日丸 全人 院長の独自取材記事
日の丸歯科医院
(京都市下京区/五条駅)
最終更新日:2025/07/09

京都市営地下鉄烏丸線・五条駅から徒歩約4分、室町通六条の交差点に「日の丸歯科医院」はある。院長の日丸全人(ひのまる・まさと)先生は、患者がリラックスして診療が受けられるよう緊張をほぐすことを重視。何げない会話の中から一人ひとりの治療のヒントを見出し、トータルな診療を提供できるよう心がけている。日丸院長の実家は漢方薬局。東洋医学の考えを取り入れ、患者の全身状態を考慮しながら診療プランと考えるのも同院ならでは。「患者さんに笑顔で帰ってもらうことが信条」という日丸院長に、同院の診療の特色や注力している治療、ユニークな経歴、積極的に展開している診療外の活動などについて尋ねた。
(取材日2025年5月22日)
人の役に立つ仕事がしたかった
歯科医師をめざした経緯を教えてください。

最初は実家の漢方薬局を継ごうと考えていました。この薬局は、祖父の代に熊本で漢方薬の製造販売を開始し、戦後に京都に移ってお薬を自社製造・販売しています。ただ、薬事に関する行政の変化などの影響で、僕が継承することが難しくなり、医学部をめざすことになりました。私大の医学部を受験したのですが、雰囲気がどうも自分に合わないと感じて「ここには行きたくない」と思ったのです。「ごめん、受験料が無駄になってしまった」と、その場で母に電話しました。
それで歯科大学に変更されたのですか?
高校時代の英語の先生に「歯学部はどうか?」と声をかけてもらったのがきっかけです。患者として歯科に通ったことがあまりなく、具体的なイメージは持っていませんでした。しかし、人の健康に役立つ仕事だし、分野が違っても実家の漢方薬局の精神を引き継げば、家業を継いだことになると考えました。僕はおばあちゃん子だったので、実家から通える大阪歯科大学に進学しました。入学してみると、器具の名前も初めて聞くものばかりで、戸惑う日々でしたが、病院実習が始まって実際に患者さんと接するようになると、歯科診療への興味が高まり、本腰を入れて勉強するようになりました。
卒業後のご経歴について教えてください。

母校の研修医コースに入って、僕にしてみれば「歯科のお父さん」とも呼べる師匠に教えていただきました。医局に残って学びながら、週3日ほど歯科医院で診療を経験する毎日です。歯科医師免許を取って2年くらいたった時に「週に1回一人で診療をやってみるか?」と聞かれ「はい、やってみます」と答えました。内心「痛みのある人が来なければ良いな」と不安でいっぱいだったのですが、そうした状態に置かれると一生懸命になるしかなく、多くを学ぶことができました。夕方になると師匠が来てくださるので、その日に感じた疑問などをすべて投げかけました。師匠から学んだのは、保険診療の範囲内でも患者さんの痛みや悩みの改善をきちんとめざせる、ということです。ベテランの先生だからこそお持ちの技が「かっこいい」と思いましたし、それを教わり、自分もそうした技術を生かして困っている人を助けたいと思ったのです。
当初から開業は考えておられたのですか?
祖母の入れ歯を作ってあげたいという思いがあり、30歳までの開業をめざしていました。週に1度一人で始めた歯科医院での診療を、雇われ院長という形でフルにこなすようになり、多くの診療経験が積めただけでなく、経営のことについても学べました。休診日には他の歯科医院での往診も経験し、そこの先生に「すごく良い先生に習っているね」と言ってもらえたのです。近々開業を考えていることを伝えると「大丈夫だと思います」と太鼓判を押され、29歳で現在の場所で開業できました。ただ、祖母は診療研修が終了してすぐに亡くなってしまったので、残念ながら入れ歯を作るという願いはかないませんでした。
口の中だけでなく患者全体を診る
どのような患者さんが受診されますか?

