正廣 紀衣 院長の独自取材記事
そらいろファミリークリニック
(所沢市/新所沢駅)
最終更新日:2024/07/02

新所沢駅から徒歩3分、シニア専用賃貸マンションの1階にある「そらいろファミリークリニック」は、さまざまな世代の多様な健康問題を総合的に診療する「家庭医療」に携わるクリニックだ。特定の年齢や疾患で患者を区切ることなく、日常的な症状に包括的に対応する。より専門的な医療が必要な状態か否かを判断し、適切な診療科への橋渡しをすることも重要な役割だ。医学の進歩によって医療が細分化される以前、地域の駆け込み寺として機能していた「町医者」や「開業医」を思い浮かべるとわかりやすいだろう。正廣紀衣(しょうひろ・きえ)院長は家庭医療の意義に強く共感し、外来診療にも訪問診療にも全力を注ぐ熱意あふれる医師だ。「地域住民にとって健康リソースでありたい」と話す正廣院長に、家庭医療の特徴や診療の心がけについて聞いた。
(取材日2024年4月25日)
幅広い世代の健康問題に応える「家庭医療」を提供
こちらは家庭医療を提供するクリニックだそうですね。特徴を教えてください。

はい。家庭医療とは、内科や小児科、あるいは皮膚科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科といった診療科の枠組みにとらわれない総合的な医療分野のことです。一般的に、患者さんは「風邪っぽいから内科かな」「子どもの体調が悪そうだから小児科に行かないと」といったように、症状や年齢に応じて診療科を探しますよね。家庭医療を提供するクリニックの場合、大人の風邪も子どもの風邪も、皮膚にできものができた時も、血圧が高くて困っている人も相談していただけます。日常的な症状から、命に関わる病気を速やかに選別して適切な診療科へとつなぐのも私たちの役割です。風邪のような症状のお子さんであっても、何か重篤な病気が隠れていないかと考えながら診察をすることが大切になる診療分野といえますね。
健康に関するあらゆる問題を相談できるということでしょうか。
そのとおりです。地域の近くにいて、心身の不調で困った時はなんでも相談できた昔の町医者をイメージしていただけると良いと思います。医学の進歩とともに診療科が細分化され、身近な場所で専門的な医療を受けられるようになりました。一方で、自分の症状を既存の診療科に結びつけることができず、適切な診療科の医師のもとにたどり着くまでに時間がかかってしまう患者さんも多いと思うんです。そんな時「何科に行くべきか」を考えず、とりあえず受診して相談できるのが当院のような家庭医療のクリニックです。例えば複数の疾患を抱えている高齢者を包括的に診ることも可能なので、症状ごとに医療機関をはしごしていて大きな負担がかかり困難を抱えている方は、ぜひご相談いただきたいですね。
一人ひとりの患者さんと丁寧に向き合われているのですね。

そうですね。家庭医療に携わる医師は、患者さんの人生観や価値観、生活背景なども踏まえて診療します。例えば、糖尿病の患者さんがいらした時、検査数値だけを見て「この食べ物を控えて」「運動をして」と型どおりの指導をしたり、薬を増やして数値を下げたりするのは簡単でしょう。しかし、それでは患者さんとの信頼関係が築けず、根本的な解決につながらないことも少なくありません。一口に糖尿病といっても、その影には「義理のご両親の介護があって、自分に時間をかけられない」とか「不登校の子どもが心配で、つい過食してしまう」といった個別の背景があり、それによって適切なアドバイスは異なるからです。困った時に頻繁に立ち寄ってもらいながら、困り事や悩み事について話を引き出し、その人にとってより良い医療の在り方を探っていきたいですね。
先入観を排し、公平な目で診療することを心がける
訪問診療にも力を入れていると聞きました。

