伊藤 太一 院長の独自取材記事
たいちこどもクリニック
(吹田市/千里丘駅)
最終更新日:2024/09/12

JR京都線の千里丘駅から徒歩10分、摂津市に近い吹田市長野地域で2020年5月から診療を開始した「たいちこどもクリニック」。院長の伊藤太一先生は、新生児集中治療やアレルギー診療、大学院での研究やアメリカ留学などさまざま
な経験を積んできた。高校までを過ごした地元に戻り、一次医療機関として幅広く地域の子どもたちを診ていきたいと同院を開業。訴えが増加しているアレルギー疾患、誤解と不安が起こりやすい予防接種や感染症など、親にはわかりやすく丁寧に説明し、子どもの気持ちを尊重しながら診療にあたっているという伊藤先生に、さまざまな話を聞いた。
(取材日2023年3月15日/更新日2024年7月30日)
初志貫徹がかなわなくとも、得られるものはある
医師の仕事を志した理由を教えてください。

親が歯科医師で厳しい人だったので、僕も歯科医師以外の選択肢はないと思っていました。ところが、ある方から「医学部も受けてみればいいんじゃない?」と言われて、その勢いで受験したら合格したのが関西医科大学でした。進路について悩んでいた時期もありましたが、その時に解決に導いてくれたのが公衆衛生学の先生でした。「いろいろな病院に行ってみて、どういう仕事ならできそうか、具体的に見てみるのが良いのではないか」とアドバイスをくれたんです。そのアドバイスを受けて、この時は関東の病院にも足を延ばしたんですよ。
さまざまな医療機関で小児科の医師として研鑽を積まれたと伺いました。
医学部6年生の病院見学で、救急医療に力を入れている沖縄の県立病院へ行きました。大学病院の雰囲気がちょっと苦手なのですが、沖縄の県立病院で救急医療の現場を目の当たりにし、診療科にとらわれない幅広い医療を届けることへのやりがいを感じることができました。病院の設立目的も離島医療の充実ということで患者さんとの距離も近いし、沖縄ならではの気風も好きでしたね。医師になったらここで働いてみたいと考えるようになり、最終的に小児科を専門に選びました。そして沖縄で4年、関西で2年働いてから、埼玉県立小児医療センターで働きました。その後は2つの基幹病院で働き、2010年からの2年間はアメリカに渡ってさまざまな経験を積んでいきました。
アメリカに渡ったのはどういう目的だったのでしょうか。

沖縄での勤務時代、指導医にアメリカ帰りの先生がいて、アメリカでの経験の興味深い話を聞かせてもらっていたんです。時々、アメリカから医療コンサルタントが指導に来ることもあり、一度はアメリカに行って学んでみたいと思うようになりました。そして新生児医療について経験を積もうと思い、アメリカへ渡ったのですが、国家試験の最後の実技試験で語学力の不足が補えず、時間切れで諦めました。病院での受付ボランティアや語学学校での勉強など、できることを精いっぱい頑張ったのですが……。アメリカで新生児科の医師になりたいという初志は貫徹できませんでしたが、基本的な診察は英語でできるという副産物は得られました。人生の中で挫折を経験したことは、子どもと向き合う小児科の医師としても、糧になっていると思います。
吹田で開業に至った経緯を教えてください。
吹田は地元で、幼少期は摂津との境あたり、高校生までは千里丘の隣の山田地区で育ったので、この辺りもなじみがある場所なんです。開業前は市立病院と個人クリニックのかけ持ち勤務をしていたのですが、クリニックでは院長として働き、病院でも指導職の正職員として声をかけていただいたタイミングでした。そこで院長職を続けることも考えましたが、専門性を高めるよりも一次医療機関として広く子どもたちを診たいと考えたのが開業の動機です。国内外のいろいろな医療機関で研鑽を続けてきましたが、50歳を境に地元に戻って、地域に貢献したいという思いもありました。
幅広く診る子どものための一次医療機関として
クリニックのコンセプトを教えてください。

