門間 文彦 院長の独自取材記事
みえ在宅・内科クリニック
(亀山市/亀山駅)
最終更新日:2025/08/01

亀山駅から車で約3分、豊かな自然に囲まれ、史跡や文化財が点在するエリアにある「みえ在宅・内科クリニック」。門間文彦院長は三重大学医学部血液・腫瘍内科学講座の助教を務め、白血病などの治療や研究に尽力してきたが、生まれ育った地元に、より貢献したいという想いから在宅医療の道へ。在宅医療専門クリニックで経験を積み、2020年に前身となる「みえ在宅医療クリニック」を開業した。さらに地域の幅広いニーズに応えるため、内科外来を併設し、現在の場所へと移転。2025年にリニューアルオープンした。温かなまなざしと、穏やかな笑顔を絶やさない門間院長は、医学と哲学を両輪に人間の生と死を見つめ、患者に寄り添い続ける。その背景にある想いに迫る。
(取材日2025年7月3日)
在宅医療と内科外来の両輪で、幅広いニーズに応える
リニューアルオープンした経緯を教えてください。

この地で開業されていた伊東経雄先生から、ある日「診療所を引き継いでくれないか」と声をかけていただいたのです。お名前は存じ上げていましたが、お会いしたのはその時が初めて。親子2代にわたり約60年も地域医療を続けてこられ、多くの患者さんに信頼されている方だと感じました。誘ってくださった理由を伺うと「このような時代なのに、地域のために尽くしてくれているから」と仰っていただき、私も期待にお応えしたいと思いました。在宅医療との両立は簡単ではありませんが、患者さんをとても大切にされているのが伝わってきたのと、いただいたご縁を大切にして新しい形の地域医療をつくってみたいという気持ちが募り、お引き受けすることに。89歳の伊東先生には今も週2回診療をしていただいており、その背中から多くの学びを得ています。受け継いだ想いを、私なりの方法で在宅医療や地域医療にも生かしていきます。
クリニックの強みを教えてください。
在宅医療がメインですが、内科外来も併設していることです。この体制の強みは、患者さんが体力的に通院が厳しくなっても、在宅医療に切り替えることで、人生の最期までお付き合いさせていただける点にあります。ご高齢者が多いこの地域において、一貫した医療提供は安心感につながると思います。通院が困難になり訪問診療へ移行されたり、反対に在宅医療から通院へ復帰する場合にも対応しています。外来診療と在宅医療を柔軟に行き来できることで、患者さんの状態に応じたサポートが可能になります。また、在宅医療と聞いて、気にはなっているけれど「今じゃない」と思っている方が多い。このような方とまずは外来で接点を持ち、自然な流れで在宅医療に移行するような道筋もつくりたいと思っています。
在宅医療の道に進まれた経緯について伺います。

治らない病気とともに生きていかなければならない患者さんに、医師としてできることを考えました。在宅医療に取り組んでみると、私のやりたかったことや価値観とぴったり合ったのです。その魅力は、安心できる自宅にいながら適切な診療を受けられること。ご家族や支援してくれる人たちとの温かい交流や、普段どおりの食事、なじみある布団での睡眠。入院では難しいことばかりです。また、24時間365日対応しているので、症状やトラブルが出た時のご家族の安心感にもつながります。かかりつけ医として、診療だけではなく、自宅で治療を続けるためのサポートなど、さまざまな相談ができる場になる。そんな魅力を感じ、この道での開業に至りました。
血液内科で培った経験を在宅医療に投入
在宅医療への想いがお強いですね。

