松原 明弘 院長の独自取材記事
まつあきこころのクリニック
(神戸市須磨区/鷹取駅)
最終更新日:2023/01/16

鷹取駅から徒歩約3分。複数のクリニックが入るビルの3階に、2022年11月に開業したのが「まつあきこころのクリニック」だ。外の光が緑色のカーテンを通じて降り注ぐ、居心地の良さが印象的な同院。院長を務めるのは、福岡や姫路の総合病院で心療内科・精神科の医師として長年経験を積んだ松原明弘先生だ。「さまざまな問題を抱えた患者さんが、ここに来ることで少しでも希望の光を見出せるクリニックになっていきたい」と、学生や働く世代、高齢者などの心の病気や症状に対して診療を行っている。今回は松原先生に、同院のことや精神医療にかける思いなどを詳しく聞いた。
(取材日2022年12月13日)
地域のかかりつけ医になるべく、鷹取駅前に開業
先生が医師をめざしたきっかけを教えてください。

私は小さい頃、あまり身体が丈夫なほうではありませんでした。また、母親がかつて准看護師として病院に勤めていたこともあり、「病院とはこういうところだよ」と折に触れて話を聞いていました。さらに自分自身の興味が、工学機械系よりも生物系、さらに動物全般というよりも特に人間に対してあったんです。そのようなこともあって、いつの頃からか医学に興味を持つようになり、医師の道を志すようになりました。
どうして精神医療を専門にするようになったのでしょうか?
将来、自分が何を専門にするかに関しては、「感染症」か「精神系」の両方に興味があり、どちらかにしようと迷っていました。そこで三重大学医学部卒業後は大学院に進学し、免疫学の学びを深めました。そして、次の興味である精神医療の経験を積むために福岡の総合病院へ。内科とストレス疾患は関係していて、例えば胃潰瘍になった場合、消化器内科で処置をしたとしてもその原因であるストレスが軽減されないと再発してしまうことがあります。他にもストレスで下痢が続いたり、咳が止まらないなどの症状が出ることも。そこで総合診療と心療内科で心身両面からの医療を提供してきました。その後地元・兵庫に戻り、社会医療法人恵風会高岡病院の精神科・心療内科へ。同時に姫路赤十字病院でリエゾンケアチームとしても診療にあたり、内科や外科などの主治医と連携を取って身体医療と精神医療を橋渡しする包括的な医療も提供してきました。
開業に至った経緯を教えてください。

勤務医の頃から、将来は小さくてもいいので自分自身のチームをつくり、地域に貢献したいという思いがありました。そして、縁があって2022年11月、鷹取駅前に開業することになりました。クリニック名は濁点や漢字を使わないやわらかなひらがな表記にすることで、お子さんがクリニックに対してとっつきにくさを感じないように工夫しました。院内も、ホワイト系の木目をベースに、セカンドカラーで緑を取り入れることで優しい印象になるよう配慮しました。また私のユニフォームは紫色なのですが、これも実は勤務医時代からのこだわりなんですよ。紫は、「感情の赤」と「理性の青」を混ぜた色で、心と体の意味を持つと考えます。さらに古くは僧侶など周りの人々のために貢献してきた方が使っていた色でもあります。私も皆さんの役に立ちたいという意味で、紫色のユニフォームを着用することにしているんです。
丁寧な問診とチームで適切な治療を提供
先生の診療ポリシーは何でしょうか?

