近藤 五郎 院長、大澤 弘勝 先生、竹田 道宏 先生の独自取材記事
名古屋南脳神経外科クリニック
(大府市/南大高駅)
最終更新日:2023/08/31
大府市にある「名古屋南脳神経外科クリニック」は、医療法人健輝会が開設する有床クリニック。地域に不足している脳神経外科救急医療を強化するために、2023年1月に開業した。院長の近藤五郎先生は、あいち小児保健医療総合センターや刈谷豊田総合病院などで診療をしながら、出身地である衣浦地域の脳神経外科医療に貢献してきた。24時間体制の小児救急医療の必要性を訴え、週末の外科診療を2人の脳外科医だけで回していたこともあるという。「脳外科では、緊急対応を要する患者さんの側に立った医療が必要なんです」と近藤院長。そんな院長と長年手を携えて診療してきた健輝会会長でもある大澤弘勝先生と、その熱い思いに賛同する麻酔科部長の竹田道宏先生も交え、地域医療・小児医療への思いやクリニックの特徴について聞いた。
(取材日2022年12月29日)
地域で不足している脳神経外科医療を提供
この地域に開業したきっかけを教えてください。
【近藤院長】私は名古屋大学の小児脳神経外科リーダーとして、脳腫瘍をはじめとしたさまざまな小児疾患に向き合ってきました。同時にあいち小児保健医療総合センターでも勤務し、地元の知多半島における医療事情に危機感を抱いてきました。加えて刈谷豊田総合病院をはじめとした近隣の大規模病院でも長年診療してきましたが、大府市北部では救急施設が乏しく、緊急時に脳神経外科医療がすぐ受けられない実情を目の当たりにしてきました。2020年の大府市データによれば、救急車の約8割が市外搬送されています。搬送時間の増加は、救命率の低下と後遺症の増加をもたらします。また医療機関にたどり着いても、初期対応から脳神経外科治療の開始までに長時間を要することもあります。そんな地域の現状を踏まえ、脳神経外科疾患に対して、発症から治療まで迅速に対応する医療機関をつくることが必須だと考え、専門の医師ばかりのクリニックを開設しました。
大澤先生も手術をされるとか。ご経験について教えてください。
【大澤先生】脳神経外科で初期研修をした後、名古屋大学大学院医学系研究科在学中に、カナダのトロント小児病院へ留学する機会があり、子どもの手術について研鑽しました。その後、あいち小児保健医療総合センターに勤務し、近藤院長とともに東海地域全体の小児脳神経外科医療に携わってきました。7年間の在勤中に経験したのは、一般的な脳神経外科の治療から子どもの先天奇形や腫瘍、水頭症などの特殊な手術までです。脳神経外科という診療科は大規模病院にしかないため一般診療になじみがない部分もあります。ですので、開業準備中は親族の病院で一般診療を行いながら幅広く学んできました。
竹田先生は麻酔科がご専門だそうですね。どんな診療をされてきましたか?
【竹田先生】名古屋大学医学部附属病院の麻酔科で初期研修を終えた後、小牧市民病院に2年間勤務しました。救急患者さんも多く、月の半分ぐらいは病院に待機するような激務でしたが、貴重な経験になりました。その後はあいち小児医療総合センターに勤務し、小児麻酔を学びました。小児麻酔は、お子さんの体格や精神状態の発達の違い、さまざまな先天的疾患に応じたきめ細かい麻酔が必要となります。その後は名古屋大学医学部附属病院に戻り、外科系集中治療室で術後の麻酔管理をしていました。術後は、起きているだけで呼吸や血圧が不安定になるため、苦痛がないように麻酔で意識を落として管理する必要があります。呼吸、心臓、意識レベルなどを総合的に見て全身管理をしていました。その後は透析専門病院で透析患者さんの手術も経験したので、お子さんからご高齢の方、合併症のある方まで、さまざまな状態の患者さんに対応できます。
24時間体制で門戸を開いた、シームレスな医療
めざす医療について教えてください。
【近藤院長】脳外科では約7割が緊急手術と準緊急手術で、予定手術というのは3割程です。必要なのは、患者さんの発症時間に合わせること。緊急時に、「この時間だからできません」とは言えません。患者さんは病気になる時間を選べません。またあちこちの病院で診療してきましたが、脳神経外科医の不足や院内連携システムの限界により、「もう少し早く手術できていれば」と、何度も悔しい思いをしてきました。私が大事にしたいのは、困っている患者さんの実情に即した医療。脳卒中や頭部外傷は、1分1秒も無駄にすることはできません。24時間門戸を開き、発症から搬送、検査、麻酔、手術までシームレスな体制をめざしています。
地域医療に人一倍強い思いを抱く近藤院長が思う、「かかりつけ医」とはどんな存在でしょう?
