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南 辰也 院長の独自取材記事

しおかぜメモリークリニック

(神戸市中央区/神戸駅)

最終更新日:2024/01/12

南辰也院長 しおかぜメモリークリニック main

JR神戸線の神戸駅から徒歩3分の場所にある認知症の治療を専門とする「しおかぜメモリークリニック」。青、白、木目の配色がお洒落な院内は、まるでカフェかアート工房のような雰囲気だ。「医療機関に行くという心理的なハードルを下げたくて、名前も内装もクリニックらしくない感じにしました」と、院長の南辰也先生は話す。同院がめざすのは、みんなが幸せになれる医療の提供。患者本人はもちろん、家族の心身的負担も軽くするために、訪問診療や夜10時までの夜間診療、デイケアの運営まで行っており、訪問看護や介護の事業者とも連携して多角的に状況改善へのアプローチを図っている。新しい認知症医療の形を追求する南先生に、その想いをたっぷりと聞いた。

(取材日2020年12月16日)

人を大切にする医療を実践

クリニックのデザインがすてきで、まるでカフェのようですね。

南辰也院長 しおかぜメモリークリニック1

いかにも医療機関っぽい外観だと患者さんが身構えてしまうと思って、爽やかな雰囲気にこだわったんです。青、白、木目でカラーを統一して、そこからインスピレーションを得て「しおかぜメモリー」という院名にしました。私はそれこそ南あわじ市で潮風を浴びながら育ったので、こういう雰囲気に親しみを感じるんでしょうね(笑)。患者さんの中には「ここに来るのが待ち遠しい」と言ってくださる人もいるので、居心地の良さを実感していただけているのかなと思います。

認知症に特化したクリニックということですが?

そうです。私は精神科を専門としているのですが、学生時代に認知症の人と接する機会がありそれをきっかけに、認知症の診療に携わろうと決めました。昨年までは神戸百年記念病院の認知症疾患医療センターにいたのですが、実は病院でできる診療には限りがありまして。診断をつけることがメインで、その後の治療にはなかなか携われないんですよ。いち臨床医として治療にもっと関わりたいという思いがあったので、病院とは別の機能を持つクリニックをつくろうと考えました。開業当初は外来を中心とするつもりだったのですが、実際のところ訪問診療の需要が多かったので、今は9割が訪問診療になっています。当院から16キロ圏内は訪問可能ですから、主に兵庫区や長田区の方々にご利用いただいていますね。またご家族が仕事帰りに患者さんを連れて来られるように、外来は夜10時まで開けていますし、緊急の場合は24時間、電話がつながるようにもしています。

なぜ精神科を専門とされたのですか?

南辰也院長 しおかぜメモリークリニック2

病気というよりも、人そのものに興味があったからです。いろんな人のいろんな考えを知りたいし、その過程でつらくなった人を助けたいと思ったので精神科を選びました。とはいえ、体の病気のこともしっかりと習得しておく必要性を感じていたので、卒業後の研修中は救急医療ばかりやっていましたね。心臓が止まって運ばれて来る人、重症の肺炎の患者さんなどをたくさん診て、その後も非常勤で救急科に勤めていました。その頃の経験は、開業してからも大いに役立っています。患者さんは高齢の方が多いので、認知症の治療をしながら内科の疾患を診ることも多いんです。逆に内科疾患が悪化して精神科の治療が必要になったりすることもあるんですよ。やはりトータルで見ることが大事ですね。

みんなを幸せにする医療をめざす

訪問診療において心がけていることは?

南辰也院長 しおかぜメモリークリニック3

一番気をつけているのは、ご本人やご家族みんなが幸せになる方法を考えることです。例えば過去にあった例では、日中、ご家族が留守の間に患者さんが1人で家にいるのが心配で、デイケアを利用したいと希望されていたことがありました。ですが、ご本人は行きたくないとおっしゃるんです。それではみんなが幸せになることはできませんよね。そこでご本人になぜ行きたくないのかと聞くと、「人と話すのは好きだけど、大勢の中にいるのが嫌だ」、と。それならばと、訪問看護を入れることを提案したら、皆さんが納得してくださいました。このように、まず患者さんや家族がどのような気持ちを持っているのかを知ることが大切だと思っていて、そのためには患者さんのバックグラウンドを知るところから治療が始まると考えています。これが私が考える全人的な医療です。

患者さんはどのようなきっかけで受診されることが多いですか?

