお悩みも多いので眼科の先生にも参加してもらえたらと思っています。患者さんは通院が難しいから僕たちを頼ってくれているのに、皮膚科や眼科だけ病院に行ってくださいというのは酷な話です。現在は医師会の先生にお願いして往診に向かってもらうこともありますが、クリニック内にさまざまな診療科の医師がそろっていれば、よりスピーディーに対応できます。また、今後はオンライン診療などもできるように、現在準備を進めているところです。
お忙しい毎日ですが、休日はどうお過ごしですか?
開業当初は2歳だった息子も中学生になり、今は野球に本格的に取り組んでいます。強豪クラブチームに所属していて、僕も用具の責任者を務めているので休日はだいたいグラウンドにいます。実は、僕自身も小学生の頃から大学を卒業するまで野球をしていて、ピッチャーやサードをしていました。息子とは時々、キャッチボールもしますが、彼もポジションはピッチャーで、135kmの球を投げるポテンシャルを持っているので、なかなか大変です(笑)。ずいぶん昔のことになりますが、小さかった息子と2人でいたところに急に患者さんに呼ばれて、仕方なく連れていったことが一度だけあります。患者さんにもご家族にも喜ばれましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を経験した今となってはとてもできないことです。でも、親戚の家を訪れるような気持ちだけはずっと持ち続けたいと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

メディアでも取り上げられる機会が増えた在宅医療ですが、必要としている方にまだまだ届いていないと感じています。実際「もっと早くに利用すれば良かった」と患者さんに言われることも本当に多いですから。訪問診療という制度があることを知っていただき、もっと利用してもらえたらと思っています。医療費に関しても、クリニックの場所を基点として半径16km圏内ならば保険適用になります。横浜市の場合、身体障害者手帳2級以上をお持ちならば医療費はかかりません。よく心配なさる方もいますが、交通費や出張費なども頂きません。患者さんやご家族が笑顔で暮らせる手助けをできればと思っていますので、どんな小さなお悩みでも気軽にご相談ください。