【近藤院長】地域に溶け込んで顔が見える医療の関係を築き、「いざとなったら何とかしますよ」というのが、地域のかかりつけ医だと思っています。銀行でも、いきなり来てお金を貸してくださいと言ってもそう簡単に貸してくれませんよね。医療も同じで、患者さんが初めて会った医師に命を預けるのは勇気のいること。信頼関係が大切なんです。私は地域のあちこちの病院に勤務していたので、どこの町でもよく声をかけられるのですが、外来で顔見知りになっていれば、いざという時の診断も早いですし、患者さんの安心感も違うようです。もちろん私の顔をよく知っていて、「あいつはけしからん」と思う方がいても(笑)、それはそれで別の医師を頼ればいいんです。
診察する上で心がけていることは?
【大澤先生】患者さんの状況や背景に沿ったアドバイスも必要だと思っています。例えば、水頭症の手術をしたお子さんというのは知的能力障害があることが多く、地域の支援が欠かせないのですが、ご家族が行政や福祉の情報にアクセスできていないことも多々あります。そこで私が助言をさせていただいて、手術や診療だけでない面でもお役に立てればと思っています。
【竹田先生】診察外でもですが、どんな人にも必ずいい部分があると思っているので、患者さんからもいろいろな話を聞きたいと思って接しています。先入観なく診察してきたいですね。
術後もリカバリー室で全身管理
手術を受ける患者さんが多いと思います。術後の管理はどのように行われるのでしょうか?
【竹田先生】術後のリカバリー室は大学病院などにある集中治療室と同じレベルの高度な設備になっていますし、集中治療専門である私のスキルも生かしていきたいと思っています。一般的な手術対応もするクリニックでは、人工呼吸器や集中治療専門の医師がいないことがほとんどで、手術が終わったら人工呼吸器のチューブを抜いてご自身で呼吸ができる患者さんしか対応しないことが多いのですが、当院では絶対安静が必要となる患者さんでも受け入れていますし、もちろん術後回復では苦痛がないことを最重視しています。「手術が終わって麻酔からさめたらひどい痛みが襲ってきた」というのは何十年も前の水準の話で、「手術が終わったけれど、これぐらいの痛みなら耐えられる……」と言っていただけるような術後管理をめざしていますので、ご安心ください。
麻酔科は、手術以外での役割はあるのですか?
【竹田先生】手術が主な役割ですが、頭痛や腰痛、手のしびれなどの神経ブロック注射、薬の処方にも対応しています。患者さんによっては、注射を続けることによって少しずつ痛みの軽減が図れますから、反復治療を行い痛みとうまく付き合えるような状態をめざしていきます。例えば片頭痛や緊張型頭痛などは、手術でどうにかなるものでもなく、働きの変化によるものですので、その調整が大切です。ちょっとした工夫で毎日あった痛みが週に1度になれば6日は楽に過ごせます。痛みを和らげて日常生活の質を上げるための治療に取り組んでいるのです。
最後に地域の方へメッセージをお願いします。
【大澤先生】通常のクリニックと大規模病院の中間的な役割を担っているのが、当院の特徴です。通常のクリニックでは、夜間の対応や継続した診療が難しいこともありますが、当院では、診断、手術から術後管理まで、患者さんを連続して診ることができますし、紹介状がないと受診できないということもありません。気軽に患者さんが受診できて、連続して治療を受けられるようなクリニックをめざしていくつもりです。開業したばかりなので、行き届かない点があるかもしれませんが、そこは早急に修正して、地域に貢献できるように頑張りたいと思います。
【竹田先生】民間の有床診療所ではありますが、設備やスタッフの熟練度は、大学病院と遜色ないレベルと自負しています。どんな小さな症状でも、心配であれば気軽にご相談ください。