久能 勝 院長の独自取材記事
平安堂こころのクリニック
(船橋市/津田沼駅)
最終更新日:2026/08/06
津田沼駅北口から歩いて3分の平安堂医療ビルにある「平安堂こころのクリニック」。北欧調の温かな雰囲気の院内で、穏やかな笑顔で迎えてくれるのが久能勝(くのう・まさる)院長だ。自身も悩みの多い思春期を過ごし、子どものメンタルヘルスに関わりたいと、医学部を再受験したキャリアの持ち主でもある。千葉大学医学部附属病院とその関連病院での児童精神科の経験を生かしながら、発達障害、強迫症(強迫性障害)、トラウマや不安、気分症状の治療などにあたっている。複数の公認心理師たちとのチーム医療により、患者一人ひとりをサポート。「どの子も自分らしく生きられるように、ご家族も含め支えていきたい」と語る久能院長に、診療にかける想いなどを詳しく聞いた。
(取材日2026年6月20日)
発達障害や強迫症などで悩む子どもと家族に寄り添う
まず、医師を志した理由や開業までの経緯を教えてください。

国際基督教大学で人文科学を学びながら将来について考えていた時に、大学のチャペルで行われた礼拝で「あなたが痛みを感じる場所に行きなさい」という言葉を聞いたことが転機となりました。自分と同じように悩める子どもたちのメンタルヘルスに関われたら、と医学部を再受験。卒業後は千葉大学医学部附属病院とその関連病院の一般精神科や児童精神科で、研鑽を積みました。一方、この医療ビルでは1977年から親族が内科のクリニックを営んでいました。内科は従兄弟が継承しましたが、私はこのエリアに足りていない児童精神科のクリニックを開業することにしたんです。
現在はどのような患者さんが多いのでしょうか。
当院は原則として、初診受付の年齢を年長から15歳までのお子さんとしているので、ほとんどが小学生から中学生の患者さんです。18歳未満の未成年の受診は保護者または当院が認めた同行者の同伴をお願いしています。発達障害と強迫症を特に専門的に診療していますが、多いのが自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習障害(LD)、精神遅滞(MR)など、発達障害の相談です。中でもADHDとASDが多いですが、LDを併存しているケースもあります。成長過程で不登校など気になることができて受診し、発達障害だとわかるケースもあります。船橋市の行政機関や小児科クリニック、学校の関係者からの紹介もありますね。
児童精神科はどのようなタイミングで受診すべきですか?

例えば発達障害なら、早期から適切なサポートを受けることで、安定した生活を維持できているお子さんもいます。発達のことで気になることがあれば、早めに周囲の専門機関や専門知識がある人に相談することが望ましいです。ADHD特性のために忘れ物や失くし物が多い、段取りや片づけができない、言われたことをすぐ忘れるといった場合も、適切な配慮や支援、治療などで改善が見込めることもあります。また、読み書き、計算などが特定的に苦手なLDも、早いうちにその子の特性に合わせた指導を受け始めることで、学習面でのつまずきを少なくすることができるかも知れません。一方、知的能力は問題のないASDは、中学年以降に友達関係のつまずきから明らかになることもありますね。
公認心理師たちとのチーム医療が強み
こちらではどのような検査や治療が受けられるのでしょうか?