外来の場合は物忘れの相談が多いですね。でも認知症の症状は他にもいろいろあります。抑うつ症状が出ている、ずっと引きこもっている、よく暴れるようになったなど、周辺症状と呼ばれる症状もあって、それで心身的な負担を受けるのはご家族です。どう対応していいのか悩む方も多いかと思いますが、病状が進むほどご本人は病気の認識がなくなってしまうので、ご家族からの情報は非常に大切です。当院は初診でいきなり訪問診療することも可能ですし、ご希望があればあえて白衣を着ずに訪問してご様子をうかがったりもしています。おかしいなと思われたら、早い段階ほどいろいろな対策が取りやすいので、迷わずご相談いただきたいですね。

早期に適切な対応をするために、取り組んでいることはありますか?

南辰也院長 しおかぜメモリークリニック4

大事なのは訪問看護の方やケアマネジャー、介護士さんたちとの連携です。私が専門的に診られるのは医療的側面だけですが、患者さんが安心して暮らすには介護や日常生活をどうするかなど、別の要素も重要だからです。ですからさまざまな専門家の方と密に相談し合っています。私はまだまだ年齢は若いので皆さんからいろいろ教えていただける機会も多く、成長できる環境にあるのがありがたいですね。それから、当院のスタッフにも患者さんや家族がどうすれば幸せになるかを一緒に考えてもらっています。みんな頑張ってくれているので、患者さんの満足度は高いという自負がありますよ。患者さんは人生の大先輩ですから、お話しすることで学ぶことがたくさんありますし、そうやって私やスタッフの人生も豊かになっていくように感じています。

高齢者の社会参加を促進

デイケアも始められたと伺いました。

南辰也院長 しおかぜメモリークリニック5

認知症になると引きこもりがちになる人が少なくないので、社会参加できる場をつくりたいと開業当初から考えていました。認知症の人が通う施設というとデイサービスもありますが、中には病気の自覚がなくて参加したがらない方もいらっしゃいます。そこで当院のデイケアは治療的側面を強くして、看護師、作業療法士、精神保健福祉士などの有資格者による心理療法を行うようにしました。医療保険が適用されるので、介護保険では足りない部分を補う役割もあります。時間は9時から15時まで。通いたい日に来ていただけるようにしています。実は以前、予約していない日に自力で歩いて来られた患者さんもいらっしゃったんです。急に行きたくなったんでしょうね。いつも送迎している道を必死に思い出して来てくださいました。もちろん「よく来てくださいましたね」と歓迎して、帰りはお送りしましたよ。ぜひもっと多くの方にご利用いただきたいです。

今後の展望についてお聞かせください。

認知症の予防・治療においては人と話すこと、社会と関わることがとても大切です。そこで今後は高齢の方が働ける就労継続支援B型事業所をつくりたいと計画しています。障害者向けのサービスはあっても、高齢者向けはあまり見かけないので活躍できる場を提供したいのです。実際、高齢の患者さんで「働きたい」とおっしゃる方は多いので、ぜひ実現したいと考えています。

休日のリフレッシュ法と、お勧めの認知症予防法を教えてください。

南辰也院長 しおかぜメモリークリニック6

当院と提携して療養に使わせていただいている温泉施設があるので、そこで自分もゆっくりお湯につかるのが何よりの楽しみですね。認知症の予防法としては、若いうちからいろいろなコミュニティーをつくっておくことをお勧めしたいです。やはり人との関わりが一番大事です。あとは、元気に活動するために生活習慣病に気をつけること、バランスの良い食生活を心がけることでしょうか。

読者へメッセージをお願いします。

認知症になった祖母が施設に入所するまで、祖父は祖母と一緒に住んでいたのですが、症状が進むにつれて外出を避けるようになり、世間から取り残されている感じがしていました。このような状態をなくして、困る人が少なくなるようにしたいというのが、当院をつくった原点です。お困りごとがあればすぐに専門のクリニックにかかってください。アドバイスがもらえれば展望が開けることはよくあります。ぜひお気軽にご相談ください。

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