井上 雄士 院長の独自取材記事
井上デンタルクリニック
(神戸市西区/明石駅)
最終更新日:2024/11/19

JR神戸線・明石駅から車で11分。「井上デンタルクリニック」は、昔ながらの住宅街に2023年7月にオープンした。外来診療と訪問診療に対応し、地域に密着した歯科クリニックだ。長らく地域住民の歯の健康を担ってきた歯科医院を継承し院長となった井上雄士先生は、歯科口腔外科診療を大学病院で重ねた経験を持つ歯科医師で、全身の健康も視野に入れた歯科治療を心がける。スタイリッシュでありながら温かみも感じられる院内は、清潔感のある白を基調とし、ウッディーなブラウンと鮮やかなオレンジがアクセント。スタッフが育てる植物が、患者の心を和ませている。優しい語り口の井上院長に、開業までの経緯や診療で大切にしていること、今後の展望などをじっくりと聞いた。
(取材日2024年5月24日)
歯科口腔外科の知識を生かし、訪問診療へ
先生が歯科医師をめざしたきっかけは?

友人の父親が歯科医師でした。開業医だったので、友人の家に遊びに行くと、仕事をしている彼の姿がいつもあったのです。別の歯科医院で先生から横柄な態度を取られて怖い思いをした経験のあった私には、友人の父親はとても温かい先生に見えました。「自分もあの先生のような大人になりたい」と思ったのが、歯科医師をめざしたきっかけです。
そうなんですね。こちらに開業した経緯を教えてください。
以前は訪問診療専門の歯科医院で院長をしていました。もともと歯科口腔外科が専門で、全身健康にも配慮した歯科診療は得意分野だったこともあり、訪問診療は自分に合っていると感じてその道に進んだのですが、経験を重ねるにつれて「訪問の患者さんだけにとどまらず、地域で困っている方々に関わっていきたい」と考え始めました。そのような時に、こちらのクリニックを継承するお話をいただいたのです。ご縁があったのでしょうね。
開業してみていかがですか?

改めて、訪問診療と外来診療の違いを実感していますね。設備や道具が異なるのはもちろんですが、治療介入の目的も違うのです。訪問診療では要介護の方や寝たきりの患者さんも多く、どうすると苦しくないか、ご飯がしっかり食べられるかといった考え方をしますし、ご自身で口腔ケアができる患者さんばかりではないので、ご家族の負担も考えて治療方針を決めます。多くの人にとって食べることは大きな喜びだと思うのですが、私は患者さんに生涯食事を楽しんでもらいたいのです。意識のない患者さんや、意思疎通の難しい患者さんもいらっしゃいますので、反応を確認しながら痛みに配慮した治療、快適な口腔ケアを提供していきたいですね。一方で、外来診療では、現状の問題をどのように解決していくかという治療を行いますし、機能性だけでなく審美性なども考えていく必要があります。
患者さんの年齢層や診療内容などを教えてください。
訪問診療と外来診療の2本柱でやっていますが、割合としては外来診療が多いですね。以前勤務していた地域はビジネスパーソンが多かったのですが、当院は高齢者が多い印象です。痛くなった時、困った時に駆け込んで来られる患者さんも多く「頼りにされているな」とありがたく思います。しかし一方で「もっと早い段階で来てくれていたら」と歯がゆく思うこともあります。痛くなるということは、その分虫歯が進行している可能性が高く、歯を大きく削らなければならないなどのケースが多いのです。やはり、普段からのケアやメンテナンス、定期検診などの重要さを理解していただきたいですし、こちらももっと周知していかなければと思いますね。
患者との信頼関係は、治療にも反映される
先生が診療で大切にしていることは?

