渡部 真人 院長の独自取材記事
おひさまげんきクリニック
(川崎市高津区/高津駅)
最終更新日:2024/07/05
健康寿命が延び、医療はわかりやすい役割分担で「患者にとって足りないところ」を埋める必要があると「おひさまげんきクリニック」の渡部真人院長は話す。大学病院に勤務し、患者の負担が大きい現状を目の当たりにしてきた渡部先生は、「小回りの利く医療で患者さんを支えなければ診療の空白を生みかねない」と考え開業し、2024年4月には移転リニューアルを決意。バイクにまたがって訪問診療を行い、院名のように「地域の太陽」として幅広い診療を行う。
(取材日2023年6月12日/情報更新日2024年6月26日)
大学病院と連携し、それぞれの強みを生かす役割分担を
2024年4月に移転リニューアルされたと伺いました。
患者さんの利便性を考え、アクセスの良い駅前に移転しました。実際、「駅から近くなって通いやすくなった」と言っていただく機会が増えましたね。また、院内をクリニックらしくないおしゃれな空間にしたかったのと、少しでも患者さんにリラックスしてすごしてほしいと思い、内装にかなりこだわりました。待合室には大型テレビを設置し、心身が癒やされるような動画や音楽を流しています。院内の椅子を畳調のデザインにしたのも私のこだわりなんです。無料のドリンクバーも設置していて、季節によって種類を変えているので、その辺りも楽しみにしていただけたらと思います。
帝京大学医学部附属溝口病院と強固に連携されているんですね。
私は大学卒業後、帝京大学医学部附属溝口病院の外科に入局し、長く勤務していました。大学病院では難しい小回りの利く診療で患者さんを助けたいという思いから、病院と距離が近く、患者さんにとって利便性が高いこの場所での開業を決意しました。専門性の高い治療が必要な方を帝京大学医学部附属溝口病院の各診療科に紹介したり、同院で手術を受けて退院された方に経過観察で通院していただいたりという形の連携が多いです。多くの患者さんを迎える大学病院では、待ち時間が長くなる一方で、一人ひとりにかけられる診療時間は限定されます。その点、クリニックでは、一人ひとりに時間をかけて対応することが可能です。受診の負担を抑えたいけれど、以前大きな病気を診てもらった大学病院との関係が切れるのが不安という方にもご利用いただいています。
大きな病気の治療後に改めて受診先に困るケースがあるのですね。
大学病院で大きな手術をした患者さんが、日常生活に戻った後で風邪をひいた場合、地域のクリニックでは診療できないと断られるケースが多々あります。手術の原因となった疾病との関連性や、術後の経過がわからないまま診療するのはリスクが高いからです。結果として、軽微な症状であっても、労力と時間をかけて手術をした病院に通う必要性が出てきます。何もないことを確かめに行く術後の経過観察も同様です。情報の共有ができていれば、普段は近隣のクリニックで待ち時間なく診てもらい、気になる変化があるときだけ手術をした病院へ行くことができます。大学病院時代に、そうした患者さんの負担の大きさを知り、問題解決の一助となるクリニックが必要だと考えるようになりました。同時に、こうしたクリニックがあることで役割分担ができれば、大学病院は本来の高度医療に集中できるメリットもあります。
大学病院の先生方による診療も受けられるとか。
帝京大学医学部附属溝口病院の内科や外科から、多くの先生方を招いて外来診療を担当していただいています。時には、患者さんに合わせて特定のドクターにお声がけし、外来をお願いすることもあります。今も遠慮なく連絡を取り合える関係性の深い先生方が多いので、スムーズに紹介を進められ、適切な治療につなげやすい点もメリットです。大学病院にいた先生がクリニックでも継続して診てくれたら、患者さんも安心ですよね。また、実は医師の中にも病院で自身が診ていた患者さんのその後に関わりたい、見届けたいという思いは少なからず持っているものなのです。
地域リソースの活用で、安心できる自宅療養を支援
具体的にはどのような患者さんが受診されていますか。
