松田 諭 院長の独自取材記事
ファミリークリニックさっぽろ山鼻
(札幌市中央区/東屯田通駅)
最終更新日:2021/10/12
札幌市電山鼻線の東屯田通駅から徒歩3分。電車通り沿いのテナント1階に2020年4月開業した「ファミリークリニックさっぽろ山鼻」は、小さい子どもから最期の看取りまで診療科を問わずに診る家庭医療・総合診療を専門としたクリニックだ。臓器別の診療に疑問を感じ、その人全体を診る家庭医療・総合診療を志した松田諭院長は、外来では内科・小児科をはじめ、物忘れ相談や介護相談、メンタルヘルス、スポーツコンディションの相談まで幅広く診療し、訪問診療では末期がんの患者や外来に通えない高齢者に寄り添う。「ひとをうやまい、まちをはぐくむ」をモットーに、誰も置き去りにしない地域をめざす松田院長。「どんな症状でも断ることはしない」という家庭医療や地域医療にかける思いを聞いた。
(取材日2021年3月24日)
長く身近にいて、地域の人のすべてに関わる家庭医療を
開業にあたり、この場所を選んだ理由は?
勤務していた病院で、この辺りでも訪問診療をしていました。この辺りは昔から住んでいる方も多く、文教地区といわれています。一方で格差も大きく医療サービスが十分に届いていない、埋もれている患者さんがすごく多いと感じました。そういう方たちに対してケアをしていきたいなと思ったのが、ここで開業した理由です。開業してちょうど1年になりますが、山鼻を盛り上げようという若い方にお会いする機会も多く、地域に対する熱い思いを感じています。そういう方々と一緒に、地域を盛り上げていくような活動ができればいいなと思っています。
家庭医療・総合診療についてご説明いただけますか。
一言で言うと、「長く身近にいて、すべてに関わる」医療のことです。その地域に住んでいる方を小さい頃から在宅での看取りまでずっと診ていくという、昔ながらの町医者のイメージでしょうか。現在は臓器別に考える医療が中心となっていますが、「家庭医療・総合診療」は診療科にとらわれず、基本的には子どもからお年寄りまで、その地域に住んでいる人の健康問題すべてに対応します。そして単に診療を行うだけでなく、一緒に地域のお祭りを楽しむといったことも含めて、ずっとその地域で皆さんの健康問題に関わっていきます。
先生が得意としていらっしゃる診療などはありますか?
家庭医療は「その症状は、ここでは診ません」ということがないのが特徴です。診療科を問わず何でも診ており、ちょっとした外科の手術や、スポーツ活動でのけがにまつわる整形外科的な応急処置、メンタルヘルスの診療などにも対応します。訪問診療では痛みのコントロールや注射を用いた治療も行っています。
どのような患者さんが多くいらっしゃいますか?
訪問診療は認知症や歩けなくなった高齢の方、末期がんの方、神経難病の方が多いです。外来については、実は看板を先週やっと掲げたばかりですので、まだ地域に浸透していないかもしれません。今のところ、やはり生活習慣病の方、そして不登校の相談が多いように思います。「どの診療科に行けばいいのかわからない」といった、行き場に困った方が来院されている印象です。
その人の価値観を大事にしながら、ともに考え寄り添う
診療の際に気をつけていらっしゃることはありますか?
その人としてちゃんと理解することです。表面的なことだけでなく、その方を取り巻く背景やその方自身の価値観を大事にしています。さらに、こちら側がじわじわと熱を与えて、その人自身が光っていくのを待つというか、可能性を開いていくようなコミュニケーションを心がけています。例えば、禁煙を勧める時も単に「禁煙しましょう」ではなく、「野球観戦の時に息が苦しくなったのですね。じゃあ、趣味を続けるために禁煙しましょうね」など、その方の価値観に合わせた伝え方をしています。アドバイスではなく、その方自身が大切にしていることや強みに気づいて、自分で行動を変えられるように、ともに考えるという感じですね。
待合室なども病院らしくない雰囲気で、先生のこだわりを感じます。
当院は「ひとをうやまい、まちをはぐくむ」を理念とし、家庭医療を通じて人々が安心して生活し成長できる地域社会をつくることをめざしています。医療機関というと「患者に何かをしてあげる場所」ですが、患者さんともフラットな関係で一緒に話し合いができる場所にしたかったのです。ですから待合室などもオープンな雰囲気にしようと思いました。外来診療をしていない時間帯は、クリニックを地域の方に開放して、自由にふらっと来てお茶を飲んでいったり、子どもたちが宿題をしていったり、そんなフリーな場にしたいと考えています。
印象に残る患者さんとのエピソードがあれば教えていただけますか?
