金谷 潔史 院長の独自取材記事
かなや内科クリニック
(八王子市/西八王子駅)
最終更新日:2025/04/11

西八王子駅から徒歩3分にある商業施設2階にある「かなや内科クリニック」。院長の金谷潔史先生は東京医科大学八王子医療センターの高齢診療科(老年内科)に22年間勤務し、老年内科全般、認知症、血液疾患の医療に携わり、オーストリア、ウィーン市立ボルツマン研究所ラインツ病院で神経病理を学んできた。開業後は、内科・老年内科・血液内科・認知症まで幅広く対応。「認知症は、早期発見が非常に重要です」と語る金谷院長は認知症の予備軍といえる軽度認知障害の発見にも注力し、日々認知症患者や家族の不安に応えている。朗らかな人柄の金谷院長に、同院の特徴について、また専門にしている血液内科や認知症についても話を聞いた。
(取材日2025年3月17日)
血液の異常から認知症まで、地域を支える専門性
血液内科とはどのような科なのでしょうか?

血液内科は、血液に関する病気を専門とする診療科です。当院では、健康診断で血液の異常を指摘された方をはじめ、貧血、白血球や赤血球の異常、血小板の異常など、さまざまな血液疾患の患者さんを診療しています。特に多いのは、若い女性の鉄欠乏性貧血ですね。高齢者にも貧血は見られますが、若い女性の場合は鉄分不足によるものがほとんどです。ただ、貧血の原因は鉄分不足だけではありません。貧血とは逆に、赤血球が多すぎる場合もあります。血液細胞は骨髄で作られているので、血液の異常の原因が骨髄にある場合は、骨髄検査が必要になることがあります。当院では骨髄検査は実施していないため、以前勤務していた東京医科大学八王子医療センターにご紹介し、検査を受けていただきます。血液疾患は放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。特に高齢者の貧血は、心不全や認知症の原因になることもあるため、注意が必要です。
血液内科は、貧血の方が多く受診しているのですね。
そうですね。貧血の方にはまずは正確な診断をした上で、患者さんそれぞれに必要なアドバイスをしています。例えば、鉄欠乏性貧血と診断された方には、鉄分を多く含む食品を積極的に取るようにアドバイスします。具体的に、どのような食品に鉄分が多く含まれているのかを紹介し、日々の食生活に取り入れるようお伝えしています。
認知症も30年以上にわたり専門にされていると伺いました。

私が医師になった1985年はまだアルツハイマー型認知症という言葉さえありませんでしたが、認知症、当時は痴呆症という病気が社会問題になりつつあるのを感じていました。しかし、今ほど患者数は多くなく、どちらかというと珍しい病気、という認識でした。そうした状況の中で、私は認知症という病気に強い興味を持つようになり、社会の高齢化が進むにつれて、認知症患者はますます増加するだろうと考えたんです。血液内科の医師としても活動していましたが、認知症の研究、臨床に携わることを決めて力を入れてきました。1999年に東京医科大学八王子医療センターに着任してからは、20年以上にわたり、認知症の患者さんと向き合ってきました。
認知症のサインを見極め、早期発見へ
認知症の疑いがある場合、いつ受診すべきですか?

認知症の疑いがある場合、できるだけ早く受診されることをお勧めします。認知症は記憶障害から始まることが多いので、ご家族の方が最初に気づかれることが多いです。同じことを何度も尋ねたりすることがあれば、それは記憶障害のサインです。次に見当識障害、つまり時間や場所の感覚が曖昧になってくる。これも重要なサインです。意外と見逃されがちなのは、性格の変化です。怒りっぽくなったり、イライラしたり、あるいは、うつっぽくなったり、これまで興味を持っていたことにまったく興味を示さなくなったり。包括的な作業が以前のようにできなくなったりするのも、認知機能の低下を示唆するサインです。そうした精神的な変化や、見当識障害、記憶障害などが少しずつ現れてきたら、早めに受診することをお勧めします。
家族が認知症の検査を嫌がる場合、スムーズに受診してもらうにはどうすればいいですか?
ご本人に自覚がない場合や、受診を嫌がる場合もあるかもしれませんが、「頭の健康診断に行ってみよう」と誘ってみたり、ご夫婦であれば、「私も一緒に健康診断を受けよう」と誘ってみたりするなど、工夫してみると良いかもしれません。多くの場合、ご家族が「何かおかしい」と感じて連れてこられるので、ある程度進行してから受診される方が多いのが現状です。しかし、最近は早期発見、早期治療が重要視されるようになってきていて、比較的早い段階で受診される方も増えてきました。
認知症の進行を遅らせるためにはどうしたらいいのでしょうか?