私は呼吸器外科からスタートしていて、診療科としても「呼吸器内科」を標榜しているため、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの患者さんが多いです。しかし、どのような症状でも相談をお受けするスタンスなので、頭痛や咳、鼻水などの軽い症状や生活習慣病の管理にも対応しています。「具合が悪いがどの科に行けば良いかわからない」という方からのご相談もよくあります。当院で治療が可能なものについては当院で対応し、高度な治療が求められるものは大学病院へご紹介しています。他方で、大学病院での治療後に状態が落ち着いているからと退院された方で経過観察のための外来受診を希望される方、同様に自宅療養に切り替えて訪問診療を求められる方も多くいらっしゃいます。
訪問診療にも力を入れているのですね。
通院が難しくなった患者さんは、治療を継続するために入院を余儀なくされ、そのまま病院で最期を迎えることが少なくありません。しかし、「余生は家で過ごしたい」「自宅で最期を迎えたい」と望む患者さんはとても多いです。対して、受け皿となる在宅医療はまだ発展途上で、普及も十分とはいえません。実践を通じて学びを重ね、ベストな方法を模索しているのが現状です。開院以来、バイクに機材を積んで訪問を続けてきましたが、その中で訪問看護ステーションやナーシングホーム、ケアマネジャーらとの連携を深めることができてきたのは大きな強みとなっています。
地域の医療・介護サービスとどのように連携していますか。
大学病院の退院が決まっても、その時点で自宅での迎え入れ準備が整っていないケースが多々あり、大学病院のドクターから直接連絡を受けて対応することもあります。病状とご本人・ご家族の要望を伺い、こちらでマッチしそうな訪問看護師や訪問介護士、ケアマネジャーなどを手配する形です。大学病院にもこうした手配を担う部門はありますが、手続きに時間がかかってしまいます。在宅医療への切り替えでは、「早く自宅に戻って、少しでも長く家族と過ごしたい」という一分一秒を争うケースもあり、小回りを利かせ、スピード感を持って対応することが必要だと感じています。
症状の程度を問わず、患者が本音で語れる診療を提供
診療の際に心がけていることは何ですか。
常に「気楽にやろうぜ」というスタンスを大切にしています。患者さんには、今できることを精一杯やって気楽に過ごせるようにという気持ちと態度で接しています。これは普段の診療でも、命の灯が消えそうな患者さんに対する時も変わりません。医師が難しい顔をして威張っていては、患者さんやご家族から本音を引き出すことは難しいです。「実はこれがやりたい」とか「こんなこと聞いて良いのかわからないけど」と、気軽に口を開いていただけるように緊張せずに話せる雰囲気づくりを大切にしています。
今後の展望を教えてください。
これまでどおりの診療で患者さんとご家族を支えていければと考えています。一方で、当院の診療を通して若いドクターの教育面で力になりたいです。患者さんの話をじっくり聞き、五感を駆使して診る診療を若いうちに経験してほしいのです。そのため、訪問診療で私がクリニックを離れている間の診療は帝京大学病院の若い医師に任せるようにしています。当院では経験豊富な大学病院の医師がバックアップしているので、経験不足でわからないこと、自信が持てないことがあれば抱え込まずすぐに相談するというスタンスです。高度な機器による検査も重要ですが、丁寧な診療を通して、小さな兆しから病気を疑う感覚を養う経験は若い医師にとって非常に大切なんです。
読者へメッセージをお願いします。
ありがたいことに多くの患者さんを受け持っており、バイクに乗って訪問している際に、患者さんから手を振ってお声がけいただくこともあります。最近は、患者さんが自分のお知り合いの方を紹介してくださり、受診に至るというケースが増えています。患者さん同士の輪が広まり、当院を信頼してきてくださる方を大切にしながら、これからもこの高津区になじんでいくようなクリニックでありたいと思っています。また、内科・循環器内科を掲げていますが、どのような症状でも選別せず、幅広くご相談をお受けしています。普段と少し違う体調不良を感じつつも、「こんな小さな症状で大学病院を受診するのは」とためらうようなケースでも、診察により必要と感じれば大学病院での検査や治療へとつなげます。軽微な症状でも気になることがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。