以前に勤務していた病院で、小さいお子さんがいるお母さんを診ていました。最初はお母さんを診ていただけだったのですが、子どもたちもだんだんなついてくれて、将来の夢なども話してくれるようになりました。そのお子さんが成長して人間関係の悩みから不登校になった時に「昔から診てもらっているから」と受診してくれました。誰にも心を開けなかったそうですが、カウンセリングを続けるうちに不登校の解消につながったということがありました。私にとっても、長く関わることの重要性をすごく実感した経験でした。
看取りをされる在宅医療ではなおさら、患者さんとの関わりは深いのではないでしょうか。
印象的だったのは、以前担当した50代の女性です。がんの脳転移がわかり、主治医から「これ以上治療できない」と言われて、末期の状態で紹介されて診させていただきました。ご両親と3人暮らしでしたが、お母さんが娘さんの状態を受け入れられず、娘さんも「心配させたくないから母と一緒にいたくない」という状態で訪問診療を開始しました。義理の妹さんと私が間に入り、病状を受け入れながら一緒に過ごすように促していったところ、お母さんもだんだん娘さんを看病するようになり、家族で楽しく会話できる時間も持てたそうです。亡くなる直前一瞬意識が戻り、家族を集め一人ひとりにお礼を述べられたのが最期の言葉となりました。お看取りの際、お母さんから「最後は娘と正直な気持ちで向き合えた」と涙ながらに感謝の言葉を頂きました。
子どもたちの将来のため、地域を支える医療に尽力
先生が家庭医療・総合診療を専門に選んだきっかけを教えてください。
父親が医師だったというだけで、医学部には深く考えずに入りました。ただ、大学に入ってから将来どんな医療をしたいのか、何を専門とするかについて、とても悩みました。臓器別に考える医療を勉強すればするほど、専門が細分化されていることで、なかなか適切な医療にたどり着けない患者さんがいることに疑問を感じ、ずっとモヤモヤしていました。そんな時、北海道家庭医療学センターの説明会で「家庭医療・総合診療」という専門領域があることを知り「これが自分のやりたかったことだ」と衝撃を受けました。私は出身が仙台、大学は東京で、北海道とは縁もゆかりもなかったのですが、当時は家庭医療を学べる場所がほとんどなく思い切って北海道に来ました。来てみると家庭医療に熱い思いを持った先輩、同僚がたくさんいて、こういう環境に身を置いて学んでいきたいと思いました。
お忙しいと思いますが、休日はどのように過ごされていますか?
子どもが今、2歳、4歳、6歳なので一緒に過ごすのが楽しいです。一緒にスキーに行ったり、夏はキャンピングカーで出かけて外でご飯を食べたりしています。健康のためには精神的なストレスをためないこと、よく眠ることを大事にしています。
最後に今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
1年目は新型コロナウイルス感染症流行の影響もあって訪問診療が多く、そこは地域に周知されてきたと思うので、今後は外来のほうにも力を入れていきたいと考えています。外来にかかる前のリスクのある方にアプローチするような活動にも取り組んでいきたいです。オープンなスペースで何かイベントを開催するのか、ITを使って何かやるのか。まだまだこれからですが、地域の保健師さんなどからいろいろな声かけは頂くので、「まちをはぐくむ」活動も徐々に広げていきたいですね。子どもたちの将来のために地域医療に貢献する家庭医療を広げていくと、日本の医療の問題の多くは解決できると思っています。家庭医療を専門にする医師はまだ少ないですが、各地域にそれぞれいるはずなので、ぜひ探してみてください。子どもの健診から看取りまで何か困ったことがあればお気軽にご相談いただければと思います。