伊藤 聡富子 院長の独自取材記事
伊藤歯科医院
(名古屋市昭和区/鶴舞駅)
最終更新日:2025/11/06
鶴舞公園近くの大通り沿いで76年の歴史を刻む「伊藤歯科医院」。4代目院長の伊藤聡富子先生は「誰もが通いやすいクリニック」の実現のため、祖父が昭和区で開業した歯科医院を2024年7月に継承し、併せて新築移転を決断した。明るくハキハキとした印象の伊藤院長だが、その奥には「患者さんの意思をできるだけ尊重したい」という両親から受け継いだ揺るぎない信念がある。愛知学院大学口腔外科での研鑽、市立伊勢総合病院での医療経験を経て培った全身管理の知識は、今も日々の診療で生きているという。「困ったなと思ったら、まず早く来てもらえるように」と語る伊藤院長に、バリアフリー設計へのこだわりや診療への思いを聞いた。
(取材日2025年9月22日)
76年の歴史を未来へつなぐ新たな挑戦
1948年開業という長い歴史を持つクリニックですが、継承の経緯を教えてください。

もともと祖父が福江で開業し、その後この地に移転してきました。祖父、父、母と続いて、私で4代目になります。父が亡くなった後も母が前院長として診療を続けてきました。ただ、診療室が2階にあり、高齢の患者さんで通うのが難しいという方もいらっしゃいました。「1階に診療室が欲しい」という思いから移転を決め、昨年7月に私が院長になるタイミングで隣の敷地に新築しました。以前はスタッフ用駐車場だった場所に新しいクリニックを建て、旧クリニックがあった場所が今は駐車場になっています。祖父の時代から70年以上通ってくださる患者さんもいて、本当に地域に根差したクリニックだと実感しています。
新築にあたって特にこだわった点はありますか?
「誰でも通いやすいクリニックにしたかった」というのが一番の想いです。スロープはもちろん、院内は段差を一切なくしたバリアフリー設計にし、エレベーターも絶対に必要だと考えて設置しました。個室にはキッズスペースを併設し、小さなお子さん連れの方、周りの音が苦手な方、手術の時など、さまざまなニーズに対応できるようにしています。駐車場も6台分確保し、横のスペースも広く取って、運転が苦手な方でも止めやすくしました。また、できるだけ明るく、安心して通える雰囲気を大切に、壁紙や色合いも工夫しています。スタッフも季節に合わせて上手にウォールステッカーで飾りつけしてくれており、通院のハードルを下げるための工夫を設備面でも雰囲気づくりでも心がけています。
先生が口腔外科を専門に選ばれた理由を教えてください。

今は高齢の方や多くの薬を飲まれている方が増えていて、入院せずにご自宅で療養される方も多くいらっしゃいます。そういった方々の治療には、全身的な知識がないと病状に合わせた適切な対応ができないと考え、全身管理を学ぶのに適している口腔外科分野を選びました。純粋に外科が好きだったというのもあります。愛知学院大学の口腔外科に数年在籍し、市立伊勢総合病院などに出向しました。伊勢では離島から船で来る患者さんもいて、「絶対に出血させないように」という僻地医療ならではの工夫を学びました。5時の船に間に合うよう時間管理をしたり、何回も来なくていいよう効率的に治療したり。その後、大阪や名古屋市中区でも勤務し、訪問診療やインプラント治療、睡眠時無呼吸症候群の対応なども経験してきました。
専門知識を生かし患者の人生を見据えた診療
口腔外科での経験は現在の診療にどのように生かされていますか?

