林 裕美子 院長の独自取材記事
きらきらこどもクリニック
(安芸郡海田町/海田市駅)
最終更新日:2024/03/04
JR山陽本線海田市駅前の商業施設内にある「きらきらこどもクリニック」。院長を務める林裕美子先生が、「クリニックを楽しい場所にしたい」という理想を胸に開業した。その言葉どおり院内は明るい雰囲気で、待合室に置かれたバオバブの木、カラフルな遊具や水槽など、まるでテーマパークに来たような気持ちになる子も多いだろう。こうした工夫を通じて、林院長の専門であるてんかんの治療だけでなく、日常のちょっとした悩みも気軽に相談できる環境を整えているという。また、同院では地域の受け皿になりたいと病児保育室も併設し、働く親たちのサポートにも尽力。親子にとって居心地の良い場所をめざす林先生に、診療ポリシーや今後の展望について話を聞いた。
(取材日2022年4月16日/再取材日2023年4月18日)
親子ともに楽しんで通える場所をめざして
まず、クリニックのコンセプトについて教えていただけますか?
「きらきら」というクリニック名には、子どもたちにきらきら輝いてほしい、きらきらの笑顔を見せてくれるクリニックにしたい、という想いが詰まっています。一方、病児保育室「ぽかぽか」は、ぽかぽかと気持ちが温かくなるような場所にしたいという願いを込めました。当院のコンセプトは「クリニックを楽しい場所にすること」です。病院嫌いのお子さんが多いのは、怖い場所だと思うからではないでしょうか。だからこそ、楽しい場所だと意識を変えてもらえるよう内装にはこだわりました。また病児保育室を併設したのは、忙しい親御さんの負担を少しでも減らしたかったから。この地に開業し、お子さんが生まれた時から大人になるまで、 地域のお子さんを一貫してサポートしたいと思っています。
テーマパークのようなすてきな内装ですね。
待合室の滑り台や水槽、カラフルな壁紙は、お子さんが楽しく過ごせるようにと考えました。クリニックのロゴマークでもある木は、広島市植物公園にあるバオバブをイメージしたんですよ。また、部屋の壁1面には、ホルムアルデヒドの吸着に役立つとされる漆喰を使って、気管支喘息のお子さんにも配慮しました。診察室の天井には星のライトをつけているのですが、喉の奥を診る際に「きらきら見て」と声をかけて、お子さんに上を向いてもらうのにも役立っていますね。動画を見られるようにしているのも、子どもたちが診療を受けやすくなればと思ってのことです。もちろん、親御さんにとっても通いやすい場所にしたいので、授乳室を広くして授乳スペースを2つ用意したほか、少しでもくつろいでもらえるよう、フルフラットになる椅子も設置しています。
病児保育室「ぽかぽか」について詳しくお聞かせください。
親御さんが仕事を休めないときなどに、体調を崩したお子さんを預かって日中のお世話をする保育室です。海田町は広島市内へのアクセスも便利で、子育て世代が増えている活気ある地域ですが、病児保育室のある小児科はまだ少ないと聞いています。お子さんは急に熱を出すことが多いですから、そんなときの受け皿になれたらと考えました。利用にあたっては、事前の登録と予約が必要で、空きがあれば当日でも受け入れ可能です。また2回目以降のご利用でしたら、当院から10km圏内の保育園・幼稚園や小学校を対象に、スタッフがタクシーで体調不良のお子さんを迎えに行くサービスもあります。お仕事などで急なお迎えが難しいときに活用していただければと思います。
大変さがわかるからこそ頑張る保護者を支えたい
親御さんの力になりたいという想いが伝わってきます。
私も一人の母親として大変な気持ちがよくわかるんです。お母さんは育児だけでも大変なのに、その上、家事や仕事もこなして休む暇もないと思います。そんな中でお子さんが急に発熱したら、両親のどちらが迎えに行くのか、どうやって預け先を確保するのかなどを瞬時に考えないといけません。そんなときにこそ、当院の病児保育室を利用していただいて、お母さんたちの負担を少しでも減らせたらと願っています。とはいえ、病気のお子さんを預けることに後ろめたい思いを持つ親御さんもいらっしゃるでしょう。そこで、お子さんに少しでも楽しく過ごしてもらえるよう、できるだけ明るく楽しい雰囲気の保育室をめざしています。一人の母親として「あったらいいな」という想いを形にしました。
