飯嶋 将史 院長の独自取材記事
いいじま訪問診療クリニック 世田谷区二子玉川
(世田谷区/二子玉川駅)
最終更新日:2026/09/10
二子玉川駅から徒歩4分、商店や飲食店でにぎわうエリアの一角。「いいじま訪問診療クリニック 世田谷区二子玉川」は、2023年に飯嶋将史院長が立ち上げた訪問診療のクリニックだ。かつてドクターヘリに搭乗し救命の前線に立っていた飯嶋院長は、ただ漠然と救急搬送されてくるプレホスピタルの体制や地域医療に疑問を感じ、在宅医療の道へ。現在は同じ志を持つ約20人の医師とともに、対話を重ね一人ひとりに向き合う診療を展開する。「わからないことがあれば解決の糸口を患者や家族と共に探し、想いを共有していく」と語る姿は気さくながら熱量にあふれ、チーム全体にもその思いが息づいている。患者・家族との共同意思決定や、救急の経験を在宅に生かす取り組みについて話を聞いた。
(取材日2026年7月23日)
救急の現場で芽生えた問いを、在宅医療の原点に
まずは、先生が医師の道を志されたきっかけを教えてください。

父は祖父の代から続く産婦人科のクリニックを横浜で開業していましたが、私がまだ小学生の頃に他界しました。母の手一つで育ててもらい、中学高校時代は勉学そっちのけでバスケットボールに打ち込んでいました。当時はファッション業界にも憧れていたのですが、母から「医師をやりながら好きなことだってできる」という母の言葉に気づかされ、高校2年の頃から医師の道を意識し始めました。父が地域で医療に携わっていた姿や、「医師は素晴らしい仕事だ」と教えてくれた母の言葉は今でも鮮明に覚えています。その思いに報いたいという気持ちを胸に東海大学の医学部に進学し、医師の道を歩み始めました。
医師になられてから歩まれてきた道のりについてお聞かせください。
大学卒業後、臨床研修先の病院で出会った救急科の指導医は精神科の専門家でもあり、私が精神科に関心を示すと、「まず身体をしっかり診られなければ精神は診られない」と助言をされました。そうした導きもあって、東海大学救命救急科へ。ドクターヘリに搭乗し全力で命を救うために奮闘する日々はやりがいに満ちていました。救急の現場では、ご家族の意思を確認する間もなくあらゆる処置を施して命を救うことをめざします。しかし、救命できても目を開けないかもしれません。ご本人やご家族にとって、この処置が望ましいものだったのだろうか。そんな問いが次第に大きくなっていきました。そうした折に母が病に倒れ、自分が突然患者家族の立場となったのです。医師である私でさえ在宅療養で何を頼ればいいのかわかりませんでした。その経験から在宅医療への関心が強まり、約5年間は救急科と在宅医療の両方に携わりながら研鑽を積みました。
こちらのクリニックはどのような思いで開業されたのですか。

当院は2023年7月、「救急と在宅の融合」をコンセプトに掲げてスタートしました。救急科医として培った「患者さんのもとへ少しでも早くたどり着く」という感覚と、在宅医療に携わる医師として学んだ「対話を通じて思いを共有する」という姿勢、その両方を大切にしたいと考えています。開業時、医師は私だけでしたが、一人ひとりの患者さんやご家族と徹底的に向き合う診療を貫くために、同じ志を持つ医師たちが集まってくれました。今では多くの仲間とともに、患者さんに十分な時間をかけられる体制を築いています。加えてケアマネジャーや訪問看護師、福祉用具の事業者とも日頃から密に連携を取り、ご自宅で必要な医療や生活支援を届けられる環境づくりに力を注いでいます。
対話を重ねて、患者と家族の思いを一つに
訪問診療はどのような方が対象になるのか、教えていただけますか。