知能検査、ASDの特性を詳細に把握するための検査などが可能です。治療としては、投薬治療、環境調整のほか、公認心理師によるカウンセリング、お子さんへの対応の指導などを行っています。お子さんの治療は環境調整がまず優先されます。また、薬の副作用を心配される方も少なくありません。そのため、薬物療法を行う際には、その必要性や予想される副作用について説明し、ご家族とも相談しながら、お子さんの状況に応じて進めるようにしています。保険で処方できる漢方から始める方もいますね。ADHDは多動・衝動性や不注意症状を改善するための薬、ASDには強迫症状・不眠・イライラなどの二次障害を和らげるための薬を使うこともできます。また、当院には複数の公認心理師が在籍しており、ASDの検査、認知行動療法、学校での支援案内などを行っています。
どのような支援が必要なのかも教えていただけるのですね。
検査をして診断するのは「発達障害だからこれはできない」とレッテルを貼ることが目的ではありません。大切なのは支援の機会を取りこぼさないことです。「教室で皆と一緒に過ごす」「特別支援級に通う」「通常クラスに在籍しながら週に数回、別教室で特性に応じた指導を受ける通級を利用する」など、選択肢はいくつかあります。症状や患者さんとご家族の希望もよく聞きながら、どうしていくのが最適解なのかをともに考えるようにしていますね。学校に行くのも外出も難しい状況なら訪問看護を活用するという方法もあります。理学療法士や作業療法士が対応可能な看護ステーションであれば、運動面の支援や作業療法を家庭で受けることができる場合があります。
先生のご専門である強迫症についてお聞かせください。

強迫症は児童・思春期に発症しやすい疾患です。汚れたのではないかと過剰に気にして手洗いやシャワーが長くなる不潔恐怖、誰かにけがをさせたかもと不安になる加害恐怖、鍵の確認などを繰り返ししないと不安になる確認強迫など、さまざまな症状があります。脳の器質的・機能的な問題が関与しているといわれていますが、生活上のストレスをきっかけに発症することも少なくありません。治療は主に薬物療法と認知行動療法になりますが、どちらか一方にするのか併用するのかなどの治療方針は、症状の内容や重症度、生活への影響や患者さんと親御さんの意向を考慮しながら決定しています。
子どもと家族が自分らしく生きられるよう支える
診療において、何を大切にしていますか?

例えば発達障害では、同じ環境で周囲に合わせて行動するのは苦手でも、その子なりの強みや良さがあります。どういう場所で、どのような助けがあれば、一番元気に過ごせるのか・その子らしくあれるのか、を大切にしています。一人ひとり良いところは必ずあるので、親御さんと一緒に見つめ直すようにもしていますね。親が子を受け止め、理解することはとても大事です。ご両親が「あれができない、これもできない」と嘆くだけではなく、その子らしさに目を向けられるようになると、親子の関わり方も治療の進み具合も違ってくると思っています。子どもの笑顔の源は親の元気な姿といっても過言ではないので、保護者の悩みにもしっかりと耳を傾けるようにもしています。
今後の展望についてお聞かせください。
社会的にも児童精神科のニーズはかなり高まっています。当院では、月初めの予約受付日をホームページ上でお知らせし、お電話で翌月の予約をお取りしていますが、多くのお問合せを頂くために予約が取りづらくなっていて、心苦しく思っています。将来的には他の児童精神科医にも手伝っていただき、外来枠を増やしていくことで対応したいと思っています。また、最近は発達障害に加えてトラウマに関する相談も増えてきています。家庭や学校での問題行動の背景にトラウマ体験が潜んでいることもあります。子どもへの直接的な身体的な虐待の他、子どもの前で家族に暴力をふるうなどの面前DVも重大問題です。トラウマ治療ではまず安心安全な環境をつくることが大切です。児童相談所の管轄が千葉県から船橋市になったこともあり、船橋市医師会としても力を入れていくことになると思います。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

マスコミやSNSで取り上げられる機会も増えたせいか、以前は「育てにくい子」で終わっていたのが「もしかして発達障害?」と気づく親御さんが増えています。診断がつくのを恐れて受診をためらうご家庭もありますが、早めに治療を開始することで、お子さんが学校生活の中で大きなつまずきを経験するのを防ぐことも期待できます。友達関係に悩んでいたお子さんが、支援の中で人との関わり方を学び、特性はそのままでも周りに適応できるようになる例も多くあります。自分の特性を理解し、卑下せず、周囲とうまくやっていく方法には、一人ではなかなかたどり着けない方も多いと思います。親子関係、きょうだい関係が悪化していても、治療が改善のきっかけになるかもしれません。何かあれば、ためらわずに早めにご相談ください。

