山下 徹志 院長の独自取材記事
サルスクリニック日本橋
(中央区/日本橋駅)
最終更新日:2021/10/12

日本橋駅に直結するビル内にある「サルスクリニック日本橋」は、「未来につづく、今を診る。」をコンセプトに、2021年6月に開院したクリニック。カフェ風のカウンター席や優しい間接照明が印象的な待合室、天井が高くシンプルにまとめられた診察室など、院内のどこにいても居心地が良くリラックスできる雰囲気だ。プライマリケア、腎臓内科一般、血液透析、糖尿病などの臨床に携わり、心臓・腎臓関連や敗血症が腎臓に与える影響などを専門に研究してきた山下徹志院長は、同院を運営する法人の理念に共感し院長に就任。駅からのアクセスの良さ、丁寧な診察、医師、看護師、常駐する管理栄養士によるチーム医療で、「より健康な生活」をサポートする同院の診療について、山下院長に聞いた。
(取材日2021年7月13日)
より健康な未来のため通いやすいクリニックをめざして
こちらを運営する法人の理念を教えてください。

“人に寄り添い 未来に挑む”を理念として掲げています。今までの日本では、良くも悪くも病院が中心になった、医療者が治療方針を決め、患者がそれに従うというようパターナリズム的医療が行われてきました。そうすると、当然治療方針に患者の都合は考慮されませんし、当然治療を続けるのが難しい、病院に行くのが難しいという人が出てきてしまいます。そういった方たちが医療から取りこぼされている現状を改善すべく、まずは「病院に来られない人」に対して訪問診療を、さらにそれだけではフォローしきれない「病院に来るのが難しい人」にも質の高い医療を提供したいという思いからサルスクリニックを開院しました。サルスクリニックでは、医療者は患者さんの選択を支援できるように一人ひとりに寄り添ってサポートすることをミッションにしています。あれこれ言われて生活を制限される医療ではなく、自分で自分の人生を選ぶ医療をつくっていきたいのです。
病院に来ない人へのアプローチというのは興味深いですね。
病院に来ない人の中には、例えば、病院嫌いの人もいらっしゃると思いますし、仕事を休めないという人もいらっしゃいます。私はこれまで基本的に大学病院勤務をしてきましたが、やはり病院を中心とした医療は、病院に来るような重病の方に対する治療です。医療側の考えとしては、もっと早くから介入できていたら、もっと良い経過をたどることができたのではないかと思うことが多々ありました。そこで、病院に通えない、通いにくい、通いたくない人を対象に、病気になる前、悪化する前に早期に介入できるクリニックをコンセプトに開院しました。サルスクリニックのサルスは、健康という意味です。そこには、病気の人が健康になってほしいという意味もありますし、それ以上に、一見病気に見えない方の健康という意味もあります。健康と言われている方でも、それぞれに健康問題は認識されていると思います。そういう方々が今よりも健康になることをめざしています。
通いたくなるクリニックであるためにどのような工夫をされているのですか?

クリニックへの通いにくさの原因には、不便さがあると思います。例えば、診療時間もその一つなので、当院では平日は9時から21時まで、土日祝も9時から17時まで診療しています。また、院内の採血項目もクリニックとしては非常に多くなっていて、例えば、心筋梗塞の検査などもできるようになっています。また、検査が受けやすいようさまざまなコース設定もしています。当院は主に生活習慣病を対象にしていますが、循環器内科を専門にする医師もおります。近隣に大きな病院がない環境ですので、もしもの時にも対応できるような体制を整えていますので、安心して受診してください。
専門の腎臓内科を生かしつつ生活習慣病の診療を
先生は腎臓内科がご専門と伺っています。