診療する上でのポリシーを教えてください。
親御さんの言葉に耳を傾けることを何よりも大切にしています。お子さんのことを一番よくわかっているのは、やはり親御さんです。だからこそ、親御さんの意見は正しいという意識で、「ここが普段と違う」という言葉を聞き逃さないようにしています。また、心配する親御さんの気持ちにできるだけ寄り添うことも心がけています。もし医師から「たいしたことない。こんなことで受診しないで」と言われたら、傷ついてしまいますよね。まずはしっかりと親御さんの不安やつらい気持ちを受け止めることが大切だと考えています。適切な診断・治療を提供することは、こうした関係性の上に成り立つものだと思っています。
てんかんの治療も行っているそうですね。
てんかんは100人に1人発症するといわれるありふれた病気ですが、偏見も多く言い出しにくい病気の一つではないでしょうか。勤務医時代、てんかんをはじめとする小児神経疾患を専門としてきたことから、当院でもその経験を生かそうと、ビデオつきの脳波計を用いて診断や治療方針の決定に役立てています。脳波計を導入しているクリニックは少ないかもしれません。てんかんの診断には、お子さんの発作の様子を観察しながら脳波をとることが大切なのですが、自宅で発作が起きた際に動画に撮ってもらうことも診断に役立ちます。発作には何種類かあって、よく知られているけいれん発作から、ぼーっとしているように見えるだけの発作もあります。本人が気づいていないケースもありますし、発作で意識が混濁している間に転んでけがをする可能性もあるので、少しでも気になる症状がある場合はご相談ください。
開業医としての役割を肝に銘じて真摯に向き合う
先生は初めから医師をめざしていたのでしょうか?
医師をめざしていたどころか、病院嫌いの子どもでした。転機は小学生の時に祖母が病気になってしまったことです。元気だった祖母が暗い部屋でベッドに横になっているのを見て、子どもながらに何もしてあげられないことが悔しくて医師をめざそうと思ったんです。小児科を選んだのは、大学4年生の時に参加した小児の糖尿病キャンプがきっかけでした。これは治療意識の向上と仲間づくりを目的としたもので、5歳の子どもが自分でちゃんとインスリン注射を打ったり血糖値を測ったりしていたことが衝撃的でした。キャンプを通して子どもたちの純真さに引かれるとともに、自分が子ども好きだということにも気づいて小児科を志しました。
スタッフさんや診療体制について教えてください。
スタッフは看護師と保育士が常駐しています。医師は少し前から非常勤の女性医師が加わり、二診制としました。というのも、開業以来患者さんが増え続けていて、それ自体はありがたいことなのですが、一方で一人ひとりとじっくり向き合う時間が取れないというジレンマも……。これを解消するために人員を増やすことにしたんです。隔週で土曜診療を開始したのもそうした理由から。現状に満足せず、できることから少しずつ変えていきたいですね。今考えているのは、診察時に伝えたいことを口頭だけでなく書面にして渡すこと。限られた診察時間内では、どうしても説明が駆け足になりやすく、親御さんにきちんと伝わっていないと感じることがあったんです。お子さんが目の前で泣いていたら、集中して話を聞くのは難しいと思いますし、後で読み返せるよう工夫していきたいですね。
読者へのメッセージをお願いします。
開業して改めて感じたのが、もし私が病気を見逃したら患者さんの人生が変わることもあるということです。勤務医時代はクリニックからの紹介で重症のお子さんを診ていましたが、今は私が紹介する側。軽症の患者さんをしっかり診るのはもちろん、軽症に見えても実は重大な問題が隠れているケースを見落とさないようにすることが、自分の役割だと肝に銘じています。そういった緊張感を忘れず、真摯にお子さんと向き合いたいですね。また親御さんには、私たちは皆さんの味方だとお伝えしたいです。子育てはわからないことの連続ですから、お子さんの体調が悪いときはもちろん、何か気になることがあったらぜひ気軽に相談してください。