荒井 健利 院長の独自取材記事
ゆりかごクリニック
(川崎市宮前区/溝の口駅)
最終更新日:2025/04/18

東急田園都市線溝の口駅からタクシーで20分ほど。緑の多い昔ながらの住宅地の中にある「ゆりかごクリニック」は、在宅医療を専門としており、宮前区・麻生区・高津区・中原区・都筑区・青葉区の住民を中心に診療を行っている。荒井健利院長は「通院困難となった方を温かく診たい」という思いのもと2021年に開業した。「訪問診療って、何から始めたらいいの?」という素朴な質問にも快く応じ、依頼件数は着実に増えているという。患者と密に接する在宅医療だからこそ、医療以外のプライベートな話にも耳を傾けている。和やかな笑顔で会話を進める姿が印象的な荒井院長に、診療時に大切にしていることなどを聞いた。
(取材日2024年6月12日/情報更新日2025年4月16日)
生まれ育った地で、地域密着の医療を
ご出身はこちらの宮前区なんですね。

2021年4月5日に、生まれ育ったこの地域に当院を開業しました。私の両親がここから車で3分ぐらいのところで幼稚園を運営していることもあり、私の夢はこの地域で医療を提供すること。開業するにあたり、候補地は宮前区しかありませんでした。宮前区にある聖マリアンナ医科大学病院でリウマチ科、膠原病、アレルギー内科を診療する医師として在籍した後、同院で温かみのある医療を行う松田隆秀先生のもとで総合内科診療を学ぶことに。松田先生の医療に対する姿勢が、現在の私の在り方に大きく影響しています。貴重な経験をさせていただき、たいへん感謝しています。
ご高齢の方も多いこのエリアでは、訪問診療のご依頼も多くいただくのではないでしょうか?
宮前区は団地が多く、若い頃から長年こちらに住まわれている高齢の方も多くいらっしゃいます。ご依頼は、患者さんのご家族から直接いただくこともあります。また、開院して初めてわかったことが、地域のケアマネジャーさんや、訪問看護ステーションの看護師さん、薬剤師さん、病院などの専門職の方々とのつながりの重要性ですね。在宅医療はそうした皆さんのお力があって成り立つものなので、専門職の方々とのつながりなくしては、とても当院のようなクリニックはやっていけません。ありがたいことにケアマネジャーさん、地域包括ケアセンター、訪問看護ステーションなどと提携させていただいていて、 患者さんのご依頼を受けるという状況が多いです。ただ現状として「訪問診療ってどのようにお願いしたらいいんだろう?」と思われている方も多くいらっしゃると思います。そのような質問にもお答えしますので、気軽に当院へお電話していただければと思います。
医療体制について、お伺いします。

「24時間、365日緊急対応」という看板を掲げて開業したのが、2021年のこと。おかげさまで数多くのご相談をいただけるようになり、2024年4月に医療体制を強化しました。現在、院長である私の他に10人の医師が在籍。看護師、アシスタントスタッフ、医師陣が緊密な連携を図りながら、日々の診療に従事しております。泌尿器科、代謝内科、内分泌内科、呼吸器内科、循環器内科、リハビリテーション科を専門とする医師たちであることが、当院の特徴の一つです。患者さんの中には認知症の方や褥瘡(じょくそう)治療を必要とする方さんもいらっしゃるので、いずれは精神神経科や皮膚科の先生のご支援をいただくことも検討したいと思っています。
幼少期に両親から教えられた「命を救う仕事」
医師をめざすことになったきっかけを教えてください。