大学で学んでいた頃から、糖尿病や高血圧に関して関わる医師になりたいと思っており、まずは長野県の病院で研修を受けました。地方の病院には、高齢の方が感染症にかかり重症になって運ばれて来るケースが多く、そのような方が亡くなられる時は腎臓が悪くなることが多くあります。高血圧を引き起こすのも腎臓の機能低下ですし、そのような方を治すのも腎臓ではないかと考え腎臓を専門にしました。医師になって3年目の時に勤めていた病院で腎臓と糖尿病を診ていたこともあり、腎臓と生活習慣病に関する研究を考えていましたが、臨床で体験した急性期の印象が強く、急性腎障害を研究テーマにしました。そのままアメリカ国立衛生研究所で客員研究員として3年間研究を続けました。
研究から臨床へ戻られたのはなぜですか?
研究してきて得たものを使って、今生活している人たちの役に立ちたいという思いから当院への着任を決めました。もともとは「人類に貢献したい」という思いから医師をめざしたので、患者数が多く社会全体へのインパクトの強い生活習慣病についてライフワークとして取り組んでいきたいという軸は変わっていません。今の日本で介入できる生活習慣病の危険因子で多いのは、高血圧と喫煙、運動不足、飲酒、食塩過剰摂取だといわれています。ですから、ほとんどが定期的な通院による服薬とともに、栄養指導など、生活習慣への介入が必要です。今後も臨床でアイデアを得ながら、研究は続けていきたいと思います。
特に力を入れている治療はありますか?

病院と提携し、腹膜透析に力を入れていきたいと考えています。腹膜透析は自宅で行う治療です。これも、先ほどお話ししたパターナリズムの一例と言えるかもしれませんが、日本では、腎臓が悪くなった方に対して、管理が簡単だということもあり血液透析が行われることがほとんどです。ただそれは医療機関側の都合で、血液透析になると患者さんは週に3回、1日3~4時間拘束されることになります。一方、腹膜透析の場合、自宅で、夜間に透析を行うなどの方法で、仕事をしながら治療を行うことができます。特に働いていらっしゃる方はギリギリまで血液透析をしたくないという方もいらっしゃいますので、そういったところに力を入れていきたいです。
進化する医療の質を大切にし、患者の価値観に寄り添う
診療で大事にしていることは何でしょう。

何より医療の質を大事にしています。医学は日々進化していますから、例えば10年前の医療で定番だった治療でも、今ではもう行われていないものはいくらでもあります。最新の知見も常に学びながら科学的に正しい医療を行うことはとても重要です。ただし、正しいからといって、それを医療側が押しつけては先ほど申し上げたパターナリズムから抜け出していないことになります。まず、わかりやすく患者さんに説明し、患者さんの人としての価値観も尊重しながら、お互いに納得できる着地点を見つけていけたら良いなと思います。また、「その日だけ立ち寄りました」という受診の仕方でも構いませんが、基本的には通院を続けていただくことを大事にしていきたいと思っています。一度受診して、その後、通院にならなくても、また具合が悪くなった時に「ここにかかれば安心だ」と思っていただけたらうれしいですね。
今後の展望を教えてください。
医師が評価する良い医師と、患者さんが評価する良い医師は必ずしも一致していないというのが医療の抱える課題です。こちらにどれだけ良い医療を提供するポテンシャルがあっても、患者さんに通院してもらわなければ医療は始まりません。これについても患者さんの価値観に寄り添うということが欠かせない視点になってきます。今までは客観的に正しくあることが求められてきましたが、クリニックを開院したことで、医師が思う良い医師と、患者さんが思う良い医師を両立させていきたいというのが個人的な挑戦です。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

健康問題は多くの人が興味を持っているので、インターネットでもよく検索されますし、メディアでもよく取り上げられますが、そこには正しい情報もあれば、間違った情報もあります。医学の専門書ですら、本当に正しいかどうかを判断するのが難しい世の中です。そこは、私たち医療に携わる者が毎日学習しますから、例えばワクチンの接種を受けるか、受けないかというように行動を伴うような何かを決断される時には、正しいか誤っているかわからない情報に飛びつくより、クリニックを受診してご相談いただければと思います。当院では、専門の先生に見ていただいたほうが良いというような判断もできますので、最初に受診する場所として安心して来ていただきたいと思います。