小日向 聡行 院長の独自取材記事
こびなた在宅クリニック
(さいたま市岩槻区/岩槻駅)
最終更新日:2026/06/25
岩槻区を中心に在宅医療を提供している「こびなた在宅クリニック」は、2022年4月に開業。地域でのニーズ拡大とスタッフ増員に伴い2025年10月に区内で移転を行った。小日向聡行院長は心臓血管外科の医師として埼玉県内の病院で豊富な経験を持ち、通院が困難な患者の多さを目の当たりにしたことで訪問診療への専念を決意。現在、医師は非常勤含め8人、看護師は4人の体制を整え、院内外の多職種と強固な連携を構築している。在宅での看取りまで支える同院は機能強化型在宅療養支援診療所として、緊急時の入院受け入れ体制も整える。対応できる診療内容を増やすことで、地域住民の穏やかな人生の実現をめざしている。「医療の一番の目的は人を幸せにすることだと思う」と語る小日向院長に、在宅医療への思いを聞いた。
(取材日2023年7月31日/再取材2026年3月23日)
通院が大変な患者に常時対応するクリニック
開業のきっかけやコンセプトについて教えてください。

私は心臓血管外科の医師として、埼玉県内で長年診療してきました。開業直前は春日部中央病院に勤務していましたが、担当の患者さんが次々に通院が難しい状態になり、何とかしたいと考えたのがきっかけです。命に関わる重要な薬を飲んでいる方が腰を痛め、通院を中断したために1週間服用ができなかったケースもあり、解決すべき切実な問題だと思ったのです。岩槻区は春日部市と隣接しており、区内には長年外来を手伝ってきた丸山記念総合病院もありますので、土地に縁を感じてこちらに開業しました。健康寿命を過ぎた高齢の方に、その後の余生を住み慣れた場所で安心して暮らしてほしい。そんな思いのもと、訪問診療に取り組んでいます。
2025年に移転されましたそうですね。
患者さんが増え、スタッフを増員したことで前の施設が手狭になったため、岩槻区本町内で移転しました。現在、医師は常勤が私ともう1人、非常勤は6人おり、合わせて8人。看護師は4人おります。患者さんや地域事業所からの問い合わせに対応する事務部門、訪問者の運転や訪問時刻の調整などを行う診療マネジャー部門はそれぞれ4人の体制です。移転にあたり、職種によって仕事部屋を分けず、すべての部門が一つのフロアに集えるように設計しました。全員の声が届きやすくなり、スタッフ間で円滑にコミュニケーションが図れるようになったと実感しているところです。
診療を行う上で大切にしていることは何ですか?

患者さんである前に一人の生活者として向き合っています。在宅には画一的でない医療も大切なため「病気ではなく人を診る」ことを心がけていますね。それには患者さんの人となりや、ご本人にとって何が幸せであるのかを知る必要があり、現役時代のお仕事など病気に関係のない話をあえてするようにしています。心を開いてもらった状態でお話しいただいた情報が、診療に有益に働く場合もあるものなんですよ。リラックスして診療を受けてほしいという思いから基本的に白衣は着ないで、普段着で伺っています。病気を治すことはもちろんですが、「人を幸せにすること」が医療の最も大きな目的なのではないかと最近よく思うんです。例え老衰でこれ以上の回復が望めない場合でも、患者さんとご家族に納得して過ごしてもらうことがすごく重要だと実感しています。だからこそ、丁寧な説明を心がけていますし、一緒に歩んでいくつもりで日々の診療にあたっています。
地域の病院と強固な連携で入院の体制も整備
どんな方が訪問診療の対象となるのですか?