患者さんの思いを理解することを大切にしています。歯科医師としての固定観念に固執して「この治療が絶対に良い」と勧めることはせず、患者さんの気持ちを第一に考えるようにしています。例えば、以前保険診療に導入されたばかりの白い詰め物の素材は、歯科医師として「白いけれど、審美性は?」「むしろ耐久性のある金属のほうが良いのでは?」と感じていたことがありました。しかし、患者さんに尋ねてみると「保険診療で白い素材が選べるならうれしい」という意見も多く聞こえたのです。私の想定とは真逆の反応でしたね。もう一つ大切にしているのは、丁寧な説明です。抜歯するしかないなと思っても「抜歯するしかありません」ではなく、どうして抜かないといけないのか、抜かないとどうなることが予想されるかなどを説明し、信頼関係を構築してから治療に入ります。不思議なもので、丁寧な説明は治療にも反映されるのです。
クリニックの理念などはありますか?
私自身が勤務医時代に教わったことですが、人生で最も大事なことが歯の治療という人は基本的にはいないのではと思っています。自分の時間、家族との時間、趣味、仕事など患者さんそれぞれにとって人生で優先したいことは違います。先ほどの繰り返しになりますが、自分の正解が相手の正解とは限らないので、その人に合った治療、価値観に合わせた治療を提案できる医療者でありたいといつも思っていますし、クリニックの理念として、他のスタッフの皆にも伝えています。歯だけを診るのではなく、お仕事や時間的余裕、経済的な事情や患者さん自身の希望、たくさんの要素をくみ取って患者さんと関われるクリニックでありたいですね。
休みの日はどのように過ごされていますか?

気分転換に出かけることが多いですね。先日は豊岡市へ行ってきました。おそばを食べて、城崎温泉でのんびりして、玄武洞公園で鍾乳洞を見てきました。地球が長い時間をかけて形成したものを見るのが好きなのです。普段の生活では見られない、自然の中でしか見られない既視感のないものを見ると圧倒されますし、リフレッシュできます。たとえ何かに行き詰まっていたとしても、地球が重ねてきた年月を思うとちっぽけですし、それがかえって「明日から頑張ろう」「どうやって力を尽くそうか」と切り替えられるのです。働き始めてからは、特に「一人ひとりに与えられた時間は有限」とか「時間は、みんなに平等に与えられるもの」と感じるようになりました。だからこそ、時間の経過に関わるものを見るのが好きなのかもしれませんね。
「頼れる歯医者さん」でいたいから、自分も学び続ける
より良い治療のために、仲間との情報交換などもしているそうですね。

前向きな意味合いで、私一人では大した力はないと思っているのです。歯科治療でも、もっと良い治療をしたいと思ったら、自分一人で考えていては駄目だと思います。幸いにも、大学時代の友人がみんなそれぞれの治療を極めているので、会った時には悩んでいることを相談したり、情報共有をしたりしています。クリニックのスタッフのみんなとも同じですね。歯科医師も歯科衛生士も歯科助手も、同じ目線に立って、困ったら一丸となって解決法を見つけていきます。
今後の展望を教えてください。
これからも変わらず、外来診療と訪問診療の2本立てで地域医療に貢献したいです。まだ開業して間もないので外来と訪問、それぞれの患者さんの対応をさせていただいていますが、患者さんが元気な時から最期の時まで外来診療と訪問診療を通して長くお付き合いしていきたいですね。そのためにも、メンタルケアや認知機能面もカバーできるよう自分も学びを深め、不安になった時には頼ってもらえるクリニックでいたいと思います。特に訪問診療は日常生活の中での困ったこともお話しいただきたいと思っていますので会話も大切になりますので、私自身、歯科治療だけでなく安心感も提供できるよう、地に足をつけて日々コツコツと診療していきたいですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

医療に「絶対」はありません。実際に見てみないとわからないことも多いので、小さなことでも悩まずに、まずは受診してくれたらと思います。虫歯だけではなく、定期検診やメンテナンスもそうですし「歯周病が進んでいないかな」など、不安なことは何でも相談してください。あとは、訪問診療の適応がわからない患者さんも多く、通院ができなくなったからと歯科治療を諦めてしまう方も多いと感じています。訪問診療に該当するのかどうかの相談にも乗りますので、通院が難しくなってきたなと感じた場合も相談してください。「もっと早く知っておけば」と後悔してほしくないですし、できるだけ長く、ご自身の歯で食事を楽しんでいただきたいので、こちらも幅広い患者さんに対応していきたいと思っています。