特にエビデンスのある方法は運動です。軽度の認知症で、ご自身で運動ができる場合は、有酸素運動がお勧めです。手軽なのはウォーキングで、散歩をするだけでも効果が見込めます。ただし、うつ状態でなかなかやる気が出ない、という方もいらっしゃると思います。その場合は薬の力を借りて意欲の向上を図り、運動につなげていく、という方法もあります。特に高齢者の場合は、無理のない範囲で、デイサービスなどを利用して体操を行うのがお勧めです。また、人とのコミュニケーションも大切なので、家に引きこもりがちにならないように、介護保険を申請して、デイサービスに通うことを検討する必要もあります。デイサービスを利用している方は、そうでない方に比べて、認知症の進行が遅いというデータもあります。
なるほど、コミュニケーションも重要なのですね。
そうですね。特に重視していることは、ご家族とのコミュニケーションです。これまでの経験上、ご家族がしっかりとサポートされている患者さんのほうが、症状の進行が緩やかな傾向にあります。しかし、中には、ご家族が近くにいない方もいらっしゃいます。そのような場合は、介護施設などで専門的な介護支援サービスを受けていただくのが良いかと思います。それでも、やはり家族の存在は大きいと日々の診療で強く感じます。認知症が進行すると、日常生活を送ることが困難になってきます。その困難を軽減し、生活をサポートするためには、介護者の存在が不可欠です。着替え、トイレ、食事など、ご本人が一人でできることは、なるべくご自身で行っていただくことが大切ですが、一人では難しくなってきたことは、ご家族がサポートしてあげる必要があります。
一人ひとりに寄り添った認知症診療をめざして
長年の診療経験から、最近の認知症患者さんに何か変化を感じますか?

最近の認知症での変化としては、脳血管性認知症が減ってきていることがあります。以前は、脳梗塞や脳出血などが原因の脳血管性認知症が多かったのですが、MRIやCTの画像で確認できるような明らかな脳血管障害の所見が見られるケースは、明らかに減ってきています。これは、高血圧症、糖尿病といった生活習慣病の治療が進歩したことによる成果だと考えています。その一方で、アルツハイマー型認知症は依然として多く、今後も増加していくと予想しています。アルツハイマー型認知症は根本的な予防が難しいため、どうしても患者数が減りにくいのが現状です。また、レビー小体型認知症の患者さんも増えてきています。以前は診断が難しかったレビー小体型認知症が、診断技術の進歩によって精密に診断できるようになったことが要因の一つなのではないかと考えています。
クリニックの今後の展望について伺います。
マンパワーの問題もあり、現状では難しいのですが、将来的には、認知症の早期発見に特化した総合的な検査を自由診療で提供したいと考えています。物忘れの状態を詳しく分析できるような機器を導入し、早期の患者さんを積極的に見つけて、適切な治療につなげていきたいですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

認知症は、早期発見が非常に重要です。もちろん早期発見だけでなく、症状が進行してさまざまな問題行動が現れた場合も、諦めずにご相談いただきたいと思います。妄想、徘徊(はいかい)など、認知症のBPSD(行動・心理症状)は患者さんご本人だけでなく、ご家族も深く苦しめます。そうした困難な状況にある方々が、少しでも希望を見出せるよう、私たちもできる限りのサポートをしたいと考えています。認知症でお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。