とにかく患者さんの話を聞くことですね。たとえ同じ病状であっても、一人ひとりの社会背景は異なり、人生の問題、福祉の問題、身体の問題、さまざまな問題を抱えています。ですから単純な病状だけではなく、自分の頭の中に絵が浮かぶまで、その方が抱えている背景まで丁寧に聞き取るようにしているんです。1回の診察ですべてを理解することは難しいものですが、細かく質問をして理解するよう努めています。どういうかたちであっても、このクリニックに来ることで今までの問題が少しでも解決に進んでいけるように尽力していきたいと思います。当クリニックやわれわれスタッフは、主役でも脇役でもどちらでも構いません。希望が少しでも見出せるクリニックでありたいという思いです。
先生の専門は摂食障害とお聞きしました。摂食障害とはどのような疾患なのでしょうか?
摂食障害は少し前までは「思春期やせ症」ともいわれていたため、若い方がなることが多いというイメージがあるかもしれませんが、実はどの年代でもかかり得る病気です。男女では女性の割合が高いですね。ダイエットにはまったことがきっかけで食べ物を受けつけなくなる、ダイエットに重きを置いていなくても食べられなくなるなど、原因がはっきりとある場合とはっきりない場合があります。いずれにせよ食事に関連した行動の異常が続くと、身体がむしばまれていきます。例えば生理が止まれば骨粗しょう症になりやすくなり、一度もろくなった骨を元に戻すのは困難です。また栄養障害や嘔吐などの症状によって身体の合併症につながり、時には生命の危険に陥る場合もあります。ですから、なるべく早めの医師の介入が必要となります。
摂食障害はどのように治療していくのでしょうか?

例えば、摂食障害の中でも拒食症の場合は、24時間365日脳が食べないことに執着している状態です。脳が誤作動を起こしているともいえるでしょう。そのため「病気だから治療が必要」という意識が持ちにくいのです。そこでまずは「疾患教育」を通じて、患者さんやご家族の方に疾患のことをよく理解してもらうことからスタートし、食べなくていいという考えの優先順位を下げていきます。とはいえ急に多くの栄養を取ると危険なので、次に栄養の取り方について指導を行い、徐々に栄養改善を図っていきます。他の病気だと治ることは良いことと捉えやすいですが、拒食症の場合は治っていくことに恐怖があるのが大きな違い。なぜならこれまでの生き方を否定することになりますから。ですから病気が治った後の世界をイメージさせることも大切です。「栄養を取っても大丈夫だよ」「そんな生き方はしなくてもいい」と伝えて、希望を見いだせる手伝いしていきます。
つらい思いを抱えている人に希望の光を
他にどんな疾患の方が訪れているのでしょうか?

近隣に学校が多いこともあり、10代の患者さんでは過呼吸の症状で来院される方が多く見受けられます。また不登校の問題から、学校関係者と一緒に訪れる方も少なくありません。高齢の方では将来や健康に対する不安などからうつ病にかかる方など、年齢やライフステージによっての傾向はありますね。当院の診療室は大きめの造りにしています。症状の改善のためには、周りの方の理解・協力が必要になります。患者さんだけではなく、家族や、学生さんであれば学校関係者なども一緒に入って話を聞いてもらえるようにしました。また当院は、一つのクリニックで完結することは考えていません。例えば摂食障害で生理が止まっているなどの場合は産婦人科と連携するなど、各専門家と連携して治療を進めていきます。
クリニックを支えるスタッフさんについて教えてください。
医師である私のほか、臨床心理士、精神保健福祉士(PSW)、看護師、事務スタッフのチーム構成です。診察後、必要と判断すれば精神保健福祉士が社会的に適切なサポートを行います。ケアワーカーなど適切な補佐役の紹介、福祉など社会的資源の導入を手伝うこともあります。社会的背景があっての病気であるともいえるので、生活全体を見て治療とその手助けを行っていきます。患者さんには精神的につらい思いの方が多く、また説明の理解が難しい人もいますが、スタッフはみんな目の前のことに一生懸命になってくれる熱心さと、優しさがある人ばかりで、患者さんが訪れやすい雰囲気をつくってくれていると感じています。診察が終わっても勉強をしているのも頼もしいですね。
ところで先生の趣味はなんですか?

音楽を聴くこと、本を読むことです。音楽は好きなジャンルやアーティストを問わず、なんでも聴くことを大事にしています。音楽の魅力の一つは、いつでもどこでも触れられるところだと思います。だからすべて聴かないと、もったいない気がしているんですよね(笑)。読書も同じで、自分好みのジャンルや作家だけではなく、書店で目に入った本をとりあえず読んでみることを大切にしています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
一人で抱えていても問題は解決しないので、まずは相談してもらいたいですね。今つらい思いを抱えている皆さんが少しでも希望の光が見いだせる、そのためのお手伝いをさせていただきますので、どうぞお気軽にご相談にいらしてください。