入谷 克巳 院長の独自取材記事
入谷K脳神経外科クリニック
(豊田市/上挙母駅)
最終更新日:2024/09/13
2023年10月10日に開業した「入谷K脳神経外科クリニック」。院長を務める入谷克巳先生は、長く脳神経外科医として研鑽を積み、これまで緊急手術の執刀や救命医療に携わるほか、大学の講師を務めるなど、豊富な知識と経験を持つエキスパートだが、常に謙虚で物腰がやわらかい。診察でのカルテの入力はシュライバーに任せ、院長は常に患者の顔を見て話してくれるため安心だ。また、「娘に私の仕事に興味を持ってもらいたくて、ホームページに黒猫をあしらったんですよ」と、良き父親の一面も垣間見えた。専門性の高い技術や経験がありながらそれにおごらず、人を大切にする温かな人柄が、話す言葉一つ一つからにじみ出ている入谷院長に、これまでの経験や患者と接する上での心がけなど、多くの話を聞いた。
(取材日2023年11月8日)
「脳卒中による死亡者ゼロ」をめざす
開業までの経緯を教えてください。
開業の背景には、「脳卒中による死亡者ゼロ」を目標に掲げ、それを達成する最善の道と考えたからです。これまで子どもたちに親の後を継ぐ責任を負わせたくないという思いが開業を躊躇させていましたが、今では開業後のさまざまな選択肢があり、その理解と後押しを受けて開業に踏み切りました。脳神経外科医をめざしたきっかけは、尊敬する神野哲夫先生との出会いであり、長年にわたり神野先生のもとで学び、働いてきました。しかし、神野先生が2021年8月6日に逝去され、私にとって勤務医生活の大きな区切りとなり、自身のクリニックを開業する決意に大きく影響しました。
この地を選ばれたのは、どういった理由からでしょうか?
豊田市は、私にとって縁の深い地だからです。トヨタ記念病院での勤務経験があり、父も1955年から半世紀にわたって自動車会社の産業医として勤めました。ですが、同時に父が亡くなった地でもあります。当時はショックが大きく、この地での開業は考えていなかったのですが、コンサルタントからの紹介と妻からの後押しを経て、「これも縁だ」と感じ開業に至りました。父は産業医時代に、さまざまな病気の予防に注力していましたが、脳卒中の予防は難しく課題として残っていました。その遺志を継ぎ、私は豊田市で「脳卒中による死亡者ゼロ」をめざし、その責務と父への弔いとして奮闘しています。
「脳卒中による死亡者ゼロ」というのは、難しいことなのですね。
脳卒中による死亡者ゼロをめざすことに対し、多くの医者が「そんなことができるわけない」と言うと思います。というのも、脳卒中の主な原因は動脈硬化と言われていますが、具体的な要因は未だ明確にされておらず、予想外の要素が脳卒中を引き起こす可能性があります。しかし、私が脳卒中による死亡者ゼロを掲げることで、脳卒中研究者や関心を持つ人々とつながり、情報交換や協力を通じて新たな予防策や治療法が生まれる可能性があると考えています。私が感銘を受けたのは、2005年にトヨタ記念病院・脳神経外科に勤務していた際、ある自動車会社の社長が「人を傷つけないクルマを作りたい」と語っていたことです。20年弱経過した今では、衝突回避ブレーキとして、誰もが実現できないと考えていたことが現実となっています。私も「脳卒中による死亡者ゼロ」に向けて、同じように多くの人々と共に取り組み、新たな道を切り拓きたいと思っています。
総合病院と同レベルの機器を導入し、適切な診断に導く
設備面も充実していますね。こだわりを教えてください。
一番は総合病院でも使用されている、1.5ステラMRIを採用していることが特徴だと思います。このMRIは、脳卒中を引き起こす可能性となる頸動脈のプラーク(動脈硬化病変)をカラーイメージして、危険性がある出血性のものなのか、それとも危険性のない線維性のものなのかというのを判別できるようになっています。CTも導入しているので急を要する検査にも対応しています。骨密度を測定する機械なども、総合病院と同レベルの腰椎と大腿骨を測定するものを導入し、患者さんの健康を守るために最適と考えられる設備を整えました。
先生のご経歴を教えてください。
藤田保健衛生大学を卒業後、母校の脳神経外科教室に入局し、尊敬する神野哲夫主任教授の指導のもとで脳神経外科医としての基礎を固めました。救急救命センターでのチーフレジデントとしての勤務では、くも膜下出血や脳出血、頭部外傷など、年間多くの緊急手術を執刀医として担当しました。1999年から2003年にかけては清水市立病院で勤務し、2004年から2009年まではトヨタ記念病院の脳神経外科にて、脳卒中や頭部外傷の救急診療、外来診療、脳ドックなど幅広い医療活動に従事しました。救急医療の現場で後遺症に苦しむ患者さんの姿を目の当たりにする中で、病気にならないための予防の重要性をより意識するようになりましたね。
脳神経外科医として豊富な経験をお持ちですが、心に残るエピソードはありますか?
