藤本 純一郎 院長の独自取材記事
藤本じゅんいちろうクリニック
(横浜市中区/伊勢佐木長者町駅)
最終更新日:2026/10/28
ブルーライン伊勢佐木長者町駅の出口を上がると、すぐ目の前にホテルが見える。その1階に「藤本じゅんいちろうクリニック」はある。院長の藤本純一郎先生は、岐阜大学医学部を卒業後、国立成育医療研究センターで約30年にわたり小児がんの研究と診療に従事した経験を持ち、患者のそばで最後の仕事をしたいという思いから2020年に開業。小児科・内科の外来に加え、24時間365日体制の訪問診療を柱に据えている。白を基調に動物の絵が飾られた院内は、藤本先生の穏やかな人柄を映すかのようだ。「病気は貧富の差なく誰にでも襲いかかる」と語る藤本先生に、すべての患者に平等な医療を届けたいという信念と、医療的ケア児を地域で支える体制づくりへの展望を聞いた。
(取材日2026年9月18日)
小児がん研究30年を経て、患者のそばに立つ道へ
まずは、先生のこれまでの歩みについてお聞かせください。

小学5年生の時、旅行先で急性腎炎を発症して約3ヵ月入院したことがあります。その時「医者になりたい」と口にしたそうです。正直なところ、自分ではまったく覚えていなくて。高校3年生になって親からその話を聞き、それがきっかけとなって医学の道へ進みました。1977年に岐阜大学医学部を卒業した後、小児科の臨床研修中に小児がんの患者さんと出会いました。小児がんという病気の重大さを目の当たりにして「なんとかしなければ」と思い、研究の世界に飛び込みました。以来、国立小児病院と国立成育医療研究センターで約30年、小児がんの研究と診療に携わりながら、全国どこにいても共通の基準で診断を公平に受けられるよう仕組みをつくりました。その体制を後輩たちに託し、最後は患者さんのそばで力になりたいという思いから開業を決めたんです。
この場所にクリニックを開かれた理由を教えてください。
横浜のブルーライン沿いで開業したいと思い、場所を探していました。そんなとき、伊勢佐木長者町駅のすぐそばにあるホテルの1階が空いていると聞いて見に行ったところ、利便性もスペースも申し分なかったので、こちらに決めました。当院は外来に加え、訪問診療をメインに行っています。24時間365日対応できる体制を整えていまして、クリニックへのお電話は私のスマートフォンに自動で転送される仕組みです。相談の内容によってはすぐにお宅へ伺うこともあります。休日や夜間であっても、いつでも相談できる場所でありたいと考えています。
どのような患者さんが来院されていますか?

中区を中心に、南区や西区、神奈川区、保土ケ谷区あたりから来られる方が多いですね。「横浜」というと、みなとみらいのイメージがあるかと思いますが、この辺りは落ち着いた街並みで、たくさんの方が暮らしている生活の町なんです。お子さまの診察を主に行っていますが、診るのはお子さまだけでありません。ご家族の不安にも目を向けることを大切にしています。連休前であれば先を見越して症状の見極め方をお話ししたり、心配な場合にはあらかじめ紹介状を準備したりと、安心して過ごしていただけるよう努めています。土地柄、外国籍の方も多いので、さまざまな国のお子さまやそのご家族も来院されています。お子さまの病気は国籍によって変わるものではありませんが、食生活の違いには配慮しています。おなかを壊したときの食事の取り方や、「熱が何日以上続いたら受診すべきか」といった目安について、丁寧にお伝えするようにしています。
国籍も年齢も問わず、すべての患者に平等な医療を
訪問診療を通じて、特に届けたい医療はどのようなものですか?