基本的には通院が難しくなった方が対象ですが、ご自宅での暮らしを大切にしたいと感じている方にも広くご利用いただけます。がんなどの大病と闘いながら病院に通い続けている方であっても、ご自宅で体調が変わった際の備えとして訪問診療を併用する意味は十分にあります。大きな病院に通い続けながらでも、「転ばぬ先のつえ」として私たちを頼っていただければと思います。認知症かなという初期の気づきの段階でも、在宅医療が関わることで暮らしの変化が期待できます。状態が回復すれば通院に戻していただいても構いません。何を相談すればいいかわからない段階でも、まずはお気軽にご連絡ください。
患者さんやご家族との対話で、大切にされていることを教えてください。
患者さんにもご家族にも、それぞれの「物語」があります。なぜその治療を望むのか、なぜ不安を感じるのか、背景にある思いを丁寧に聞き取ることを何より大切にしています。例えば「子どもにお金を残したいから治療は控えたい」とお考えになる方もいらっしゃいますが、実際には公的制度によって本人の経済的な負担には上限があり、ご心配に及ばないことも多いのです。こうした思い込みを一つずつ解きほぐすのも欠かせない仕事です。患者さんとご家族の思いにズレが生じたときには、双方の物語をつなぎ直し、全員が納得できる方向を一緒に見つけていく。この「共同意思決定」のプロセスを、私は一種のジャズセッションのようなものだと捉えています。悩み事や困り事に対して、患者さんやご家族と解決の糸口を共感しながらともに探していこうとする姿勢がその土台になります。
訪問診療の体制や対応範囲についても教えてください。

訪問診療の対象範囲は半径約16km圏内で、鶴見や町田、保土ケ谷、調布方面にも出向いています。内科・外科全般の診察や処方に対応しており、輸血を行うことも可能です。装備面では、簡易搬送型医療機器、迅速CRP機器などその場で各種検査を行うことができる機材をそろえています。これは救急科医としての考え方かもしれませんが、クリニックに戻って検査結果を待つ時間をできるだけ減らしたいと思っています。現場で検査をし、その場で治療を始めたいのです。患者さんのもとへ少しでも早くたどり着き、少しでも早く治療を開始することが生活の患者意思決定を支援し、生活の質をより良くする一助になると考えていますので、緊急時には24時間365日体制で対応します。
同じ志を持つ医師たちと、地域に根差す在宅医療を
先生と一緒に診療にあたる医師の方々についてお聞かせください。

現在約20人の医師が在籍していますが、採用にあたっては志を何より重視しています。集中治療や救急対応の経験がある医師も多く、医療の質は高い水準を保っていると思いますが、技術だけでは十分ではありません。患者さんの思いに共感し、ご家族を混乱させない対話力を持っているかどうか、そこを大切に見ています。わからないことがあればともに解決の糸口を探していくという姿勢を自然に持てる人でなければ、当院の門戸はくぐれません。診療時間を過ぎても、自分の判断でご家族や連携先に連絡を入れるなど、一人ひとりが主体的に動いてくれる仲間たちです。活気がありつつも温かい雰囲気のチームが自然にできあがっていて、同じ方向を向いて走ってくれていることに日々感謝しています。
今後、クリニックとしてめざしていることはありますか。
まずは、この二子玉川・世田谷区の地域にしっかりと根を下ろすことが第一です。この地域には、当院に限らず在宅医療に志高く取り組んでおられる先生方がいらっしゃいますので、ナンバーワンをめざすのではなく、地域を一緒に盛り上げていける存在でありたいと考えています。その上で力を入れたいのが、若手医師の育成です。すでに、地域医療を担う志ある若い先生たちを育てていく取り組みを進めています。また、患者さんのもとへ迅速に駆けつけるための「在宅ドクターカー」の研究や普及活動にも力を注いでいます。救急科医としてのスピード感を在宅医療に生かし、この地域の医療をしっかりと補完できる存在をめざしたいですね。
最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。

救急科医の経験から申し上げると、病気は病気を呼びます。だからこそ、何かあったときに頼れる先生がそばにいるかどうかは、とても大切なことだと思います。「親が最近少し年を取ってきた」「何に困っているかまだわからないけれど、漠然と不安がある」。そんな段階でもまったく構いません。実際に「全然関係ないかもしれないのですが……」と電話をくださる方もおられて、そこから必要な支援につながることもあります。訪問診療という選択肢を、たくさんの引き出しの一つとして持っておいていただけたらうれしいですね。この地域の医療を支える一角を担っているという自負を持ち、スタッフ一同取り組んでいます。困り事があれば、いつでもご相談ください。

