高橋 良斉 院長の独自取材記事
谷町中央ストレスケア・クリニック
(大阪市中央区/谷町四丁目駅)
最終更新日:2024/04/15
さまざまな心の不調を抱え、体の不調にまで発展して苦しむ人が後を絶たない現代社会。そうした症状の解消と生活の改善を目的として、2024年に大阪市の中心街のビル内で診療をスタートさせたのが「谷町中央ストレスケア・クリニック」だ。「身体的な健康に自信をお持ちの方であっても、精神的な不調は起こり得ます」と語るのは、院長を務める高橋良斉先生。柔和な語り口でありながら言葉に迷いがなく、他者に敬意を尽くす誠実な人柄が会話からも伝わってくる。適応障害・心的外傷後ストレス障害などのストレス症状や、不安・気分障害、神経発達症といったさまざまなメンタルヘルスの不調に、どのような信念で向き合っているのか。豊富な経験に培われた高橋院長の方法論や、開業医としての新たな心境にじっくりと迫った。
(取材日2024年4月6日)
医療・心理・生活の3つの視点で患者のQOL向上を
まずはメンタルヘルスに関わる疾患の症状について教えてください。
筆頭として挙げられるのは、心理的なストレスが原因となって体の症状や感情の不調が現れる病状ですね。症状は患者さんによって異なりますが、不眠や食欲低下、胃腸の不調、頭痛、めまいなどがよくあるケースで、薬を処方してもなかなか治らないと内科や産婦人科の先生方からもご紹介いただくことがあります。もちろん、強い気分の落ち込みや不安が生じることも特徴です。このような症状が続く方は、心療内科や精神科を一度受診していただくとよいかもしれません。近年では、ストレス障害においても薬物療法が治療の主体となっています。医学の視点から見れば正しいことですが、現時点ではストレス症状のすべてを薬物療法でカバーできるわけではなく、心理療法の併用が必要となるケースが少なからずあります。
診断や治療を行う上で先生が大切にしていることは?
患者さんの不調を理解するために私が大切にしているのは、「医療の視点」「心理の視点」「生活の視点」という3つの心の見方です。精神科疾患の場合、治療で表面的な症状の軽減さえすれば患者さんの生活の質(QOL)が改善するとは限りません。医療という一つの視点だけで人を捉えるのではなく、必要に応じてそれぞれの視点を切り替えながら患者さんに向き合うことが治療の前提です。単純に症状を抑えるだけでなく、最終的な目標は患者さんのQOLを改善すること。そのために、今必要なものは何か。その優先順位をつけるには、3つの視点を持ち合わせた治療と支援のコーディネーターとしての医師の存在が不可欠と考えています。
コーディネーターとは、どのような役割を指すのでしょうか?
先ほどの3つの視点は、それぞれ「薬物療法」「心理療法」「社会福祉サービス」という3つのサポートに置き換えることができます。その3つを専門的に検討しながら患者さんにとって優先順位が高い道筋を選択し、それぞれのサポートをコントロールすることがコーディネーターの役割だと考えます。私はかつてストレスに関する基礎医学研究に従事しておりましたが、同時に、臨床では心理療法を併用していました。また、精神保健福祉センターという行政機関に勤務し、社会福祉や司法の専門家と一緒に仕事をすることで他の専門家が精神科医療をどのように見ているのかを学ぶ機会もありました。このような経験の中で、薬物療法の知識に加えて、心理療法や福祉、司法の知識についても勉強させていただきました。今回の開業を機にそれぞれの支援の効果を最大限に発揮するべく、適切なコーディネーターとしての役割を果たしていきたいと思います。
ストレスの原因は目の前で起きていることだけではない
どのようなものがストレスの原因として考えられますか?
