宮本 泰周 先生、安田 吉孝 先生の独自取材記事
あさがおこども歯科クリニック
(尾張旭市/三郷駅)
最終更新日:2024/09/12
尾張旭市晴丘に位置する「あさがおこども歯科クリニック」は、日本歯科麻酔学会歯科麻酔専門医の宮本泰周先生と、日本専門医機構認定麻酔科専門医の安田吉孝先生が2024年4月に開業した、小児や障害児を対象に日帰り全身麻酔による歯科治療を行う歯科医院だ。クリニック名の「あさがお」は、江戸後期の医師・華岡青洲が開発した麻酔薬に用いたチョウセンアサガオに由来する。「怖い思いをしてきた人は、それをなくせるように。そもそも、歯科治療に恐怖心を抱くことがないように。麻酔を使った歯科治療を提供できるクリニックをつくりたいと考えました」と語る宮本先生と安田先生に、開業の経緯や診療にかける思いを聞いた。
(取材日2024年8月30日)
小児や障害児を恐怖心から救うための全身麻酔歯科診療
こちらは全身麻酔による歯科治療に特化したクリニックだそうですね。
【宮本先生】障害や強い恐怖心、いわゆる「歯科治療恐怖症」によって歯科治療が受けられない子どもは潜在的に一定数います。ですが大学病院などで全身麻酔下による歯科治療を受けるとなると、数ヵ月待ちとなることも珍しくありません。こういった現状を変えたいと考える中で、「全身麻酔による歯科治療を行うクリニック」をつくることは、他の人にはできないことだと思ったんです。それで愛知医科大学麻酔科学講座時代に上司だった安田先生にお声がけして、開業に踏みきりました。
【安田先生】宮本先生から話を持ちかけられた際、自分の培った専門性が社会貢献につながるのならやってみたいと率直に思いました。尾張旭市での開業を決めたのは、私たちが勤務していた愛知医科大学病院が近いことも理由の一つです。万が一麻酔で大きな合併症が起きた際には搬送できるように体制を整えています。
どのような患者さんが受診されていますか?
【安田先生】歯科医院が怖くて治療できないお子さん、あるいは障害のために意思疎通ができなかったり、診療中診療チェアに座り続けるのが難しかったりするお子さんですね。開業クリニックからの紹介の患者さんも多いですよ。年齢としては、4歳、5歳くらいから18歳までです。嫌がって暴れてしまうような患者さんがいたとしても、お断りせず受けつけられる体制を整えています。
【宮本先生】当院では過剰歯抜歯にも積極的に対応しているので、その相談も多いです。過剰歯抜歯は通常、病院の口腔外科での入院が必要になりますが、当院であれば日帰りで対応できます。
治療で用いる麻酔薬や、全身麻酔を扱うために必要な設備もそろえなければならないかと思います。
【安田先生】当院の診療での全身麻酔は、大学病院など大きな病院で行われるものと同等で、用いる薬剤もほとんど一緒です。単に麻酔薬といっても種類はさまざまあり、当院でも複数の麻酔薬をそろえています。事前の診察でどの麻酔薬を使うかをしっかり検討し、診療後の様子などを親御さんにヒアリングして情報を集め、より合うものを選定できるように努めています。
【宮本先生】診療室は完全個室で、全身麻酔器と生体モニターは各3台ずつそろえています。それと、患者さんの目には入りませんがすべての診療室には酸素や笑気ガスを安全に供給できるよう配管が設置されています。全身麻酔のための診療室、といったところですね。万が一急変した場合にも適切に対応できるよう、救急関連のツールもそろえています。
全身疾患にも精通した麻酔科の医師が管理
麻酔を使うとなると、体への影響などを懸念される保護者も少なくないかと思います。
【安田先生】確かに全身麻酔と聞くと、ハードルが高く不安に思われるかもしれません。ですが実際は重篤な状態に陥る確率は非常に低いとされています。当院では麻酔に関する説明はすべて私が担当し、初めに具体的な確率の数字などを詳細に説明し、同意を取った上で治療に進みます。また、受診前にもある程度基礎知識や治療の流れをご紹介したいと思い、当院のウェブサイトにも世界における全身麻酔下での歯科治療の普及に関するデータや、治療の流れの解説動画などを掲載しています。
【宮本先生】ヨーロッパでは、怖がるお子さんを無理やり押さえつけて歯科治療をすることは虐待と捉えられ始めています。日本でも今後、少しずつ全身麻酔下での歯科治療が普及していくのではないかと考えます。ただ安全面のことを考えると、合併症が起きた際の緊急処置、全身疾患の知見も長けた麻酔科の医師が欠かせないとも感じます。
診療に際してどんなことを心がけていますか?