20代から50代、60代ぐらいまでの現役世代の方が多いですね。もっとご高齢の方もおられます。患者さんに対しては、痛みがあって急患で来られた際なども絶対に断らないこと、緊張をほぐしてもらうことを大切にしています。「先生と話しづらい」「怒られる」といった、歯科に対して苦手意識を持っている方も多いです。ただ、例え歯磨きが不十分で虫歯になっても、虫歯になったのだから仕方がありません。そのことを指摘するよりも「このように痛いのは嫌ですよね? だまされたと思って僕の言うように歯を磨いてみませんか?」などと提案します。治療を行う場合は、その必要性を丁寧に説明して、継続的に寄り添うこと、多くの治療を要する方の場合は「歯を見せて笑えるようになろう」などと、目標を示していくことも大事ですね。
そう言われると「やってみようかな?」と思えそうです。
僕は患者さんと仲良くなりたいのです。仲良くなると、仕事のことや日々の生活のことなど、いろいろな話をしてくださいます。そうした何げない会話が、その患者さんの症状を読み解く大事なヒントになります。エックス線検査やお口の中のチェックは大切ですし、それで90%は対応できると思います。しかし、残りの10%は患者さんとの会話からヒントを見つける必要があり、それが、次に悪くなることを防ぐことにつながると思うのです。もちろん、この10%については保険の点数はつきませんが、すこしでも患者さんに喜んでもらえるように取り組んでいることです。沈んだ顔で来られた患者さんに笑顔で帰っていただくことが当院の治療方針ですし、歯科の受診が嫌な予定ではなく「ちょっと気になるし先生のところに行ってこよう」といった気持ちで来ていただければうれしいですね。
漢方薬局の精神は歯科診療に生かされていますか?

東洋医学では体を小さな歯車の集合体と捉えます。体調が良いときはその歯車が潤滑に動いているけれど、体調が優れないときはどこかの歯車の回りが悪くなっていると考えるのです。例えば、インフルエンザに感染すると、西洋医学ではウイルスをやっつけるための薬を用いますが、東洋医学ではウイルスで歯車の動きが悪くならないよう、免疫力を高めましょうと考えます。歯科の治療は基本的に西洋医学ですが、東洋医学の考え方も取り入れることで、虫歯になった歯のみを診るのではなく、精神的な状態なども含めつつ、その歯を体全体の一部として捉えるようにしています。例えば噛み合わせを診る際も、口の中だけでなく、いつもカバンを同じ側の手で持つ、片方の歯ばかりで噛んでいる、頬づえをつく癖などの日常的な些細な癖の改善なども含めてトータルに考えられる歯科医師でありたいと思っています。そうした部分に残りの「10%」のヒントが隠れているのです。
噛み合わせを整えることが大事
今後力を入れたい診療はありますか?

若い方にもっと歯科医院を受診してもらいたいと考えています。僕自身も若い頃は歯に興味がなく、周りからも「歯磨きしなさい」とうるさく言われませんでした。しかし、診療を経験して、50代を迎えたあたりで歯の状態が悪くなるケースが多く、そうした方は若い時にあまり歯のことを気にかけておらず、ご自身では歯が丈夫と思っておられることなどがわかりました。もちろん、ブリッジや入れ歯で治療はできますが、口の中に人工物が増えると、やはりごはんをおいしく食べられなくなりますし、それでは日々の楽しさも損なわれてしまいかねません。だからこそ半年や1年に1度で良いので、若いうちから「顔を見せにおいで」と言っています。また、虫歯や歯周病の原因には噛み合わせの問題が関わっていると考えており、その改善を通じて予防に努めています。
診療以外にもさまざまな取り組みをしておられます。
高校時代からバンドをやってきて、現在は自分で聴ける曲を作りたいと考えて、友達と2人で楽曲制作をしたり、録音した楽曲をサブスクで提供したりしています。良いお話があればライブもやりたいですね。また、動画サイトに歯科診療や音楽に加えて、好きな邦画の解説動画も上げています。邦画はDVDを全巻そろえて、セリフも覚えてしまうくらいはまっている作品で、作品として面白いだけでなく、法律などについても学ぶところが多いんですよ。
読者や地域の方にメッセージをお願いします。

おかげさまで開業11年目を迎えることができました。今後も基本的な方針を変えることなく、クオリティーを高めて喜んでくださる人を一人でも増やしていきたいと考えています。歯科医院にマイナスイメージを持っている方も、まずは一度相談に来てください。その上で、当院が気に入っていただけたなら継続して通院いただければと思います。