全身管理の知識は本当に頼りになっていますね。例えば麻酔をして血圧が上がった時、「これくらいなら待てば大丈夫」とか「これは中止すべき」という判断が適切にできます。口腔がんの早期発見もそうですね。初期症状を見極めて、怪しいと思ったら早めに大学病院に紹介できる。必要なら当院で細胞診もできます。摂食嚥下機能への対応も口腔外科の経験が生きています。「この筋が衰えているからむせることが多い、だからこういうトレーニングをしましょう」と解剖学的に理解しやすいです。訪問診療でも、全身状態を把握しながら治療方針を立てられるのは強みですね。
訪問診療や睡眠時無呼吸症候群の対応にも力を入れているそうですね。
訪問歯科診療は、通院が難しくなった患者さんのために始めました。月曜と水曜を中心に、歯科衛生士と2人で施設やご自宅を訪問しています。訪問でも、歯を削ったり水が出たり、吸引などができる機材を持参するので、クリニックでやることはだいたい対応できます。入れ歯の調整も可能です。睡眠時無呼吸症候群は、以前勤めていた歯科医院で多くの患者さんを診た経験から始めました。内科や耳鼻咽喉科でまずは検査をしていただいて、マウスピースが適応となった方にオーダーメイドで作製します。気道を広げるための装置が使えない方や、その手前の段階の方に有用です。口の中だけでなく全身の健康にも関わることなので、医科と密に連携しながら進めています。
患者さんとの向き合い方で大切にしていることは何ですか?

両親を見て一番尊敬しているのは、「できるだけ患者さんの希望に沿い、かつ医学的にも正しい」という姿勢でした。患者さんの意思をできるだけ尊重する歯科医師です。私もそれを継承したいと思っています。患者さんがどうしていきたいか、ご自身の歯ですから、今後年を取ったときにどうなっていくのかも含めて一緒にお話しして相談しながらやっていくことが大事です。例えばかぶせ物一つとっても、将来磨きにくくならないよう、歯周病が進行しないよう、その方の状況に合わせて形を工夫します。父や母のカルテを見ると、20年前にそういう配慮がしてあって感動することもあります。メンテナンスも60分しっかり時間を取って、お話を伺えるようにしています。
チーム医療で支える地域の「口腔健康」
スタッフさんとの連携で心がけていることはありますか?

「患者さんが困っていたら助けてあげて」と伝えていますが、言わなくてもみんなできている優しいスタッフばかりです。若手からベテランまでそろっています。実は私が聞き取れないことをスタッフが聞き取ってくれることが結構あります。例えば患者さんが待合室で「先生に言うほどじゃないんだけど」と話されたことが、実は重要だったりすることもあります。そういったことをくみ取り、情報共有してくれるのがすごく助かっています。患者さんとの円滑なコミュニケーションを図ってくれるスタッフの存在は本当に頼りになりますね。月に1回院内で勉強会も開いていて、希望があれば外部の勉強会にも参加してもらっています。みんなで学び、成長していける環境づくりを大切にしています。
今後の展望について教えてください。
今はいろんな病院にお願いしていることも、今後は当院でできるように設備を整えていきたいです。例えば、睡眠時無呼吸症候群の診断に役立つよう、気道が見えるCTを導入しようと考えています。なかなかそういう機能を持つCTは大学病院でも扱っていないことが多いので、当院で撮影できるようになれば患者さんの負担も減らせます。訪問診療用のポータブルレントゲンも検討中です。スタッフとともにどんどん勉強して、幅広い治療が行えるようにしていきたいですね。自動精算機も導入していますが、省力化できるところは機械に任せ、その分患者さんと向き合う時間を増やしていきたいと思っています。
地域の方へメッセージをお願いします。

まず「困ったな」「これってどうなんだろう」と思ったら、早く来てもらえるように、できるだけハードルが低い歯科医院にしていくつもりです。行くほどじゃないかなと思っても、一度電話して来てみてください。意外とご自分では自覚していない問題が見つかることもよくあります。予防は本当に大事で、何もなくても定期健診で来ていただければ、病気の前兆も見つけることができます。ご自分では気づかないような初期の虫歯や歯周病も早期に発見できますし、将来的なリスクについてもお話しできます。お気軽にご相談ください。これからも地域の皆さんの口腔健康を守るお手伝いができればと思っています。

