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安川 十郎 院長の独自取材記事

安川クリニック

(大東市/住道駅)

最終更新日:2026/06/11

安川十郎院長 安川クリニック main

大東市内で2020年に開院した「安川クリニック」。地域のかかりつけ医として外来やリハビリテーションなどの一般診療に対応する一方、高齢者を中心に在宅での看取りまで見据えた訪問診療を行う診療所として、訪問看護ステーションや他院からの紹介にも応じている。自身の仕事を「趣味です」と飾らない笑顔で語るのは、安川十郎院長。奈良県立医科大学で多くの外科手術を担当し、患者やその家族と関わってきた経験から、「できる治療はすべてする」以外の選択肢、むしろ反対に「本人が望む治療以外はしない」という選択肢があってもいいのではないか、そんな思いを「ミニマルケア」として実践するために開業。ミニマルケアとは何か、安川院長にじっくりと聞いた。

(取材日2022年3月4日/再取材日2026年4月27日)

患者自らが治療を選択できることを大切に

まずは治療方針について教えてください。

安川十郎院長 安川クリニック1

当院では「ミニマルケア」、つまり「最小限医療」という選択肢を提示したいと考えています。ミニマルケアとは「minimal medical care」のことで、「ミニマム(最低限)」ではなく「ミニマル(必要最小限)」です。世の中には、医師が勧めるから、あるいは病気は治すべきだからと、自分で望んだものではない治療を受けている方もいます。「ミニマルケア」の基本は、本人の選択した治療を提供していくこと。これは「本人が望まない治療はしない」と言い換えられます。望まない治療を受け続けることで、かえってつらい思いをする患者さんも診てきました。ですから、とくに訪問診療では、本当に患者さんや家族の希望する治療は何なのかを相談しながら、自宅での看取りまで行っています。

ミニマルケアとは具体的に、どのようなものですか?

まずは患者さんの状態を詳しく調べた上で治療法を提案し、患者さんが本当に望むものを選んでもらいます。「ミニマル」と聞くと、十分な治療をしてもらえないのではないかと心配されるかもしれませんが、希望があればできる限りの治療を行うことも、もちろん可能です。治療を受けるのは他でもなく患者さん自身ですから、自分で選択できることが重要です。たとえ医学的に正しいことであっても、それが人生において正しいとは限りません。例えば血圧や血糖値が高い方であっても、治療した場合と放置した場合のメリット・デメリットを説明した上で、患者さんが望まないのであれば積極的な治療はしません。自分にとって何が幸せかを決められるのは本人だけです。

中には選択が困難な人もいると思いますが、その場合はどうされていますか?

安川十郎院長 安川クリニック2

「本人が望む治療以外はしない」がミニマルケアの基本です。しかし、認知症などで本人の意思確認が難しい場合、家族に判断が委ねられることもあります。その際に、「できることはしてあげたい」「長生きしてほしい」という思いから、できる限りの積極的な治療を希望される場合もあるでしょう。しかしここで確認しておきたいのは、治療をしないという選択は決して「見捨てる」ことではないということです。安易に選んでしまった積極的な治療が、本人や家族を苦しめてしまうこともあります。患者さんが本当に望んでいることは何か、家族がしてあげられることは何か、真剣に話し合う必要があります。安川クリニックでは、そのお手伝いをしたいと考えています。

患者と一緒に考える医療をめざして

なぜミニマルケアという考え方に至ったのですか?

安川十郎院長 安川クリニック3

大学病院の外科医だった頃、多くの患者さんの最期に立ち会い、葛藤し続けてきたことが根底にあります。高齢の悪性リンパ腫の患者さんは、入院して抗がん剤治療を続け、そのまま病院で亡くなりました。脳梗塞で意識がないまま胃ろうをつくった患者さんも、2年間家族が看病したものの、一度も目覚めることなく亡くなりました。こうした経験から自宅で過ごす時間を大切にしたり、自然な流れで看取る選択肢もあったのではないかと考えるようになりました。そして治療を決める過程で、患者さんや家族に選択の機会がきちんとあったか疑問を感じるようにもなりました。ですから、ミニマルケアでは病気を治すことだけにこだわるのではなく、患者さんが納得できる医療の提供を重視しています。医療の本質的な目的は、患者さんの心身の苦痛を和らげることだと考えています。治療は目的ではなくあくまで手段であり、患者さんの幸せを損なっては本末転倒だと考えています。

どのような悩みで来られる患者さんが多いですか?