地域の大きな病院が混雑してしまい、受診しづらいことも多いと思います。ですから町のクリニックでも専門性を高めるのは良いことですし、必要かと思います。一方で、何かあったときにまず対応でき、幅広く診てくれて相談しやすい一次医療機関も、地域には必要不可欠です。当院のスタンスもまさにそれで、診断結果によっては病院や専門の先生につないでいく役割も担いたいと考えています。
子どものための一次医療機関として、幅広い診療に対応しているのですね。
はい。子どもを総合的に診療する医師として、風邪症状や腹痛といった一般診療から、溶連菌やアデノウイルス、インフルエンザなどさまざまな感染症の診療、食物アレルギー疾患など幅広く診ています。特に新型コロナウイルス流行の当初より発熱者専用の外来を設け、かかりつけ患者以外も受け入れてきました。また、各種乳幼児健診や各種ワクチンの予防接種も実施しています。
アレルギー疾患の相談が増えていると伺いました。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、喘息のほか、最近では花粉関連のアレルギー性鼻炎の相談が増えていますね。アレルギー疾患に関しては、お子さん本人のつらさはもちろん、保護者が不安に感じることも多いと思うので、患者さんと親御さんに対して、丁寧に説明することを心がけています。アレルギー疾患にかかわらず、ご家族やお子さん本人の不安をどれだけ取り除けるか、それが小児科の一番の仕事だと思います。
診療にあたって、どんなことを大切にされていますか?

患者さんの声に耳を傾けることです。保護者にとっては些細なことでもすべて拾って、原因を探っていく。診療にかかる時間もおのずと長くなってしまいますが、検査一つにしても、なぜ必要か、メリットとデメリットは、適切なタイミングは、などお話ししないといけないことがたくさんあります。医学的観点で適切な医療を提供するのがわれわれ医師の役割。保育園や学校から検査を求められて受診しても、診察の結果、検査が不要な場合もあり得ます。小児科の医師は子どもの代弁者じゃないといけないとも思っていて、自分が子どもだったらメリットがない検査をしたいと思うか? など、立ち止まって考え、ご家族と話し合うようにしています。
どんな小さなことでも気軽に相談を
子どもとの接し方で気をつけていることがあれば教えてください。

小学生くらいになればどの子でも自我が確立されてきますが、3歳でも自我はあるんですよ。例えば予防接種など、ものすごく嫌がって泣いて騒ぐ子なら、親御さんだけでなく僕やスタッフも説得します。どうしても嫌がるようなら、一度待合室に戻ってもらい、落ち着いてから診察室に入ってもらったり、いったん帰宅してもらってもいいでしょう。緊急性のある治療以外は、待ってあげていいのです。親御さんに対しては、わからないことがあったり、不安になったりしたら何回でも来てくださいとお伝えするようにしています。親御さんの子育てをサポートして、子ども時代独特の病気や健康管理に慣れてもらうことも、小児科の大切な仕事ですから。
子どもがワクワクするような院内デザインがすてきですね。
友人の設計士に相談に乗ってもらい、子どもにとって居心地の良い空間と医療施設の機能性を両立した空間をつくっていただきました。待合室の内装には本物の木をふんだんに用いた勾配天井で、屋根裏部屋を思わせるような空間を演出。触り心地の良さも重視しています。感染症診察のための隔離室は、水族館にいるようなデザインに。病気で弱った子どもたちのつらさや不安を少しでも払拭できたらいいなと思います。
ところで先生の趣味は何ですか?
趣味とはちょっと違うかもしれませんが、大阪の夏の風物詩「天神祭」で行われる古式ゆかしい儀式「鉾流し神事」において、数年前より縁あって神官と神童を乗せる「斎舟」の船頭を任されるようになりました。毎年5月の終わり頃になると、漕ぎ手と一緒に櫓漕ぎの練習をする日々です。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

子どもの食事で悩んでいる親御さんが多い中、当院では、管理栄養士とともに栄養相談を行っています。当院では離乳食に加え、幼児食・学童食についても対応可能です。乳幼児健診で引っかかったり、食欲がないなどのお悩みがある方からご相談いただくケースが多いですね。今後も、子どものための一次医療機関として当たり前のことを当たり前に実践していきたい。どんな小さなことでも気軽に相談していただけたらと思います。