クリニックの往診車に乗って、地域の患者さんのお宅を回っています。訪問診療に関しては、患者さんのご家族や住居の状況、地域の特性などとも深く関連することから、看護や介護分野との連携が欠かせません。当院の訪問診療を利用される方の多くは重症心身障害のお子さんや高齢者の方たちで、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所のケアマネジャーなどを通じて当院にお声がけをいただくことが多いですね。訪問診療が行き届いていない地域では、人工呼吸器のケアや、風邪や肺炎の治療などが必要になるたびに、介護者が患者さんを連れて大きな病院まで足を運ばなくてはなりません。高齢者で通院が難しくなりご自宅で療養されたい方も多くいらっしゃいます。当院が医療と介護の狭間の部分を担当することで、患者さん自身はもちろん、介護をするご家族の負担を減らしていけたらと思っています。
開業されて丸2年がたちましたが、どのように感じられていますか。
開業して2年たったとはいえ、地域の皆さんに広く認知していただくにはもう少し時間と努力が必要です。それでも、少しずつ当院のコンセプトに共感して受診してくださる方が増えてきました。「先生は若いから、長く診てもらえそう」と思っていただければ、とてもうれしいです。一緒に働く看護師や事務スタッフも、家庭医療を理解して柔軟に対応してくれるので、安心してご相談いただきたいですね。地域包括ケアの一角を担えるよう、着実に役割を果たし、地域に根を張った診療を展開していきたいと考えています。
診療時に心がけていることを教えてください。

幅広い症状、幅広い年代の患者さんを診る仕事だからこそ、どの方にもフラットに接することを意識しています。例えば、訪問診療で対応する重篤な症状のお子さんも、予防接種でクリニックに来る健康なお子さんも、そのご家族にとってたった一人の大切なお子さんであることに変わりはありません。そして、どちらにも第三者には見えない育児の喜びやつらさがあるはずです。ですから、自分の物差しで「大変そうだな」「つらいだろうな」といった判断をせず、一人のお子さん、一人の患者さんとして公平に、平等に接することを心がけています。
めざすのは「地域にとっての健康リソース」
先生が家庭医療を専門とする医師を志したのはなぜですか。

医師になることを志した時に思い浮かべたのが、私が小さい頃から家族みんなでお世話になっていた近所の診療所の医師でした。身内に医療関係者がいない私にとっての「医師」のイメージは、いつも身近にいて、「なんでも相談できるかかりつけ医」だったのです。そのせいか、大学時代にさまざまな領域を学んでいる間も、この中から1つの専門領域に絞るのはもったいないような気がしていました。訪問診療をしている医師の特集をメディアで見たのはそんな時です。総合的な診療の一環として患者さんのもとへ足を運ぶ医師の姿を見た時、私がなりたいのはこれだと直感しました。理想の医師像に最短距離で近づく道を探す中で、家庭医療の存在に出会ったのです。
院内にも、家庭医療のクリニックならではの工夫が感じられますね。
どの年代の人にとっても受診しやすい施設をめざして、院内はバリアフリー設計でトイレも広いスペースを取り、待合室からも中の様子が見える窓を取りつけたキッズスペースも設置しました。授乳室や、日中に患者さんを預かることができるケアルームも用意しています。待合室や診療室から見える中庭で季節を感じながら、少しでも穏やかな気持ちで過ごしていただけたらうれしいです。良い意味で病院らしくないカジュアルな雰囲気なので、些細な相談事でも気軽に足を運んでいただきたいですね。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

当院がめざすのは、地域の健康のためのリソースです。皆さんが健康な毎日を過ごすための資源として、利用していただきたいのです。患者さんが自分の体や心のことを打ち明けていただく中で、年老いたご両親の健康に不安がある場合には、お父さんとお母さんも当院に連れてきていただいて構いません。じっくりお話を伺いますから、一人で抱え込まずに適切な解決方法を一緒に探しましょう。また、お子さんの風邪で受診した親御さんにも風邪の症状が出ているなら、当院でご家族皆さんを診察します。病気の種類、痛みの場所、受診する方の年齢層などに関わらず診療しますので、お困りの際はぜひご相談ください。地域に根差した診療を通じて、多くの方に、長く頼りにしてもらえるクリニックをめざしてまいります。