内科を中心に診療していますので、発熱や咳といった風邪症状をはじめ、腹痛、胸痛、頭痛といった体の痛み、めまいや立ちくらみ、動悸や食欲不振といった症状で来られる方が多いですね。健康診断で異常や再検査を指摘された方も来られます。訪問診療のご相談も少なくありません。また予防接種や理学療法も行っています。私としては、患者さん一人ひとりの診察時間をもう少し増やしたいと思っているのですが、待ち時間のことも考えるとなかなか難しい。開業してしばらくたっても、ずっとジレンマを抱えています。

生活習慣病について、こちらで取り組まれていることはありますか?

安川十郎院長 安川クリニック4

生活習慣病は、自覚症状が現れにくい病気の代表です。生活習慣病は、その病名からわかるように、生活習慣の改善が必要不可欠です。しかし、「頭ではわかっていてもやめられない」「改めようと思っても長続きしない」そういった方は少なくないでしょう。生活習慣病の治療は、どうしても患者さんの意識と継続力が重要になってきます。「生活習慣病を治したいけど、自分だけだとうまくいかない」そういった方のモチベーションアップや意識改革のお手伝いをしています。私ができるのは「お手伝い」までです。生活習慣病は医師が治せる病気ではありません。患者さんと一緒に考え、一緒に健康の道を歩んでいけるような存在になれたらいいですね。

長生き=幸せとは限らない? 患者の幸せとは何か

超高齢社会で注目すべき事案はありますか?

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日本の平均寿命(0歳時平均余命)は世界的にも上位です。しかし、「平均寿命」と、日常が制限なく送れる「健康寿命」との差に関しては10歳近くあり、世界的には下位となります。2つの寿命の差が大きいことが直ちに良くないと決めつけることはできませんが、健康寿命後の人生が長い要因の一つは、画一的に行われる延命治療ではないかと考えています。望まれない延命によって、本人も家族も不幸になってしまう、その可能性を考えると、単純に日本は平均寿命が長いと喜べません。望まれない延命処置を減らすことによって、平均寿命が下がっても構わない、とすら考えています。

簡単には結論できない難しいテーマですね。

あくまで一つの考え方としてお伝えしたわけですが、看取りに関しては患者さんでなく、家族から「どうしたら良いかわからない」と相談を受けることが大半です。社会的にも看取りに対する法整備がまだできていない中で、私たちもどうサポートしていくか、体制を整えていく必要があるでしょう。いざという時に家族が「どうしたら良いかわからない」と悩まないために、一番大切なのは、日頃から家族でしっかりとコミュニケーションを取り、自分の受けたい治療、受けたくない治療を伝え、信頼できる医療機関を見つけておくことではないでしょうか。これまで多くの患者さんを診療してきて感じることは、「長生き」で幸せを得られても、「延命」で幸せになるとは限らない、ということです。無理な治療による延命はかえって苦しみを生み、家族も疲れ果ててしまうことがあります。人はただ長生きすれば良いわけではない、と思うのです。

最後に、読者へ向けたメッセージをお願いします。

安川十郎院長 安川クリニック6

誤解しないでいただきたいのは、ミニマルケアはあくまで選択肢の一つであり、皆がそうすべきと主張しているわけではありません。ただ、治療は義務ではないので、自分の意思を尊重してもらい、最小限の治療だけを受ける自由があっても良いのではないかと思うのです。私が提供したいのは、患者さんが望む医療だけであって、望まない治療はその限りではありません。中には「治療法は先生にお任せします」と丸投げする方もいますが、ご自身の人生ですので、どうぞよく考えていただきたいのです。「そんなこと言われても。自分の受ける治療は自分で決めたいけど、でも何をしたらいいのかよくわからない」。そんな時には、遠慮なくご相談ください。