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矢野 成昭 院長の独自取材記事

都城在宅医療クリニック

(都城市/五十市駅)

最終更新日:2022/10/17

矢野成昭院長 都城在宅医療クリニック main

都城市南横市町の「都城在宅医療クリニック」は母智丘公園まで続いている桜並木通り沿いにある。主に在宅での訪問診療を行うクリニック。院長を務める矢野成昭(やの・しげあき)先生は、鹿児島市の在宅医療クリニックで約13年にわたって研鑽を積み、2022年3月に同院を開業。矢野院長をはじめ、訪問看護師やケアマネジャー、薬剤師などさまざまな分野の専門家が一丸となって、患者の治療やケアにあたっている。にこにこと優しい笑顔が印象的な矢野院長は、患者や家族に寄り添う在宅医療を提供したいと語る。また、地域のインフラとして在宅医療を根づかせることを目標に掲げている。今回の取材では、在宅医療を志したきっかけ、開業までの経緯、そしてめざす在宅医療の姿などを聞いた。

(取材日2022年4月14日)

スペシャリストとの出会いが在宅医療を志すきっかけに

開業までの経緯を教えてください。

矢野成昭院長 都城在宅医療クリニック1

福井大学医学部を卒業し、最初の半年は大学病院に勤務していました。生まれが熊本ということもあり、研修先として鹿児島市立病院の内科へ。当時は、がんの治療などに携わっていました。その後、福井県内の病院での勤務や藤田保健衛生大学大学院などを経て、都城市内の病院に勤務しました。都城を選んだのは、妻の実家が近いという理由からです。そして今から13年前、鹿児島市伊敷にある「ナカノ在宅医療クリニック」へ見学に行ったんです。同院は在宅医療のスペシャリストとして全国的にも知られる中野一司(かずし)先生が院長を務めるクリニックです。中野先生のもとで先端の在宅医療にふれて魅了され、そこから常勤・非常勤合わせて13年間在宅医療に従事しました。そして2022年3月、都城市で当院を独立開業する運びとなりました。

どのようなきっかけで、中野先生のもとを訪れることになったのでしょうか?

中野先生の講義を聴く機会があったのですが、その中で、「誤嚥性肺炎は病気ではなく障害である」という非常に的を射た発言に感銘を受けたんです。誤嚥性肺炎を病気だと考えていては、いくら抗生剤を上手に使っても治らない。機能障害であると捉え、飲み込みそのものに対してアプローチしないと治療することはできない、という斬新な視点でした。その核心に迫る言葉に突き動かされ、中野先生のクリニックへ見学に行ったのが始まりです。また、中野先生の豊富な人脈によって、日本中で活躍されている在宅医療の先生方と出会う機会にも恵まれ、在宅医療の良さを知ることができました。

在宅医療のどんなところに魅力を感じておられますか?

矢野成昭院長 都城在宅医療クリニック2

高齢になり病気やケガ、障害があっても、一生施設暮らしではなく、最後は自宅に帰って過ごしたいという方は多いのではないでしょうか。やっぱり家が一番良いですよね。自宅に帰ることは、社会生活や生きがいを取り戻すことにつながります。つまり、その方の人生を取り戻すお手伝いができることが在宅医療の魅力だと考えています。また、在宅医療には診療だけでなく、生活支援という側面があるのも特徴です。患者さんの生活をダイレクトに見ることができるんです。例えば、薬を飲んでいない、食べていない、寝ていないなど、自宅を訪問するとほぼすべてが見えるんですね。外来では患者さんの話を聞くことはできても、生活の様子を見ることはできませんから。だからこそ、患者さんにとってより適切な支援に結びつきやすいのが在宅医療であり、訪問診療だと思っています。

患者・家族・医療者がワンチームとなり生活の質向上へ

患者宅では、どのような診療を行われるのですか?