対象者は厳密に定められているわけではなく、「一人で通院するのが難しい」かどうかが基準になります。加齢や認知症、待ち時間がつらいなど、理由はなんでも構いません。ご本人が通院に難儀するようになったら訪問診療の対象です。比較的お元気な方以外にも、末期がんのため緩和ケアを受けていて、最期を自宅で迎えたい方や、在宅酸素療法(HOT)など医療措置が必要な方にも対応しています。受診のきっかけはケアマネジャーさんや訪問看護ステーション、病院からの紹介のほか、近年はクチコミで直接ご家族から連絡をいただくことも増えてきました。この周辺にはもともと在宅専門のクリニックは少なかったのですが、訪問診療に対する認知という意味で地域のお役に立てているのかなと感じています。
在宅専門のクリニックだからこその強みと主な診療内容を教えてください。
在宅医療は毎月定期的にご自宅を訪問して診療するため、わずかな体調の変化に気づきやすく、病気の重症化を未然に防ぐことにつながります。定期的な訪問診療のほか、急に具合が悪くなったときなどは24時間365日体制で往診も実施しています。診療内容は外来診療とさほど変わらず、薬の処方や点滴がメインです。がんの転移などによって、腹水や胸水がたまっている場合には、腹水・胸水穿刺という水を抜くための処置も可能です。検査も大がかりな装置が必要なもの以外は実施しており、採血や尿検査、心電図、超音波検査などをご自宅で受けていただけます。開業当初と比べると、対応できる管理や処置が増えてきました。その一つの例が、在宅での輸血です。訪問看護師さんと協力して、投与から終了まで付き添い、副作用の観察などを行いながら、アナフィラキシーが起こっても対応できるセットを用意した上で、自宅でも輸血療法を受けていただけます。
機能強化型在宅療養支援診療所でもあるそうですね。

はい。これは訪問診療に24時間対応できる体制を整えているだけでなく、往診や看取りにおいて定められた基準をクリアする必要のあるものです。当院は複数の医療機関と協力する「連携型」です。在宅医療では病状が悪化した際、入院先の手配に手こずるケースが散見されます。当院は春日部中央総合病院や丸山記念総合病院の医師が非常勤として勤務しています。また、大宮双愛病院と連携しており、急に入院が必要になった場合に、患者さんをスムーズにご紹介できる体制を整えています。在宅医療を担うクリニックとして、緊急時に電話一本で直接病院にお願いし、迅速に入院させてもらえるベッドを持っていることは大きな強みです。患者さんやご家族にとって安心いただける要素ではないでしょうか。
「岩槻で良かった」と思って暮らしてもらえるように
暮らし慣れた場所でさまざまな医療を受けられるのですね。

そうですね。今後は在宅での嚥下機能評価の取り組みも進めていこうと考えています。病院で耳鼻咽喉科の先生が行っているような、鼻から内視鏡を入れて、喉の動きや食べ物の飲み込みを直接観察して評価する方法です。嚥下機能のリハビリテーションを行う専門職の方と連携しながら、なるべく口から食べられる状態をつくっていきたいと思います。食べられるように工夫できるケースもたくさんあるので、諦めてしまわれる前に、嚥下でお悩みの方を支えていきたいです。私が医療の目的として考える「人を幸せにすること」につながる部分ですね。患者さんが必要なときにすぐ駆けつけられるよう、診療範囲を拡大していくことよりも、多職種の方との連携をさらに強化し、この地域でできることを増やしていきたいと思います。
医師を志した理由や、勤務医時代の経験も伺います。
子どもの頃、身内が長い闘病生活を送っていたり、別の身内が急に倒れて翌日に亡くなったりという経験をしました。子どもながらにそれらの出来事はとてもショックで。健康が何よりも一番と強く思ったことをきっかけに自然と医療の道に進んでいました。大学を卒業後は、自身の手によって病気に直接アプローチできる点に魅力を感じ、外科領域を専門にしました。中でも心臓血管外科は、治療の結果がダイレクトにわかってしまう分野です。シビアな世界ではありましたが、手術の腕を磨けばそれだけ助けられる患者さんが増えると考え、日々研鑽を続けました。そんな環境に身を置いてきましたので、医師としての胆力がつき、現在は何が起きても動じずに対応できるようになりました。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

医療の面から「岩槻で良かった」と思って暮らしてもらえるような一助となりたいです。訪問診療と聞くと、皆さんは「寝たきりの方が受けるもの」というイメージを抱くかもしれません。しかし実際に利用できる患者さんはもっと多く、「病院に行くのが大変」程度の動機であっても訪問の対象になります。通院に負担を感じている方は気軽に当院へご相談ください。

