小野 陽平 理事長の独自取材記事
かごしまIBD消化器内科クリニック
(鹿児島市/天文館通駅)
最終更新日:2025/07/16

天文館通電停からすぐ。大型複合ビル内4階にある「かごしまIBD消化器内科クリニック」は、消化器内科、特に潰瘍性大腸炎やクローン病といったIBDを専門とする国内でも珍しいクリニックだ。小野陽平理事長は、消化器内科の医師として市内の大学病院をはじめ、県内の基幹病院などに15年間勤務。指定難病である炎症性腸疾患(IBD)の患者に長く寄り添いたいという思いを強くし、開業を決意したという。胃・大腸内視鏡検査の経験も豊富で、消化器内科とIBDを専門とする。「天文館の保健室」のような存在になれたらと語る小野理事長に、診療内容や患者への思いなどを詳しく聞いた。
(取材日2025年6月11日)
利便性抜群の炎症性腸疾患(IBD)専門のクリニック
開業までさまざまな経験を積まれてきたそうですね。

私は志布志市の出身で、2007年に熊本大学医学部を卒業後はいづろ今村病院に勤務しました。当時指導してくださった医師は私の恩師で、大きな影響を受けましたね。その後、鹿児島大学の消化器内科に入局し、鹿児島市内のほか薩摩川内市や奄美大島など県内の複数の病院に勤務しました。へき地の病院では消化器内科だけでなく一般内科の診療も行い、さまざまな経験をさせていただきました。例えば、鹿児島市内であれば末期のがん患者さんに緩和ケア病棟を紹介できますが、へき地には緩和ケア病棟がない病院が多いのが現状です。私は緩和ケアの専門家ではありませんでしたが、患者さんの痛みを極力軽減できるよう図り、その方らしい生活を送ることができるように勉強会や講習会などにも参加し、知識・技術の習得に努めました。加えて、研修医時代から数えて約17年間携わり、注力してきた内視鏡検査も強みの一つです。
こちらの特徴について教えてください。
消化器内科、特にIBDを専門としたクリニックです。東京でできるIBD治療を鹿児島でも提供すべく、先進の医療を含めて幅広い治療を行える体制を整えています。IBDは長く付き合う病気ですので、病院よりも通院時のストレスや時間がかからない街のクリニックである点も、患者さんにとってメリットなのではないでしょうか。さらに胃・大腸内視鏡検査を専門とする医師として「最良の検査を行うためには高機能の設備が不可欠」と考え、開業時より検査機器も随時更新しています。また当院は、鹿児島の中心地である天文館の大型複合ビル内にあります。一般内科診療も実施していますので、買い物のついでや仕事の合間にも気軽に受診しやすいと思いますね。皆さんにとって「天文館の保健室」のような存在になれたらうれしいです。
開業して3年がたちましたが、当時からの変化はありますか?

最初は前職の病院で担当していた方を含め、IBDの患者さんを中心に診ていました。そこから一般内科やIBD以外の消化器内科疾患でお悩みの方にもお越しいただくようになり、現在はほぼ半々という状況です。その中でも特徴的なのが、過敏性腸症候群(IBS)の患者さんが多いこと。IBSは中高生にも多い病気なのですが、当院が利便性の高い立地にあり、通学時に通るため立ち寄りやすいなどの理由で来てくれるのだと考えています。病院で働いているとそういう子たちに出会う機会はほとんどありませんので、開業して初めてIBSの患者さんの多さを知りました。IBSの専門家の数は全国的にも希少で、診療の際はじっくりお話をする必要もあります。自身を理解し、寄り添ってくれる医師に出会えたことで症状の改善につながる患者さんもいるからこそ、「困っている子を何とかしたい」という思いでできる限り丁寧に向き合っています。
技術・経験を生かした負担の少ない内視鏡検査が強み
IBDの自覚症状と治療について教えてください。