【宮本先生】一口に歯科治療恐怖症といっても、歯科治療の何が怖いのかは人によって異なります。音が怖い、椅子に座るのが嫌、押さえつけられて怖くなってしまった。患者さんごとに異なる「怖いこと」を見極めることが重要ですね。あとは、事前にマスクをつけるトレーニングを行ったり、笑気ガスにイチゴなど果物の香りをつけたりと、無理なく麻酔をかけられるよう工夫しています。
【安田先生】眠りに導くまでの間、患者さんが安心感を持てるように親御さんに付き添ってもらっています。治療が終わったらリカバリー室に移動して休んでいただくのですが、休息中は必ず私が回診しています。次の診察で来院した際、親御さんに前回の診療後の様子をお聞きすることも大事なポイントです。中には、院内だと喋ってくれない患者さんもいるので、受診後の様子などを聞いて、麻酔を選定する際の参考にしています。
診療を支えるスタッフの存在も大きいと思います。
【宮本先生】非常勤の歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付スタッフが診療を支えてくれています。歯科衛生士の中には障害者歯科治療に携わったことのある人もいるのですが、全身麻酔に関しては未経験なので、開業前にしっかりとシミュレーションを重ねてきました。開業後も数より質を重視し、適切に診療することを優先してきました。そのおかげもあって、最近ではスピード感がついてきたように思います。
【安田先生】全身麻酔を行う場合、1回あたりの診療に要する時間は、治療内容にもよりますが2時間程度です。将来的には歯科医師の数を増やして、質を保ちつつ診療数を増やしていけたらと思っています。
「歯科治療は怖くない」を当たり前にすることが目標
全身麻酔下での歯科治療に対する、先生方の思いをお聞かせください。
【宮本先生】どの歯科医院にも相手にしてもらえなかったという患者さんもいらっしゃると思いますが、そういった方の受け皿となれているとうれしいです。適切にサポートできる歯科治療を提供しているという自負がありますし、患者さんやご家族が喜ぶ姿に手応えを感じています。
【安田先生】麻酔は奥が深くて、合うものは人それぞれなんです。当院の場合はガス吸入から始まるのですが、ガスは嫌、注射も怖い、前投薬も苦くて飲めない、といった方もいらっしるでしょう。ぴったり合う方法を見つけるのも麻酔科の医師の腕の見せどころですので、やりがいを感じます。
今後、どのような目標を見据えていらっしゃいますか?
【宮本先生】歯科治療恐怖症にさせない、歯科治療恐怖症をなくすことが、私たちがめざす本質的な目標です。子どもの時に経験した嫌な記憶って、ずっと残りますからね。最初から全身麻酔下で歯科治療をすることで、嫌な記憶を残さないよう努めます。歯科治療恐怖症の根本的な原因をなくすために、全身麻酔下での歯科治療を広めていきたいと思っています。障害がある人の場合、できないことも多いかもしれませんが、全身麻酔を取り入れることでできないことを補い、できることを増やしていけるようになるのも、理想形かなと考えています。
読者へのメッセージをお聞かせください。
【宮本先生】過剰歯抜歯のような、通常であれば入院を伴う治療も当院であれば日帰りで受けていただけます。乳歯の虫歯は、将来生えてくる永久歯にも影響するものですから、治療の機会を逃さないに越したことはありません。全身麻酔を行うことで、怖い思いをすることなくスピーディーに治療を進められることが、患者さん本人にとって良いことだと思っています。
【安田先生】全身麻酔は安全面に配慮されたものです。特にお子さんは懸念されるような合併症はほとんどないとされていますから、親御さんたちが想像するような危険性は低いと考えて良いかと思います。疑問や不安にもしっかりとお答えいたしますので、気軽にご相談ください。