私が一番力を入れたいのは、医療的ケアが必要なお子様への訪問診療です。子ども専門の大きな病院の周りには、生まれた時からケアを必要とされるお子さまがたくさん暮らしていらっしゃいますが、風邪をひくたびに大規模病院まで通うのはご家族にとって大きな負担になります。日常的にケアできる身近な医療機関が必要だと、ずっと感じてきました。しかし現状として、小児科の先生は訪問診療という形に慣れていないことが多く、内科の先生はお子さまの扱いに不慣れなことも少なくありません。それなら、その両方をある程度カバーできる自分がその役割を担えるのではないか、と考えたんです。国立成育医療研究センター時代に患者さんやご家族の会と交流する中で、支援体制の大切さを痛感した経験が、この思いの原点になっています。
そうしたお子さんが成長する過程で、課題に感じていることはありますか?
大きな課題の一つとして、年齢の壁があげられます。各地の子ども病院や子ども医療センターには、18歳までの年齢制限が設けられています。18歳を超えると内科へ移ることになりますが、そうすると体制がガラッと変わりますし、受け入れてくれる場所も極めて限られてくるんです。この移行期医療をどのように乗り越えるかという問題は、私が国立成育医療研究センターにいた頃から小児科全体で共有されていた課題でした。診断や治療の方法が大きく進歩し、お子さまたちの生活の質も向上してきていますが、この年齢の壁だけはいまだ残されたままなんです。小児科と内科の両方を診ることができる立場だからこそ、年齢で途切れることのない支援体制をつくっていきたい。それも、開業を決めた大きな理由の一つです。
診療の中で大切にされていることを教えてください。

平等であること。それに尽きると思っています。病気は貧富の差なく誰にでも襲いかかるものです。だからこそ、国籍や経済的な背景に関係なく、すべての方を受け入れるのが私のスタンスです。大学病院にいた頃から、患者さんのために仕事をすることが医師の使命だと、ずっと考えてきました。研究をしていた頃も、フェアな形で私利私欲なく向き合うことを大切にしていましたし、その姿勢は開業した今も変わりません。どんなバックグラウンドをお持ちの方であっても、目の前の患者さん一人ひとりに真摯に寄り添う。私にとってはそれが当たり前のことなんです。
訪問看護との連携で、「みんなで見守る」体制を構築
患者さんのご家族に対して、心がけていることはありますか?

私一人ではなく、訪問看護の方たちと連携してお子さまやご家族を見守る体制を整えています。心配なことがあればまず看護師さんに相談していただき、その報告を受けて私が判断し、必要であればすぐに駆けつけます。「みんなで見守っているから心配しなくて大丈夫」と、いつもお伝えしているんです。それから、ご家族の負担にもしっかり目を向けたいと思っています。医療的ケアが必要なお子さまのいるご家庭では、特にお母さんが本当に疲弊されていることが少なくありません。ご自身も体調を崩しながら、手を休めるわけにはいかないと、気力だけで頑張っておられる方もいます。お子さまの健康を支えるのと同じくらい、そのそばにいるご家族のことも大切に考えていきたいですね。
今後、実現したい取り組みについてお聞かせください。
医療的ケアが必要なお子さまたちのための体制づくり、いわば「横浜モデル」と呼べるような仕組みをつくりたいと思っています。その一つがレスパイト入院です。ケアに疲れたご家族が少し休めるよう、お子さまを一時的にお預かりする仕組みのことですね。こうした支援体制があることで、ご家族の心身の支えになると考えています。すでに、お子さまを日中預けて親御さんが仕事に行けるデイケア施設もあり、そうした先行的な取り組みを参考にしていきたいと考えています。国立成育医療研究センター時代に全国規模の仕組みを築いた経験もありますので、同じように横浜から仕組みの入り口をつくれないかなと。一人の力では限界がありますから、周囲と連携しながら少しずつ進めていきたいですね。
最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いいたします。

ホームページにも書いているのですが、「必ず笑顔で接して、そっと肩に触れる」ということを大切にしています。まずは、「大丈夫だよ」と声をかけることですね。いつでも心配なことがあれば、気軽に相談に来てください。国籍は関係ありませんし、言葉が不自由でも心配はいりません。お子さまの病気は日本の方も外国の方もまったく変わりませんから、どなたにも同じ気持ちで向き合います。安心して来ていただいて、安心した気持ちで帰っていただける。当院がそういう場所であり続けることが、私の願いです。長年、研究に取り組んできましたが、自分にまだやれることがある限り、目の前の患者さんとご家族のそばで、できることを一つ一つ積み重ねていきたいと思っています。