矢野成昭院長 都城在宅医療クリニック3

診察がメインです。基本は月に2回のペースで定期的に訪問します。当院は内科・神経内科を標榜してはいますが、在宅医療は総合診療的な側面があり、患者さんの状態と診察所見から病気を絞り込むといった視点が必要です。なぜなら患者さんは介護を受けている方や持病のある方など、通院困難な方がほとんど。中には、施設への送迎が難しくなったことで診療の依頼がくるケースなどもあります。つまり、さまざまな病気の可能性を念頭に置いて診察を行わなければなりません。さらに、患者さん本人はもちろん、ご家族の生活支援やメンタルケアにも力を入れています。時には患者さん以上に、ご家族が疲弊してしまうケースもあるんです。一生懸命になっていると、どうしても視野が狭まってしまう傾向にあるので、ご家族の疲弊度合や状態を見て、視野が広がるような声かけを行っています。

診療にあたる上で一番大切にしていることを教えてください。

患者さんの思い、生活の質を大切にしています。極端な例を挙げると「タバコを吸ってもいいですよ」「お酒を飲んでもいいですよ」といった具合ですね。体には悪いことでも、医療者が薬などでコントロールし、許容できる範囲内で患者さんがしたいと思うことをできるように配慮しています。もちろん、治療のため患者さんにとって難しいお願いをすることもあります。在宅医療では、普段からの関係づくりや患者さんの人生を知っていくことが重要なんです。だからこそ、悪いときだけ診るのではなく、月に2回定期的に出会う機会をつくって、患者さんのことを理解し信頼関係を築けるよう努めています。また、患者さんの生活の質の向上のためにチーム一丸となって協力することも大切にしています。

生活の質を向上するためのチームとはどのようなものですか?

矢野成昭院長 都城在宅医療クリニック4

チームというと、医師や訪問看護師など医療スタッフのことだと思われるかもしれませんが、実はチームの主役は患者さんご本人なんです。そのサポーターとして、家族や医療スタッフがいます。このチームが一丸となって患者さんの生活の質を上げていくということです。また、「キュア」から「ケア」へという考え方も取り入れています。「キュア」は病気を治療することですが、「キュア」できない、病気が治らない、といった場合に慢性疾患や障害があっても生活の質を向上させるために「ケア」へと、患者さん、家族と医療者側の考え方を切り替えます。そうすることで患者さんの気持ちを現実に近づけ、苦痛を取り除いていく手法です。実際に私の考え方や接し方が変わると患者さんの受け答えがまったく変わってきます。思いもよらない良い結果につながることもあるんですね。そのためにも患者さんの声はもちろん、関わる医療スタッフの声にもしっかりと耳を傾けます。

地域のインフラとして在宅医療を根づかせたい

仕事にやりがいを感じるのは、どのような瞬間ですか?

矢野成昭院長 都城在宅医療クリニック5

看取りの際、ご家族が「一生懸命やって、きちんとお見送りできたね」「家でみることができて良かったね」と実感されたときに、在宅医療をやってきて良かったなと感じます。また看取りを行うということは、最期まで自宅で過ごしたいという患者さんの思いをかなえられたということでもありますからね。実は、当院のある都城市および周辺地域には、少し前まで在宅医療というシステム自体がほぼ存在しないといってもいいくらいの状態でした。在宅医療という文化が根づいていないため、病気や障害を負ってしまうと、病院や施設に入るというのが地域に住む方々の共通認識だったんです。そのため、在宅医療を希望される方がまだまだ少ないのが現状です。最近になり、都城でも在宅医療を行う先生が増えはじめ、在宅医療のネットワークづくりに励んでいるところです。

今後の展望を教えてください。

都城市および周辺を在宅医療体制の行き届いた地域にすることを目標にしています。在宅医療の概念そのものを持たない方も多いので、「病気やケガをしても、家で過ごす選択肢があるよ」「在宅医療によって、その方の人生や社会生活、生きがいを取り戻すことができるんだよ」ということを広く知っていただきたいです。そのために、在宅医療に従事する医師だけでなく、訪問看護師や理学療法士、薬剤師、ケアマネジャーなど、多職種共同で在宅医療のインフラ化を意欲的に進めています。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

矢野成昭院長 都城在宅医療クリニック6

病気をしても、ケガをしても最期まで家で穏やかに暮らせる医療を提供していきたいですね。都城市やその周辺地域の方々に在宅医療の良さを知っていただき、地域の在宅医療の推進のお役に立てればと考えています。病状の悪化により人口呼吸器やその他の医療処置が必要なため入院を継続せざるを得なかった患者さん、がんの治療が困難になり自宅で過ごしたい患者さんなどの相談も随時受けつけています。病気になっても楽しく暮らせる地域にしてきたいので、ご助力いただければと思います。

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