植田 勇人 院長の独自取材記事
ウエダメンタルクリニック
(宮崎市/宮崎駅)
最終更新日:2023/03/08
大型ショッピングモールや飲食店が並び、車の通行量も多い大通りから東へ入った閑静な住宅街にある「ウエダメンタルクリニック」。院長を務めるのは、穏やかな口調から誠実さがにじみ出る植田勇人先生だ。宮崎医科大学医学科(現・宮崎大学医学部)を卒業、同大学附属病院精神科などで研鑽を積んだ後、2023年1月に同院を開業。患者の中には植田院長が勤務医時代から30年以上通院する人もいるそうだ。同院のモットーは「複数回の診療を通して患者の中核となる悩みを見極めること」。外科や内科とは違ったアプローチで患者の心の治療にあたる植田院長に、注力する治療や、健康でいるための心がけなどについて話を聞いた。
(取材日2023年1月20日)
仕事や職場でのストレスに悩む患者に寄り添う
こちらの医院について教えてください。
当院は一般的な精神科疾患全般に対応するクリニックです。患者さんは中高生から高齢の方まで、幅広い年代の方が来られます。中には勤務医時代から30年来の付き合いになる患者さんもいるのですが、これは言語化や記述できない治療の交流が患者さんと医師との間で構築されていたせいでしょう。この建物は8年前に書庫として活用していた場所です。ですが、それだけではもったいないという思いがあり、いつかは診療に活用しようと考えて内装や外観にこだわりました。川沿いで静かな立地にベージュを基調とした内装にしているので、患者さんも落ち着いて過ごしていただけると思います。
周辺エリアの印象はいかがでしょうか。
精神科は外科や内科のように検査値ベースの治療ではないので、心療内科や精神科に抵抗感を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、幸い、地域の方との距離を感じることは特にありません。クリニックを温かく受け入れてもらえて本当にありがたい限りです。遠方から通ってくださる勤務医時代からの患者さんがいますが、今も変わらず来院してくださっていて、この場所に開業して良かったと思っています。
最近、目立つ主訴はありますか?
職場でのストレスに悩む患者さんが多い印象です。特に業務量が多過ぎる、休み方がわからない、という40代の方が増えています。1人の精神科医としては、目の前の患者さんと向き合って、仕事や職場の人間関係で生じるストレスがその方にどんな影響を与えていて、どんな症状になって現れるのかをしっかり見極め、適切な診断・治療の提供をめざしています。
診療を重ねてこそ患者の悩みの中核が見えてくる
力を入れている治療について教えてください。
一般的な精神科疾患に加えて、一部誤診されやすい疾患であるてんかんやナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群の鑑別診断に力を入れています。てんかんは乳幼児から高齢者まで幅広い年齢で見られる疾患ですが、「二峰(にほう)性」といって、若年層と高齢者層に多くなる傾向があります。当院では中学生から大人の方までのてんかんを診療しています。てんかんの発生率は多くはありませんが、宮崎県ではてんかん専門の精神科や検査施設は足りていない現状にあります。さらに、宮崎県は自家用車が移動上、必須の地域であり、専門医師の受診につながらない側面があります。主訴に基づいて適切な診断をめざし、患者さん毎に特化した治療を心がけているので、従前からの治療方針に対して疑問を持たれている方も一度、ご相談ください。
診療で気をつけていることは何でしょうか。
2回、3回と診療を重ねながら、「その患者さんの中核となる悩みは何か」を見極めるようにしています。1回の診療だけでは、患者さんの悩みに、継続性や再現性があるかどうかを判断できません。再診を重ねていく中で、患者さんが言語化できない問題を抽出して、適切な治療方針を提供することが精神科医の仕事の一つで、初診でいきなり診断や治療方針を決めつけず、患者さんとその家族さんと話し合い、その方針を模索するように心がけています。初診で患者さんのお話をしっかり聞くことに重きを置き、その後の再診方針を決めるため、初診時には時間をかけて問診するようにしています。
心の健康を保つためのアドバイスはありますか?
物事を1つの角度からいつまでも追いかけるのではなく、多角的に考え、かつ他人のアドバイスを傾聴するなどが重要です。個人の思索だけでは神経症等につながってしまうことがあります。患者さんの中には「常に100点でないといけない」と考える方がいらっしゃいますが、そんな患者さんには診療の中で「80点をめざしましょう」とお伝えします。100点をめざしてしまうと、いつまでも残りの20点を追いかけて葛藤が残ってしまうからです。そうすると結果的に病気の状態を自分でつくりだしてしまうことにもつながってしまいます。80点をめざすくらいで肩の力を抜くことも大切なのです。
治療方針は患者と一緒につくっていく
医師をめざしたきっかけについて教えてください。
中高生の頃から「心はなぜ生まれるのか」という疑問をもって、人の心の発生に興味がありました。そこから人間の認識の成立について考えたいと思うようになりました。特に認知の歪みが固定化されるのはなぜか、そしてその機序はどこにあるかを掘り下げて考えたいという欲求に駆られました。志望校を選ぶ段階では、そういった心の在り方を考えながら生涯を終えられる仕事として、精神科を選びました。医師というと内科や外科を想像しますが、内科や外科的な痛みだけではなく、心の痛みも人間の健康を大きくむしばむものだと思います。おかげさまでこうして58歳になった今でも、中学や高校時代に考えていたことをベースに、患者さんから学ばせていただいています。精神科医として本当にありがたいですし、幸せなことだと思います。
今の診療スタイルはどのように確立されたのでしょうか。
私は平成元年に入局し、精神科医療に接した一人で、同世代の精神科医も同様に頑張っておられます。宮崎大学附属病院精神科に23年間在籍し、諸先輩から多くを学べました。現在も患者さんの症状記載に悩むことが多いですが、カルテ記載や患者さんとの接し方・過ごし方について悩んでしまうとき、過去、精神科医局で学んだ諸先輩方の言葉を想起することが多いです。そんな精神科医背景をもつ私ですが、今後はこのクリニックで宮崎県民の健康増進に向けて、頑張りたいと思います。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
最近は医学の進歩もあって、昔のようにアプローチが難しい患者さんは減少傾向にあります。訪問看護など多角的なケアが可能になったことも、患者さんにとって良いことだと思います。ですが精神科や心療内科の受診ハードルはまだまだ高いと言って良いでしょう。ですので、もし受診をためらっている方がいるのであれば、一つの目安として「今までの自分とは少し違うな」と感じたら、1人で悩まず、まずは相談にいらしてください。不安もあると思いますが、当院では医師が一方的に治療方針を決めるようなことはありません。患者さんとのコミュニケーションの中で、ともに治療方針を構築していきたいと考えています。地域の皆さんの心の健康をサポートする立場として、さまざまな悩みを抱える患者さんに寄り添えるクリニックでありたいと思いますので、困ったことがあればお気軽にご相談ください。