子どもの頃に、自分がかわいがっていたクワガタムシが死んでしまったんですね。とてもショックで、もし私の両親が亡くなったら……という想像までしてしまって、その時から生命というものを考えるようになったのです。そんな時両親が、命を救うために働くお医者さんの話をしてくれて、それがきっかけとなりました。医師をめざしたいなという気持ちが芽生え、成長してからもその夢はずっと持ち続けていました。長いこと夢を持ち続けられたのも両親のおかげだと思っています。幼稚園を運営しているので、私が幼稚園を継ぐことも考えていたと思いますが、経済的な部分も含め、私の夢を陰ながら応援してくれたと思います。時には厳しく、優しく育ててくれた両親が今までのモチベーションにつながっていたように思います。
現在、園医という立場で幼稚園に関わっていらっしゃいますが、この地域への思いについてはいかがですか。
幼稚園出身の方も含め、この地域には何千という単位の方がお住まいです。幼稚園の仕事をしている中で、在宅医療とはまた違う地域の方々とのつながりをいただいていますが、そうして出会った方々から、在宅医療も含めて、「こういう医療があったらいいね」という話を聞けるのはすごくありがたいですね。
大規模な病院にも勤めてこられたというお話がありましたが、在宅医療に至った経緯を教えてください。

正直大学を出た時はそこまでは在宅医療について強く考えていませんでした。今まで一番長く勤めていた上杉クリニックで受けた影響が大きかったですね。外来診療を行いつつ在宅医療を中心としているクリニックで、そこの院長である上杉毅彦先生が提供する医療や患者さんへの対応の仕方に非常に尊敬の念を抱きまして。そこで長く在宅医療の経験を積むことができました。
傾聴を大切に、患者にも家族にも寄り添ったサポートを
診療の上で大事にしていることは何ですか?

在宅医療だと検査機器がそろっているわけではないので、そうすると患者さんへの問診が非常に大切になってきます。ご家族に対してもですが、まずどれだけお話を聞けるかが大事です。私はなるべくお話を遮らず、すべて伺ってから質問させていただくなど、丁寧に診察するよう心がけています。在宅医療では先進の医療の提供は難しく、だからこそいろいろな情報を得ることも大切にしています。それをもとに患者さんに適した病院をご紹介したり、適切な情報提供をしたりするようにしています。大きな病院だと得られない日常生活に関する情報も多くありますので、何か手がかりになってくれればという気持ちでいつも情報を提供するようにしています。
訪問診療の際、意識されていることはありますか?
大切なのは、緊張している患者さんの気持ちを緩めることです。例えば、患者さんのご自宅に伺うと、例えば釣りをしている昔の写真があるなど、医療とは直接関係のない情報がたくさんあります。ですからそういった情報から、「昔、釣りをされていたんですか?」など、医療とは別の話題から入ることができます。最初は緊張で表情をこわばらせているような方でも、そういった会話をきっかけに笑顔を見せていただけるように心がけています。医療ももちろん大切ですが、特にがん末期や緩和医療の方の場合は温かみのある会話も大事だと思っています。
患者さんのご家族とのコミュニケーションも大切にされているそうですね。

ご家族の協力があってこその訪問診療ですのでとても大切にしています。また、ご家庭によっては深刻なお気持ちを抱えていらっしゃる場合もあります。これは賛否あると思いますが、私はあまりご家族にも暗くなってほしくないと思っています。もちろんシビアな話もしなければなりませんが、多くの場合お話しさせていただくのは、残りの時間をどのように幸せに、楽しく、明るく生きることができるかを考えていきましょうということです。いろいろな方がいますので、ご家族と患者さんの生活や性格の気質を見て、明るく接することのできる人には明るく、真面目に話したいという方に対してはしっかり向き合うようになど、その方々に合わせたご対応を心がけています。また、介護が負担でご家族が精神的に落ち込まれるケースもあります。その場合は、デイサービスや介護施設、患者さんのご承諾のもとレスパイト入院などのお話もさせていただきます。
患者さんへメッセージをお願いします。
これからも一人ひとりの患者さんとの出会いを大切にしていきたいですね。また、患者さんの生き方を尊重し、ご家族とご自宅で穏やかに過ごせる時間を大切に残りの時間を楽しく暮らしてほしいなと思います。患者さんやご家族の想いも共有しながら、今後も在宅医療に取り組んでいきたいと考えています。