ストレス反応の原因は2つに分けて把握することが重要です。1つは現在直面している体験であり、もう1つは過去の体験により身についた反応や対処法です。現在の過酷な体験により不調を来しても、過去に同様のストレスに適切に対処できた経験がある方なら、休養などにより比較的スムーズな回復が望めます。逆に、子ども時代からこれまでの間に、厳しい養育環境やいじめ被害、ハラスメント、繰り返し自信を失う体験などの問題を抱えられた場合には、現在の体験が些細なものであっても過去のつらい体験とリンクして強い反応が引き起こされます。周囲から見れば「その程度のことで?」という出来事でも、患者さんにとっては重大な問題となるのです。職場などで直面する問題自体にも対処が必要なことは当然ですが、必ずしもそれだけですべてを解決できないところがストレス障害の難しい部分です。
患者さんは不調の原因がストレスにあることを自覚していますか?
体に不調が出るほど強い反応が起こっているにもかかわらず、患者さんがその原因を自覚できていないケースもあります。ストレス反応を一時的に抑える薬を飲めば直後には症状改善が見込めますが、環境やストレス対処が改善しなければ再発し、服薬が長引けば次第に薬の効きが悪くなったり、依存につながるリスクがあります。薬物療法をおこなう場合にも、患者さんご自身がストレスの原因に気づき、正しく理解されたうえで適切な心理的対処法を身につけることにより、薬物療法のリスクを低減しながら、症状の改善とQOLの向上を図ることが可能となります。
患者さんが受診する際に、どのような心構えが必要ですか?
先程お話ししたように、周囲の人達が見た問題の大きさと、患者さんご自身が感じられる問題の大きさは異なることが普通です。些細な問題が原因であるように思えても、身体症状や気分の反応が強い場合にはご来院のうえ、お気軽にご相談ください。特別な心構えは必要ありません。もしひとつあるとすれば、症状や悩みごとの他、薬物療法、心理療法、福祉サービス支援などの治療・支援は「今、ここ」にあることをご理解ください。過去の過酷な体験がストレス障害の原因のひとつであるとしても、私たちは過去にさかのぼって問題を解決することはできません。過去のできごとが問題であると思えても、それを「今、ここ」でのできごとととらえ直す新たなこころの見方、視点を持っていただければと思います。その視点は、ストレス症状と悩みの悪循環から脱出するためにとても役に立ちます。簡単ではないこともありますが、一緒に取り組んでいきましょう。
引き算ではなく足し算で治療に臨んでほしい
谷町四丁目交差点の一画という、ずいぶん便利な場所にありますね。
ここは官公庁や企業が集中するビジネス街で、少し南に行けばマンションなどの住宅街。さまざまな方のニーズに応えられるようにと、この場所での開業を決めました。駅が目の前という便利な立地ですが、ビルはさほど目立たず、7階の全フロアを借り切っていますのでご来院にあたっては人目が気になりにくいでしょう。待合室や診察室は豪華ではありませんが、患者さんに落ち着いて過ごしていただけるように間取りや内装を工夫し、プライバシーにも配慮しています。
現在の受診状況について教えてください。
当院ホームページをご覧になって受診していただく方、他の診療科の先生からのご紹介などで、すでにいろいろな症状の患者さんが受診されています。年齢層は20歳前後から80歳台までと幅広いですね。初診、再診ともウェブ上やスマホアプリから予約していただけます。スマホアプリにはクレジットカードをご登録いただくことも可能で、患者さんから好評をいただいています。もちろんお電話での予約も可能です。心理カウンセリングに関しては、医師診察とのセットとなり、医師が必要と判断した患者さんに受けていただいております。
最後に、心や体の不調で悩む患者さんへメッセージをお願いします。
たとえ不調であっても、たとえ失敗を重ねているとしても、日々の生活をあきらめずにコツコツとがんばっておられる「ありのままの患者さん」を尊重することが私たちの治療、支援の出発点です。大切なことは、周囲の人や理想の自分から引き算して今の自分を低く見るのではなく、ありのままの自分を尊重したうえでひとつひとつの工夫や治療を自分自身に足し算していくことです。このような心の見方、視点を取りながら、専門的な薬物療法、心理療法、福祉サービスについて提案させていただきます。受診にあたって不安な気持ちになることは自然なことです。私たちの診療の原則は、患者さんにとって受診することがQOL改善のための成功体験のひとつとなることです。丁寧な言葉遣いや患者さんの気持ちに寄り添ったサポートを心がけていますので、ぜひ安心して受診してください。