在宅医療は、制度の存在がまだまだ知られていません。ご自宅にさまざまな職種の方が来るので、ぜいたくな医療と思われる方もいらっしゃいます。でも実は逆で病院よりもコストはかからず、結果的に社会への負担も軽くなります。しかし「通院か入院か、施設に入るか」の選択肢しかなくて、家にいられる可能性を考えることなく入院や施設を選んでしまうことも少なくありません。また、昔と違って今はさまざまな介護サービスが充実していることを知らない方も多く見えます。そこで多職種の方々と協力して在宅医療を一般化することで、この地域でも「家」が選択肢になることを知ってもらいたい。興味のある医師は多いと感じていますので、一緒に在宅医療を広めてくれる仲間が増えることを期待しています。
血液内科からの転向に葛藤はありませんでしたか?
血液内科では年単位で患者さんと付き合うことになり、関係も密接になっていきます。ただ、治療がうまく進まないとき、患者さんをケアする社会的システムがあまり十分ではないのです。白血病患者の長期生存率は約半数。出会った方の半分を失うのですが、何もしてあげられないと感じるようになって……。ある患者さんに「病院のご飯はまずい。自分のつくった米ならうまいのに」と言われたことがあります。しかし気持ちはわかっても、感染症や輸血の問題があって家には帰せません。在宅医療があったら幾分かの時間は家で過ごし、ご自分で育てたお米も食べられるかもしれない。そのような思いがきっかけとなって在宅医療の道を選びました。
血液内科でのご経験が生きているのでは?

白血病の治療、骨髄移植は専門性の高い分野で、抗がん剤や放射線治療など、患者さんのダメージが大きい治療も多く経験してきました。そこから患者さんを回復させていくために全身管理をやってきましたので、その知識や経験が在宅医療にも役立っています。血液疾患の性質上、患者さんやご家族と長くお付き合いをしながらいろいろ話し合ってきましたので、在宅医療でもこれまでに受けてきた治療を踏まえた上で、これからどのように過ごしていくかを一緒に考えしっかりと相談しながら患者さんやご家族に寄り添っていきたいと思っています。
深い哲学と死生観を持って人間を探求する
普段心がけていることはありますか?

家族が大きな病気になった時、先生や看護師さんたちにお世話になりました。困った時に受ける親切は、とてもありがたいものですので、悩みを抱える患者さんには親身に対応したいです。それが自分の受けた親切への恩返しになると思っています。また、患者さんとご家族を地域の多職種と「つなぐ」ことを大切にしています。患者さんには、皆とつながっている安心感を家で暮らす原動力にしてもらえるようサポートしていきたいですね。私自身はドライブしながら患者さんの所に行って、いろいろな話をして、いろいろな人生にふれて帰ってくる。24時間365日の側面はありますが、実は夜間や休日の往診の時こそ患者さんやご家族との距離が縮まる絶好の機会なのです。ある意味楽しんでいるので、オンとオフの切り替えは難しくないですね。
ご家庭に介入するので神経を使うのでは?
患者さんを深く観察するのが好きで、人となり、人の背景に興味があるのです。おそらく血液内科で患者さんと長く接するうちに身についたのでしょう。だから気苦労はありません。むしろ患者さんがどのような人生を送ってきたのか、一端を知ることができて興味深いですし、ご家族が安心できる方法も考えることができます。私たちは看取りまでの時間をともに過ごしますが、わずかな時間にもそれまでの人生が反映されます。人は急に行動を変えられませんが、それが看取り前には色濃く表れます。俳優がいろんな人生を演じることで何かを理解できるように、私もいろんな人生を診ることで得られるものがあると思っています。
今後の課題を教えてください。

地域に在宅医療を根づかせることに尽きます。今でも、在宅医療は「いつかは必要になるかもしれないが、今は関係ない」と漠然と捉えている方が多く、まだまだ周知が足りていないというのが現状です。これまでの5年間で、行政や地域の方々とのつながりができてきましたが、講演会などの啓発活動もより積極的に続けていく必要があると感じています。最終的には、看取りを含め人生のしまい方に向き合える社会になるといいなと思っています。現代の日本人は死を過剰に遠ざけ、その準備をネガティブに捉えがちですが、本当はもっと考えなければいけないのではないかと……。死は誰しも避けられず、死を遠ざけ深く考えないで済ますのは、生き方も深く考えないことにつながる気がします。「人は生きてきたように死ぬ」と言われますが、看取りを考えることは、人生そのものを考えるきっかけになります。そのような意識の変化が生まれるように貢献していきたいですね。