下痢や血便といった便通異常、腹痛、肛門の異常、体重減少など、症状はさまざまですが、いずれも持続的な症状が現れます。一般的な感染性腸炎などは数日から1週間程度で治癒しますが、IBDはこのような症状が長く続きます。現時点でIBDを根治させる治療はなく、患者さんの重症度やライフスタイルに応じて適切な薬剤を選択し、必要な場合には分子標的薬による高度医療も用いて寛解の状態をめざします。診療の流れとしては、初めに症状をよく伺うことからスタート。そして自覚症状や診察所見、血液検査所見などでIBDが疑われる場合には、大腸内視鏡検査を実施します。
腸の病気を疑う目安はありますか?
腹痛や下痢が数週間以上続く場合は何らかの腸疾患を疑います。IBDだけでなくIBSやアレルギー疾患、薬剤による腸炎などのケースもありますので、一度ご相談いただければと思います。感染性腸炎でも腹痛や下痢が起こりますが、数日以内に治まるのが一般的です。またIBSでは腹痛や下痢・便秘といった慢性的な便通異常が見られます。それらの状態は長く続きますが、内視鏡検査をしても腸に器質的な異常が見られないのが特徴です。ストレスを感じた時や、感染性腸炎の治癒後に発症することがあり、若年者から中高年まで、幅広い世代で発症します。なお、腸の病気ではありませんが、黒色の粘っこい便が出た際は、胃・十二指腸から多量に出血している可能性があります。緊急性がありますのですぐに医療機関へ行ってください。
こちらでの胃・大腸内視鏡検査の特徴やこだわりを伺います。

胃内視鏡検査は経鼻・経口ともに可能で、高性能の機械を用いることで、どちらを選択しても精度にほとんど差が出ない検査を実施できます。経口の場合は鎮静剤もご希望に応じて使用していますが、検査後は車の運転ができないといった制約がありますので、受診にかけられる時間や検査時の苦痛など、何を重視するかを基準にお選びください。一方で大腸内視鏡検査でも、複数の下剤をご用意したり、腸内に入れる空気を炭酸ガスに変えて検査後のおなかの張りを抑えたりと、患者さんにかかる負担をなるべく取り除いています。また、腸に炎症が起きているIBDの方は、罹患していない人よりも検査に痛みを感じやすい傾向があります。加えて大腸がんのリスクも高く、炎症がある状態でがんを発見するのは非常に難しいため、これまで養ってきた「大腸がんを探す目」を生かし、丁寧で愛護的な操作にも注力しています。
患者との対話を大切に、地域の保健室として貢献したい
診療で大切にされていることは何ですか?

まずは患者さんのお話をしっかり聞くことですね。幼少期にお世話になった優しい先生に憧れ、地域のかかりつけ医になりたいと思ったくらいなので、コミュニケーションはとても大切にしています。時間に追われる時もありますが、できるだけ患者さんのお話を遮らずにお聞きするよう心がけ、病気の診断に必要な情報を収集します。そして高血圧症・糖尿病といった生活習慣に関連する疾患は生活スタイルやお仕事などをヒアリングし、エレベーターでなく階段を使うようお勧めするなど、日常生活の中で取り入れられるアプローチを探していきます。
スタッフの皆さんについても教えてください。
当院にはIBDの患者さんに数多く関わってきた看護師が在籍しています。完治が困難な病気だからこそ、この疾患のことをよく理解しているスタッフがいるのは大きな安心感につながるのではないでしょうか。私が患者さんとゆっくりお話しできない時も、看護師がじっくり伺うことができます。当院では勉強会を積極的に開催し、スタッフの知識向上と情報共有に努めています。また、当院が登録している開放型病院であるいづろ今村病院とオンラインによるカンファレンスを実施することで、患者さんの入退院前後の情報共有も図っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

患者さんが自分らしく生きていけるよう、IBD専門のクリニックとしてサポートしていきたいです。当院には相談しやすいアットホームな雰囲気がありますので、おなかの不調から生活習慣病まで、気になる症状があればいつでも気軽にご相談ください。新たな治療法など先端の情報にもアンテナを張り、患者さんの利益になると判断したものは積極的に導入しています。そして専門外の症例など、当院で対応が難しい病気についても、その方がより良い医療にたどり着けるよう、必要に応じて専門の医療機関におつなぎするなど、精いっぱいお手伝いいたします。患者さんが医療機関にかかる時はどこかに不調・不具合があるわけですから、本心としては、当院にいらっしゃる必要はないほうが良いと思っています。しかし、何かあった時に頼りにできる「天文館の保健室」として、ぜひ知っていただければと思います。