中野 正剛 院長の独自取材記事
市立病院前老年内科メモリークリニック
(札幌市中央区/桑園駅)
最終更新日:2023/02/17
JR函館本線・桑園駅から徒歩約1分。「市立病院前老年内科メモリークリニック」は2022年に開院した、老年内科・老年精神科を標榜するクリニックだ。院長の中野正剛先生は北海道出身で、認知症研究や治療薬の治験、さまざまな病院での診療に携わってきた認知症のスペシャリスト。常駐の臨床心理士による心理検査と画像診断に基づく中野院長の専門性の高い診断で原因を明らかにした上で、本人と家族を支える医療の提供に努めている。上品な雰囲気の院内には、物忘れ専門の外来と老年内科の診察室を別々に設け、発熱などの症状がある場合にも安心して受診できるよう環境を整えている。「地域の方々へ認知症に対する正しい知識をお伝えし、早期発見・早期治療につなげたいです」と語る中野院長に、同クリニックの特徴や認知症治療などについて聞いた。
(取材日2023年1月25日)
認知症の患者と家族を総合的にサポートするクリニック
まずはこちらのクリニックの特徴についてお聞かせください。
当クリニックは老年内科・老年精神科として、高齢の方の心身の症状を総合的に診療するクリニックです。これまで認知症を専門としてきた経験を生かし、物忘れ専門の外来を通じて認知症の診療を中心としながら、それに伴う内科的な慢性疾患にも対応しています。認知症の症状が現れ始めると、どうしてもいくつもの病院に通うことが難しくなってしまいます。複数の慢性疾患を抱えてしまうことも考えられますので、高血圧や糖尿病など、生活習慣病の症状がある場合は、当クリニックで同時に管理することも可能です。
先生は長年、認知症を専門としておられるのですね。
老年医学や認知症分野に携わり始めてから、はや30年になります。開業に至るまでは、さまざまな病院の精神科、神経内科や物忘れ専門の外来にて、認知症分野の研究や診療を経験しました。抗認知症薬の治験や、アルツハイマー型認知症になる手前の軽度認知障害の地域調査、進行予防介入研究などに携わらせていただいたこともあります。また、当クリニックには経験豊富な臨床心理士が常駐していることも強みです。私の経験や専門性を生かし、地域の皆さんのお役に立てればと思っています。
老年内科・老年精神科ならではの取り組みはありますか。
ご高齢の患者さんは、多くの種類のお薬を服用している場合があります。しかしたくさんのお薬を併用することで、体調を崩してしまう場合も少なくありません。当クリニックでは、そうした多剤併用が原因で体調不良や服薬がうまくできないなどの問題が起こらないよう、こまめに確認するほか、薬の種類や服用頻度をできるかぎり減らすことができないかを検討するようにしています。
ホテルのように洗練された雰囲気の院内ですが、どのような点にこだわりましたか。
医療機関らしくない内装にすることを意識しました。診察室は、物忘れ専門の外来の診察を行う第一診察室と、老年内科用の第二診察室に分けています。特に第一診察室は、できるだけ患者さんの緊張感をほぐし、また来たいと思っていただけるような居心地のいい空間をめざしました。診察室内に広いスペースを確保しているのは、患者さんの歩行の様子を見てパーキンソン病の兆候がないかを確認する場合があるからです。また、車いすの方や、ご家族で来られた場合も余裕を持って過ごしていただけるかと思います。
原因や特性に合わせて柔軟に医療の提供を
物忘れ専門の外来について、詳しくお聞かせください。
物忘れ専門の外来は「最近忘れっぽくなった」「物をなくすことが多い」などの症状が見られた場合に、原因を診断して治療を行うことはもちろん、対応策を患者さんやご家族とともに考えていくための外来です。一言で「物忘れ」と言っても、その症状や原因はさまざまです。原因によって対応策が異なる場合もありますので、丁寧な検査を通じて診断を行い、それに応じて適切な治療をすることをめざしています。当クリニックでは問診の後、臨床心理士による心理検査を行うほか、脳の状態を画像で確認することを通じて原因を突き止めていきます。画像診断では、脳の萎縮の状況や、脳のどの部分の血流が低下しているかなどを解析していきます。この画像解析プログラムの開発に私も携わりました。物忘れ専門の外来の受診は、認知症の早期発見にもつながりますので、少しでも気になることがあれば、一度ご相談いただきたいです。
脳の血流が悪くなる原因には、どんなことが考えられるのでしょう。
大きく2つの原因に分けられます。一つは、いわゆる脳梗塞と呼ばれる状態になってしまうことです。脳の一部の血管が閉じてしまうと、その先の血流が低下します。もう一つは、血管は通じているものの、脳の細胞が変性を来たすことが原因となるケース。脳の細胞は血液から酸素や糖を受け取って活動していますが、細胞の数が減ってしまったり、数はあるものの、細胞の働きが低下してしまうとその領域の血流が低下します。単に脳の血流を良くすればいいというわけではなく、脳が変性を起こしてしまう場合はその原因を正しく理解する必要があるのです。
認知症治療において大切なのはどのようなことでしょうか。
まずはアルツハイマー型認知症に進展する可能性のある、軽度認知障害の方を早く見つけることが重要だと考えています。つまり、物忘れ専門の外来に来ていただく段階がなるべく早いことが理想的です。そのためご家族の方には、軽度認知障害がどういう状態なのかなどを含めて、認知症に対する理解を深めていただくことが大切です。「治療しても治らない」「年のせいだから仕方ない」「認知症になってしまった本人が悪い」といった考え方になってしまうと、治療は難しくなります。当クリニックではそうした偏見を払拭した上で、患者さんを中心に物事を考えていくことをめざしたいのです。それぞれの患者さんの症状と個人の性質を見極めることで、認知症の特徴とうまく付き合っていくことができるはず。治療や介護の仕方なども含めて、ご本人とそのご家族がともに健やかな生活が送れるよう、サポートさせていただきます。
地域の認知症患者への早期治療をめざして
この仕事を続けられていて良かったと感じた瞬間はどのような時ですか。
大学病院に勤務していた頃、別の医療機関で「治療法がない」と診断されたという患者さんが、娘さんとともに来られたことがありました。あらためて画像検査を通じて診断し、その結果に応じて治療法を模索し提案できた時は、認知症を専門に研鑽を続けてきて良かったと感じましたね。また、治療法を提案し、患者さんご本人とそのご家族が落ち着かれた様子を見ることができたら、喜びにつながりますね。
先生の今後の目標についてお聞かせください。
当クリニックを信頼して通ってくださる患者さんに、質の高い医療を提供することはもちろん、地域の皆さんに認知症に関する情報提供を積極的に行っていきたいです。桑園地区では現在、認知症の人が安心して暮らせるような取り組みをしていこうというお話もありますので、私も協力してお役に立ちたいと思っています。こうした活動を通して地域の方々の認知症に対する理解が深まることで、早期発見・早期治療へとつなげていきたいですね。
最後に読者へメッセージをお願いします。
私のふるさとである北海道で、認知症の分野で少しでもお役に立てるよう、当クリニックを開院しました。認知症の専門家として、これまでの経験を生かした医療を一人でも多くの方に提供したいと考えています。ご家族が見守る中で「認知症かもしれない」と少しでも感じられた段階でお越しいただければ、臨床心理士による心理検査と、脳の画像解析を通じて診断いたします。その上で、今後の治療の方向性について詳しくお話させていただきますので、まずはお気軽にご相談ください。ご本人はもちろん、ご家族を含めたサポートをさせていただきます。