救命救急センターに勤めていた時の話ですが、移植医療というのが、脳外科教室の柱の一つでもあるんですね。救命救急センターには、脳死状態で搬送される方もいらっしゃって、その状態である方のご家族に、移植についてのお話をするというオプション提示をしていました。当然治療してほしいという思いを皆さん持っていらっしゃる中で、非常にデリケートなお話を、根気強く説明するということをしていたんです。生きながらえてほしいと誰もが願う中で、それがかなわないとなったとき、せめて身体の一部だけでも生きながらえてくれるかもしれないという希望を託して、ドナーを選択されるご家族もいらっしゃいました。それは、信頼関係がベースになければその選択にまでは至りません。丁寧にわかりやすく、という言葉では測れないものがあって、今の私の診療スタイルにもつながっています。
患者のことを第一に考え、寄り添った対応を大切にする
患者さんと接する際に心がけていることはありますか?
患者さんとのコミュニケーションでは、まず患者さんの話を丁寧に聞くことを大切にしています。神経学的所見や検査結果を患者さんにわかりやすく伝えるため、専門用語を使った説明の後、平易な言葉でもう一度言い直し、同じ内容を2回お話するようにしています。これは患者さんが持つ不安を解消し、理解を促すためです。また、診察室に入る患者さんに対して、自分の名前とあいさつで迎え、患者さんと心の距離を縮めます。外見に関しては、ネクタイと革靴を整えることにも気を配ります。この習慣は、患者さんが医師の顔を見た後、ネクタイを見て、お辞儀をした時に足元を見る動作から医師への印象が形成されると、恩師である当時小児外科の岸川輝彰教授から教わったものです。これを聞いた母は、私が医者になってから、よくネクタイを買ってきてくれるようになりましたね。医師は身なりを整えることも含め、患者さんに安心感を提供することが重要と考えています。
スタッフさんにはどのようなことに気をつけてもらっていますか?
一番は待ち時間の対応ですね。患者さんが待っている間にもいろいろな声かけをするなど、臨機応変に対応するということです。私としては、例えば、開院時間前にお越しになっていて、外で待っていらっしゃる方がいる場合は、こちらが受け入れ可能であれば、開院時間を早めて対応してもいいのではないかと考えているのですね。もちろん開院時間は定めていますが、あってないようなものだと思っています。それは、私の恩師である神野先生が、患者さんを待たせないようにと、早くに来られて外で待っていた方たちのために、大学病院で朝6時から外来診療をしていた姿を見ていたからなんです。私は患者さんのために、待ち時間を減らすようできる限り対応したいと考えています。
最後に、読者にメッセージをお願いします。
私も一所懸命向き合いますが、患者さん自身も自分の健康について、一所懸命前向きに考えてもらえたらなと思います。脳の病気を予防していくためには、まず自分の健康状態や自分の病気のことを理解することが、とても大切です。例えば、手身近に始められることとしては、血圧に注意するといったことですね。また、定期的に血液検査などもしっかりと行うことで、脳だけでなく、生活習慣病の予防にもつながっていきます。他にも、例えば、脳出血の既往があれば、どこの脳出血でどういう症状が出たのかを理解し、予防するということにも、関心を持ってもらえたらうれしいですね。皆さんが健康に過ごすためのお手伝いを今後も全力でしていきたい、そう思っています。
自由診療費用の目安
自由診療とは高気圧酸素ルーム/1回50分3000円