樺島 重憲 院長の独自取材記事
えがおの森こどもアレルギークリニック
(川崎市高津区/高津駅)
最終更新日:2024/09/09

川崎市高津区溝口、東急田園都市線・高津駅西口を出てすぐの医療ビル2階にある「えがおの森こどもアレルギークリニック」。待合室の壁一面にかわいらしい動物のキャラクターが描かれ、手作りのぬいぐるみなどが飾られるにぎやかな空間で、樺島重憲院長が笑顔で出迎えてくれた。小児一般から予防接種・乳幼児健診、専門であるアレルギーの診療まで幅広く手がける樺島院長は、医師になる前には人工衛星の開発に従事していたという珍しい経歴の持ち主だ。「アレルギー症状の治療は、年齢が低いうちから始めたほうが断然有利。クリニックならではの先回り治療で、症状が出る前からの予防も見込めます」と話す樺島院長に、同院の特徴とめざす小児医療について詳しく話を聞いた。
(取材日2024年6月6日)
一般的な小児疾患に加え、専門的なアレルギー診療も
クリニックの特徴を教えてください。

当院は2023年5月に開院した小児科クリニックです。小児一般診療、予防接種・乳幼児健診に加え、アレルギーの診療に力を入れています。医師になる前は人工衛星の開発を行うサラリーマンだったのですが、医師へと転身してからは、国内におけるアレルギー診療の中心拠点である国立成育医療研究センターで診療と研究、後進の育成などにあたってきました。立川相互病院では、アレルギー専門の外来を立ち上げたことも。そうした経験から、当院でも食物経口負荷試験を含む検査などを積極的に行うなど、先進の知見と技術を取り入れたアレルギー治療に取り組んでいます。
どのような患者さんがいらしていますか。
咳・鼻水、発熱、腹痛などのよくある症状でご受診いただく患者さんも多いですね。その中で、アレルギーの患者さんは全体の3割くらいです。アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、喘息などのアレルギー疾患をご相談いただくのは、小学生くらいまでの年齢のお子さんが中心です。春先には花粉症の症状をご相談くださるご家族も多くいらっしゃいますよ。
診療方針を教えてください。

開院当初から一貫して、データに基づく根拠のある治療を提供するようにしています。小児診療、特にアレルギーの診療は進歩が目覚ましく、従来の常識と最新の常識がまったく異なることもあるんです。例えば、治療が難しいとされてきたアトピー性皮膚炎は寛解が見込めるようになっていますし、食物アレルギーではアレルゲンを完全に除去するのではなく、必要最低限の除去にとどめて慣れさせたほうが治療に結びつきやすいことがわかってきました。赤ちゃんの湿疹と食物アレルギーとの関連も指摘されています。特にアレルギーに関しては、世間にさまざまな情報があふれていますが、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医として、新しい知見に基づく情報を提供し、治療やケアを提案していきたいと考えています。
クリニックならではの先回り治療で、症状の出現防止を
アトピー性皮膚炎はどんな方法で寛解をめざすのですか。

程度にもよりますが、アトピー性皮膚炎の新しいガイドラインでは「プロアクティブ療法」が推奨されています。症状が表れた部分にステロイド外用薬などを塗布して炎症の抑制を図り、お薬の使用を継続しながら、徐々に保湿剤でのケアに移行していく方法です。当院では、かゆみを引き起こす炎症をブロックするための、非ステロイドの軟こうも併用して、良好な肌質の維持をめざしています。これらは乳児期から使用できるお薬です。ステロイドの副作用やリバウンドは、適切に使用することで避けられると考えられています。自己判断で使用したり中止したりするのではなく、タイミングを見極めて適切な薬をきちんと使用することが大切なのです。
食物アレルギーでは食物経口負荷試験も行っていらっしゃるそうですね。
食物アレルギーを抱える子は、できるだけ原因となる食物を避けるべきというのは一世代前の考え方です。今は症状が出ない程度の少量のアレルゲンとなる食べ物を食べ続けていく方針が主流です。そのためには、食物経口負荷試験でその子が安全に食べられる量を見極める必要があります。対象となる食物を少量ずつ口にして、その後数時間の経過を観察する検査です。当院では、モニターつきの個室を2室用意し、アレルギー専門の看護師を配置して、安心して快適に検査を受けられる体制を整えています。
身近なクリニックでアレルギーの専門診療を受けられるのは魅力的ですね。

通いやすさの面もありますが、大規模病院では難しい先回り治療が実践できるという点もクリニックの強みです。近年、乳児期に湿疹のある子は食物アレルギーを発症する確率が高いということがわかってきました。荒れた肌からアレルギー成分が侵入し、刺激となってしまうと考えられるのです。離乳食がはじまる生後6ヵ月あたりまでに、いかに肌状態を落ち着けておくかが、その後のアレルギー発症を抑えるための鍵とされています。従来であれば離乳食が進んだ1〜2歳でアレルギー症状が出てから、ようやく専門の医療機関を受診するのが一般的でしたが、乳児期に発症リスクを発見できれば予防的な対応も可能です。当院では、乳幼児健診や予防接種の際に、気がかりな症状が見られるお子さんには検査や治療をお勧めしています。成長著しく体の変化も大きい乳児期から介入できるのは、クリニックならではのメリットだと考えています。
子どもの成長を見守るサポーターとして、子育てに伴走
クリニック嫌いの子どものために、配慮されていることはありますか?

なるべく嫌なところ、怖いところと思われないような工夫をしています。壁にアニメーションを流して楽しい雰囲気をつくったり、採血する時は麻酔シールを貼ることで、痛みが少なくなるような配慮をしています。また通常の採血は注射器で行いますが、当院では指先から1、2滴の血液を採取することでアレルギー検査が行える機器を導入しています。この検査は痛みが少なく、最短30分で結果が出るなどメリットが大きいのですが、その検査結果の解釈が難しいため、それを見極める力も必要とされています。当院ではなるべく子どもたちの負担を減らす環境や検査をするように配慮しています。注射や検査などの負担のある処置を頑張ったお子さんに向けて、カプセルトイも導入して好評をいただいています。
医師を志され、小児科を選択されたきっかけは?
気象衛星の初期設計などを行っていたのですが、構造体を作る現場でトラブルに対処し、「助かったよ」などと声をかけてもらうことをうれしく思っていました。困っている人をサポートする仕事が自分には合っているのではないかと感じるようになり、かねてから興味のあった医師の道への転身を決めたのです。初期研修で各診療科を回る中で、唯一笑い声が聞こえて明るい雰囲気だと感じた小児科に惹かれました。子どもたちの成長を見守ることができるのも魅力です。「小児科は大変だよ」との声も受けて少し悩みましたが、もともと「やりたいことを貫きたい」と選んだ医師の道ですから、自分が最も楽しくやりがいを感じられる道を進みたいと小児科を選びました。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

どうしても症状が悪化してから受診される方が多いので、先回り治療や予防について知ってもらうための情報発信には力を入れたいと思っています。サラリーマン時代に身につけた、わかりにくい話をかみ砕いてわかりやすく説明する術を存分に活用していきたいですね。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し、子どもたちの感染症が急増しました。次々と違う病気にかかるお子さんを抱えて、先の見えない不安を感じられている親御さんは多いのではないでしょうか。とはいえ、ここにきて少し収まってきていると感じる瞬間もあります。希望を持って前を向き、一緒に子どもたちの成長を見守っていきましょう。